原罪界

偽りの天国-原罪罪

傲慢界のさらに下、誰も存在を知らぬ禁域がある。
そこは初代悪魔王ルシファーが“創造に失敗した天界の残骸”。
表向き七大魔界は完成しているが、
白の玉座の基底層に“八番目”が封印されている。

一見すると暖かな光と蓮に包まれた、美しい理想郷に見える。
だがそこには生物が一切おらず、「生」が存在しない世界。
時間が完全に凍結し、永遠の朝焼けが止まったまま続く。
すべての建物、橋、柱は完璧だが“人の痕跡だけ”が残る。

神の祝詞や天使語の詩が刻まれているが、文字は崩れ誰も読めない。
天界第一層・シャ・マイムの不完全コピー。住民ゼロの空の天界。
世界そのものが「凍結された聖書風景」の断片で構築されている。

エデン追放の瞬間、ノアの洪水、ソドムの滅びが“停止したまま”漂う。
どれも動かず、音もなく、熱もなく、ただ“永遠に止まっている”。
それらは神の創造が途中でフリーズした結果の“中途半端な神話の残骸”。

原罪界には「食」も存在せず、飲食物は食品サンプルのように偽物。
祝福のパンも葡萄酒もタルトも、“見えるが噛めない・飲めない”。
食卓は“食べる直前”だけを再現し、幸福は永遠に届かない。
これは「欲望が決して満たされない」という神の失敗=罰の構造。

ルシファーはこの世界を封印し、
二度と創造に手を出さない戒めとして白の玉座の下へ隠した。
第八の魔界は、魔界最大の禁忌。
「触れるな。祈るな。思い出すな。」と記される“原罪の箱”である。

首都・スカラ・アド・カエルム

ラテン語で「天へ上る階段」。
容姿はサントリーニ島+天界建築を融合した白亜の街並み。
しかしこの街には、住民が一人も存在しない。
原型は“天界第一層・シャ・マイム”の構造を模したコピー世界。

神の創造が途中で止まり、「外観だけ完成した天国」の状態で凍結した。
空は永遠に朝焼けの色、太陽は昇りかけたまま止まっている。
影は常に薄く長く、どの建物も“朝の光に照らされた形”のみを維持。
通りには鳥の声も足音もない。完全な無音の楽園。
水路は澄んで美しいが、流れていない。ただ“流れているように見える”。

街の中央広場には天界紋章を模した巨大なモザイクが広がる。
高低差のある街だが、各所に魔導レールが敷かれ移動は快適。
家々には家具や食卓の配置が残されているが、すべて“使用直前の状態”で停止。
まるで住民が出かけた数分後のような気配だけが永遠に漂う。
窓辺には花、食卓にはパン、部屋には生活道具……全部触れられない幻影。

この街は“理想の朝”を永久再生し続ける、幸福寸前の牢獄。
止まった時間の中で、幸福の気配だけが漂い、永遠に満たされない空虚を生む。
原罪界の中心として、ここに触れる者は“創造の失敗”を理解する。
美しいのに、息ができない。そんな矛盾そのものがスカラ・アド・カエルムの本質。

「原罪界」“食文化

第八魔界・原罪界には“食文化”らしきものが存在する。
だがその正体は、神が創造を途中で止めた“食の模写”でしかない。
皿もパンも果実もスイーツも、全てが完璧な光の造形。
しかしそれらは物理的実体を持たず、誰も口に運べない。

神にしか食べられない“天界の晩餐”を模倣しようとした痕跡の残骸。
人間も悪魔も、ここでは永遠に“食べられない食事”の前に座らされる。
それ自体が「欲望を満たさないこと」に特化した罰の構造。
味も匂いも熱も無い。だが美しさだけは天界基準で完璧に仕上がっている。

一見すると美味しそうな料理だが、噛もうとすると硬質ガラスのよう。
触れた瞬間“パリン”と砕け散るものもあり、幸福感は徹底的に拒絶される。
この現象は「創造の途中で味覚と物質化の工程が凍結した」結果と言われる。

中央の“王座なき聖塔”には幻影の晩餐テーブルが存在する。
近づくと、その者の記憶から「最も幸福だった食事」が即座に再現される。
しかし再現されるのは必ず“食べる直前”の光景のみ。
一口も味わえない幸福の再現――それがこの食卓のルール。
子供の頃の誕生日ケーキ、家族の団欒、恋人との食事……どれも幻。

その幸福は指先に触れた瞬間、粉砂糖のように崩れて消える。
原罪界では“味わう”という概念そのものが存在しない。
食卓はあるのに、食事ができない。“完成直前の幸福”だけが永遠に残る。
見えるのに届かない食――それは欲望を罰するために生まれた、天界最大の失敗作である。