「お邪魔しま~す」
「果実酒ありますか~?リンゴ酒がいいで~す」
「はいはい。それよりステージを見な!始まるぜ」
「どれどれ」
ルッツと共に酒を頼みながらステージになっているところを見ると。
観客たちに拍手され男が出てくる、その格好は実にすごかった。
踊り子の衣装というやつなんだろうか。
腰に布や玉飾りを身につけ、胸元を大きく開けたセクシーな衣装だ。
露出度が高く正直目のやり場に困るくらいだ。
おまけに化粧もしていて、女のようにも見える。
「さぁ皆様お待ちかね!バルトロメオ、初めてくれ!!」
バルトロメオと呼ばれた踊り子が頷くと、その場で息を整えるように足踏み。
続いて腕を上に伸ばし、足を前後に開き腰をくねらせる。
その動きに合わせ腰布も揺れ、それを客たちは楽しそうに見ている。
やがて音楽が流れ始め、それに合わせて踊り始めると 徐々に歓声が沸き上がる。
そして踊りはどんどん激しくなり。
目が回ってしまうんじゃないだろうかと思うほどの速さでくるくる回り始めた。
(すごい……!)
(なんだこの動き……!)
(こりゃあ……とんでもないもん見ちまったねぇ)
(あの技の名前はなんていうんだ?)
周りの声をよそに彼はなおも激しい動きで踊る、回る、そして舞う。
(すごい……なんて体幹の強さよ、まったくブレやしない)
ルッツはそう感嘆する、実はエルフの里にいたとき。
儀式として舞を披露することもあったのだ。
なのでダンスの知識はそれなりにあると思っている。
だから目の前の男の凄さがよくわかる。
並大抵の努力では身につかない、センスと才能がなければできない代物だ。
実際、周りからも称賛の声が上がっている。
「いいぞ!もっとやれ!」
「バル~!こっち向いてぇ!」
声援に応えるように男はさらに舞い続ける。
その姿には余裕すら感じられるほどだ。
しばらくした後、ようやく曲が終わり。
男がお辞儀をすると喝采が起こり、彼は舞台袖へ去っていった……。
「よし、ダンサーの兄ちゃんに元気貰ったし俺たちも行くか、お勘定」
「はい。こちらになります」
「たっか!!?」
「やべぇ……高級バーだったか……」
思わぬ出費に頭を抱える。
確認せずに入ってしまったが、所謂貴族ご用達の高級バーだったらしい。
よく見れば調度品も高価そうなものばかりで、内装もかなり凝っていた。
「お前なぁ~!エルフなら水で我慢しろよ。水で!!お前が出せ」
「はぁ!?家出娘に金せびるの、あんたが出しなさい!」
「お前が酒飲むからだろうが!俺は勇者だぞ!?」
「うわ開き直った!みなさ~ん!ここに今世紀最大のクズがいまーす!!」
「おいやめろ、マジで殺されるだろ!!」
仕方がない、このまま騒ぎ立ててると出禁にされかねない。
背に腹は代えられないと金貨をカウンターにたたきつけ。
ルッツの首根っこを掴んで引っ張るように出ていく、まるで猫のようだ。
「離しなさいよ!服が伸びるでしょぉ!!」
「うるせぇ、いいから行くぞ」
そのまま店を出て、逃げるように立ち去っていく。
嵐のような二人に店員もきょとんとしていたが、すぐ営業スマイルに戻ったのだった。
そして、休憩を終え第二曲目に移っていたバルトロメオは……。
(勇者か……)
横目でガイウスとルッツが去った方向を見ていた。
確かにオーラが違うというか、普通と違う雰囲気を感じた。
そして彼が現れたということは……?
(あのキナ臭い皇子のこともいよいよ動き出すか……)
やれやれ、面倒なことになったものだ……と思いながら次の曲を踊るのだった。
それからしばらくして、二人はクードスの大通りを歩いていた。
道行く人々の表情は明るく、平和そのものといった様子だ。
やはり帝国は治安がいいのだろう。
街を歩いていても悪漢に襲われたりすることはまずない。
そんな街中で二人は歩きながら話をしていた。
「あたしが家出娘で路銀もろくにない位知ってるでしょ~よ。あぁ恥ずかしい」
「知ってるわ。だから俺は長年のカンで水しか頼まずに」
「ほんとに勇者なの?そうやって仲間ともケンカしてたんじゃない」
「……そ、それは、否定できない」
「あ。地雷踏んだ?ごめんごめーん」
(ったく、こいつはいつも一言多いんだよ!くそっ)
心の中で悪態をつくが事実なので何も言い返せなかった。
そこでふと疑問に思ったことを聞いてみた。
「そういやなんでついてきたんだ?」
「決まってんでしょ、あんたについていくためよ」
「なんで俺についてくんだよ?」
「そりゃあんたみたいな強い奴のそばにいれば退屈しないからね~」
(なるほど、こいつの目的は退屈しのぎってわけか)
だがまぁそれならそれでいいだろうと思い了承した。
1年前-魔王を倒したことで魔族は日に日に姿を消し。
大陸全体に平和な空気が流れている。
そんな時勢であてもなく旅するやつがいるとするなら余程の変人か。
もしくは目的があって探しているものかのどちらかだろう。
少なくとも、自分は後者だと思っている。
戦力は多い方がいい、自分ひとりだけで何とかできるほど甘くはない。
ふと前方を見ると人だかりができており、なにやら騒がしい様子だ。
何事かと思い近づいてみると、号外が配られているようで。
馬車に乗った騎士たちがビラを撒いている。
「ルチア・アンブロジア様じきにご結婚!?相手は亡国のプリンス!?」
そんな見出しがデカデカと書かれているのが見えた。
気になったので一枚取って読んでみることにする。
内容はこうだ、なんでもデリンクォーラ帝国皇帝が養子に迎えた男がいるのだが。
その男がなんとルチア姫と結婚することになったらしい。
しかもそれは勇者で、亡国のプリンスなんだと。
勇者はひとりではないというのは、自分自身が証明しているので。
今更驚くことではないのだが、問題はそこではなく……。
「おい、こいつ……この雷の化粧……まさか」
ガイウスの体の震えは酒から来るものではなく。
明らかな動揺によるものであった。
「どうしたのよ?顔色悪いわよ」
「うるさい黙れ」
ルッツの問いかけを無視しつつ、記事を読み進めると。
そこには衝撃的な内容が書かれていた。
『ルチア姫と婚礼を結ばれる予定の男の名はユピテルである』
ユピテルだと?そんな馬鹿なことがあるものか。
あいつは死んだはずだ、俺が殺したんだから間違いない。
それにあいつが生きていたとしてもなぜ帝国にいる!?
おかしいだろ、どう考えても!! くそッ……!!どうなってやがる!!!
頭が混乱してきた。一度冷静になるために深呼吸する。
あの男は保険のひとつかけていても変じゃない。何より。
「落ち着けキズ野郎!ここはね、逆に考えるのよ」
「逆!?何を逆に考えるんだ」
「もう1回殺せる!」
ルッツの言葉に混乱していた思考が一気に纏まっていく。
まだ生きてた。じゃあやることはひとつしかないだろう?
もう1回殺してやるだけだ!復活する気も失せるほどに徹底的にな!!
そうと決まれば、早速準備しなければ!
人だかりの中で、ガイウスは配られた号外を睨みつけた。
見出しに踊る名――ユピテル・ケラヴノス。
次の瞬間、紙は彼の手で縦に裂かれ、鋭い音が夜気に弾けた。
「じゃあまずは景気づけに」
ビリィィィィッ!と音を立て、微笑むユピテルの顔写真ごと号外が裂ける。
「いい音ー!」とルッツが茶化すように笑う。
だがガイウスの目は血の色を帯び、笑みの余地など欠片もなかった。
「次に仕留めんのは本人だ。……待ってろ、ユピテル」
破られた紙片が潮風に舞い、灯火の中で灰色の蝶のように散っていく。
その姿はまるで、次の獲物を宣告する死刑執行人の予告状だった。
千切れた号外のページが、風に舞って石畳の上を転がっていく。
ガイウスとルッツはそのままクードスの大市へと歩を進めた。
遠くでは猫がマイペースに寝返りを打ち、昼の平穏さを崩しもしない。
――彼が次に選んだ名は、勇者でも、追放者でもない。
断罪者だった。