アルキード編-聖夜に向けて - 2/5

「ロディ!ロディ起きろ。お前に手紙だぞ」
その翌日のアルドレッド家では、ロディの父が布団にくるまって眠る息子を起こしにかかっていた。
「う~ん……あと5分……」
「馬鹿者!早く起きなさい!」
ロディの父は布団をひっぺがすと、息子の鼻をつまんで起床させる。
そしてようやく目を覚ましたロディは目をこする。

「父さん、おはよー」
「おはようじゃないわ!お前宛の手紙が来てたぞ」
「……手紙?」
寝ぼけ眼で父から手紙を受け取る。
開封して読んでいる内に意識が一気に覚醒した。
ラピアの冒険者ギルドの定員に空きが出来たというものであった。
そうだ。受付嬢と約束したのである、空きが出来たら入るので登録お願いしますと。

「すげぇ!ほんとに来た……口約束と思ってたのに」
「ギルドの人間は律儀じゃなきゃやってられんさ。
お相手もお前が登録しに来ると信じて待ってたんだろう」
「そうか……そうだよな!」
今からガイウスのように超人的な力を持つ勇者になることはできない。
だが「勇者代理」として確かな実力を身に付けておきたかった。
この国を覆う暗雲を払う為にも。

「父さん、俺ギルドの試験受けるよ」
「そうか、なら準備しないとな。まずはその寝癖を直せ!」
「はーい」
ロディは父に急かされながら身支度をするのだった。

「ではこちらの水晶に手をかざしてください」
冒険者ギルドの受付嬢はそう言うと、ロディへ登録用の魔道具を手渡す。
ガイウスは経験していないことだ、彼はいきなり勇者として駆り出されたので。
冒険者として登録していなかったのである、つまりあの怪物染みた強さは生来のモノだ。
「お!反応した」
「はい、これで登録は完了です」
「はぁ良かった……改めて、ありがとうございます。定員空いたらお願いしますって約束守ってくれて」
「いえ。勇者の弟が所属しているというのは、うちのネームバリューにも繋がりますし」
「え?でも俺、まだ冒険者としては新米ですよ?」
「ええ。ですが勇者代理としてなら十分です」
受付嬢の言葉の意味を測りかねるロディに彼女は続ける。

「アルキード王国は魔族との戦いで疲弊しています。
そんな時に新たな英雄が登場すれば国民も希望を見出すでしょう」
「……なるほど、そういうことですか」
「それに貴方はあのガイウスの弟君ですし。才能は確かなものと思われます、
ただ今は眠っているだけ、そう見ています」
「はは……」
受付嬢の鋭い指摘に苦笑いするロディ。
だが確かにその通りだと自分でも思うのだ、彼はまだ眠っているだけなのだから。
(でも今は……)
今出来ることをしよう、そう思った。
「では試験を受けて頂きます」
「はい!」

——

「就職おめでとうございます。ロディ」
「就職……就職ていうのか?まぁ確かに」
試験は思ったよりすぐ終わり、ロディはレオノーレと共に昼下がりのラピアを散策していた。
聖夜祭目前という事で、各所にクリスマスツリーが飾られ。
道行く人々は皆、どこか浮き足立っているように感じる。

「しかし……試験はあれで良かったのですか?私はてっきり戦闘試験かと思っていたのですが」
「うん、俺はまだ戦いに慣れてないから。だから筆記試験と面接だけだった」
「そうですか……」
レオノーレの疑問も尤もだ。
だがロディには考えがあったのだ、がむしゃらに戦うだけじゃダメだ。
その場に応じ最適な行動をとれるかが大事なのだ、と。
「では今日は就職祝いに、酒場へ行きますか」
「え!?レオノーレさん、酒飲めるの!」
「聖教信徒は洗礼が成人の証ですので、15歳から飲めますよ」
どおりで大人びているわけだ。と驚き半分納得もする。
アルキード王国の成人は18歳から、つまり酒が飲めるのは3年後である。

(酒か……3年後、俺はレオノーレさんと酒を飲み交わせるだろうか?)
「ロディ、行きますよ」
「あ!はい今行きます!」
2人は連れ立って酒場へ向かう。
そして冒険者ギルドの方を振り返る、思えば自分はずっとガイウスの背を追っていて。
彼のおさがりを貰ったり、彼の真似をしてばかりいた。
だがこれは違う、ロディ自身の決断だ。
ここにきて初めて彼は「勇者の弟」から独り立ちした。
「ロディ?」
「……なんでもないよ、行こう!」
「ええ」
そして2人は酒場へ入っていった。

——

「なぁなぁ、知ってるか?アルキード霊園に女の子のお化けが出るらしいぜぇ~」
「や~め~ろ~!俺そういうのマジ苦手なんだぞ!!」
アルキード騎士団、団長がいない完全な自由時間というのもあってか。
酒場ではバカ騒ぎが繰り広げられていた。
最近霊園に女の子の幽霊が出るそうだ、顔は全然見えず。
でも時々発する泣き声などから女の子なことはわかっているらしい。
「おいおいマジかよぉ、怖いなそれ……」
「いやそれがそうでもないらしいぜ?
なんかその子と話が出来るらしくてさ、そんでもって……」
『私はずっとここにいます』と、そう言っているらしい。
よほど強い未練が在るのだろうか……成仏させてあげたいものだが。
彼女が何者かわからない以上はどうにも出来まい。

「…ミルクください」
「私はリキュールで」
「ははは!ミルク頼みやがってあのガキぃ」
「わ、悪かったなー!まだ酒飲めないんだよー!!バーカッ」
騎士たちに精一杯の悪態をつきロディはテーブルに座る。
レオノーレはミルクを飲んで何が悪いというように、リキュールを傾けていた。
「まったく……しかし女の子の幽霊ですか。確かに気になりますね」
「でしょう!?なんかあるよ絶対!」
「まぁまぁ落ち着いてください。
仮にその少女が本当にいるとしてどうなさるつもりですか?」
「そりゃもちろん話を聞いてあげるんだよ!」
その言葉にレオノーレは首を横に振る。
幽霊が悪霊だった場合は当然戦わねばならないわけだが。
霊体への有効打をロディは持っていない、霊体は実体を持たぬ存在。
通常の武器では決して傷つけられないのだ。
そのため戦うときは必ず聖職者か術に長けたものを連れて行くしかない……。

「……いいですか?少女によってはすぐ退却いたしますよ」
「はい……あ、店主さんありがとうございました……美味しかったです」
わざわざ言わなくていいのにという顔されたが。
言われて悪い気はしないのか、そうかいと笑ってくれ。
レオノーレとロディは代金を支払い。
手を振りながら夜の酒場を後にするのであった。