アルキード編-GRAVITY FREE - 2/6

「レオノーレさん!ここです……俺はここです!!」
「すみません……ここからでは幻術を解除できません。
私の手が届くところまで来なさい!」
「はい!!」
間違いない、レオノーレだ。
ロディは声がする方へ幻のディノス村を走り抜ける。
だがただで解放してくれるわけがなく、ガイウス姿の幻が。
家のドアを蹴破り飛び出して来ると追いかけてくる。

「待ってくれロディ!行くな!行かないでくれ!」
「待つもんか偽物!本物は大陸にいるんだ!
偽物に愛されても嬉しくないんだよっ!!」
「嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だぁ!俺を置いていくなよぉ!!」
「うるさい!もうお前の思い通りにはならない!」
必死に逃げるロディ、だが幻のガイウスはすぐそこまで迫っている。
そしてついに追いつかれてしまい、腕を掴まれてしまう。

「離せっ!!離せよぉ!!」
「嫌だ……離したくないんだ……頼むから一緒にいてくれ……。
お前にまで拒絶されたら、俺は……俺は……」
昔、兄がこんな風に泣いた事があった。
虹色の目を災厄の象徴と言われて、村中から迫害されていた。
あの頃も今のように泣きじゃくっていた。
その姿を見てロディは胸が締め付けられるような感覚を覚えるが。
ここで絆されたらまた同じことの繰り返しだ。

「離せよ!!このっ!!」
「あぐっ!?」
思いっきり頭突きをかまし怯ませると、そのまま腕を掴んでいる手を振り払い距離を取る。
だがすぐに距離を詰められてしまい再び腕を掴まれてしまう。
「お前は幻影だろ!幻なら消えろ!!」
「ねぇロディ……何度も子守唄歌ってあげたよね?
かくれんぼもしたし、おままごとだってやったよね? だから……ね?一緒に帰ろうよ」
「うるさい!ここはディノスじゃない!!」
そう叫ぶと再び走り出そうとするが今度は足を掴まれてしまい転んでしまう。
それでも必死に抵抗するが力では敵わずずるずると引きずられてしまう。
そしてついには村外れの崖まで連れてこられた。

「ねぇ、お願いだよ……行かないで、俺を置いていかないで……お願いだから……」
やはりここはディノスじゃない、とロディは景色で実感する。
門から先が断崖になっていて、底なしの闇が広がっていたからだ。
「こんな場所には行けない、俺は……俺は……」
元の世界に帰りたい、そう言おうとした瞬間-。
「あぐっ!?」
突然首を掴まれ持ち上げられる。
そしてそのまま地面に叩きつけられた。

「がはっ!げほっ!!」
咳き込む暇もなく馬乗りになると首を絞められる。
息苦しさと痛みに耐えかね、必死に抵抗するがビクともしない。
(く、くそぉ……)
意識が遠のき始める中-ふと幻のガイウスは「また、一緒に暮らそう?」と呟いた。
(兄ちゃん……ごめん……俺、もうダメかも……)
その時だった。

『汝、我が名において命ずる。煉獄より来たれ!紅蓮に燃ゆる炎よ!!』
レオノーレの声が響き渡ると同時に、崖から炎が噴き上がる!
その勢いは凄まじく、まるで噴火したかのようだ。
「熱ぅっ!?」
思わず手を離してしまう幻のガイウス。
その隙にロディはなんとか逃げ出すと地面に手をつく。

「はぁ……はぁ……げほっ……」
「大丈夫ですか!?」
レオノーレが駆け寄ってくる、どうやら彼女が助けてくれたらしい。
だが今はそれどころでない、幻のガイウスが再び襲い掛かってくるだろうからだ。
「あ、ありがとうございます!でもまだあいつが!」
「……ウラヌスの作り出す幻影ですか、厄介な」
向こうで幻のガイウスは先ほどまでの。
何としてもロディを引き留めようとする様子はどこへやら。
今は俯いていてブツブツと何か呟いている。

「くそっ……くそっ!!なんで……俺の思い通りにならないんだ……」
「兄ちゃん」
「ロディ!俺の言うこと聞けるよな!?そんな女なんか置いてここに居よう!ここに……永遠に」
「違う……」
ガイウスはそんなこと言わない。
彼は自分の意思を尊重してくれる、ちょっと陰険だが高圧的に強要したりはしなかった。

「兄ちゃんは幻なんだ、偽物だ」
「違う!俺は本物だよ!!」
そう叫ぶとディノス村の景色が歪んでいく。
そして再び現れたのは先ほど見た赤い空と崩壊した村だった。
だが今度は家が燃えていたりなどはせず、まるで廃墟のように荒れ果てているだけだ。
しかしそれを見てもなお幻影のガイウスは続ける。

「どうしてわかってくれない!?俺はお前を愛してるんだ!!
こんなにも想っているのに!!お前は俺の想いを受け止めてくれないのか!?」
「兄ちゃん……」
「だったらもういい……無理矢理にでも連れて帰る……!!」
そう叫ぶと幻のガイウスは魔力を放出し始める。
その瞳の色は虹色ではなく、血のようにドス黒い赤色だった。
そして次の瞬間、彼の体に変化が訪れる。
側頭部から角が生えてきたのだ。
さらに爪や翼なども生えてきて、その姿はまるで悪魔そのものに変わっていた。

「ひゃああ!?兄ちゃんが悪魔になったぁぁ!」
「夢魔です。やはり……!精神世界に入り込める悪魔といえば」
「う、うわああああ!!」
もう完全に理性を失っているのだろう。
ロディは恐怖で腰が抜けてしまい立てない。
幻のガイウス-いや夢魔はそんなロディの首を掴むと持ち上げる。
そしてそのまま絞め殺そうとしてきたが……。

「させません!はぁああっ!!」
レオノーレが剣を振るうと夢魔の腕が切り裂かれる。
その隙に彼女はロディを抱き抱えると一気に距離を取る。
「大丈夫ですか!?」
「は、はい……なんとか……」
「よかった。ですがあの悪魔は厄介です、夢魔は精神世界に入り込みます。
心を引き裂き、恐怖を与えることで相手を操るのです」
「そ、そうなんですか……あぐっ!?」
再び幻影のガイウス-夢魔が襲いかかってくる。
今度は鋭い爪を立てて突進してくるがレオノーレは剣で防ぎつつ、反撃を試みる。
だが素早い動きで避けられてしまい逆にカウンターを受けてしまう。
「なあロディ!取引しよう、お前がここに留まれば。
この女を殺したりなんかしない!だからこっちに来い!!」
「う、うう……」
夢魔はレオノーレを足蹴にしながら言う。

「ほら、早くしないとこの女が死ぬぞ?いいのか?」
「くっ……この卑怯者……!」
「なんとでも言え、俺は欲しいものを手に入れるためならなんでもする」
そう言うと再び夢魔はロディを捕まえようと手を伸ばす。
しかしロディは手を取らない、ただ悲しそうに首を振るだけ。
「なんで……お前が大好きなガイウスなんだよ?兄ちゃんだよ?ずーっと一緒に暮らせるんだぞ?」
「違う!兄ちゃんじゃない!」
「いいや違わない、俺はここにいる」
すると夢魔の手に禍々しい魔力が集まっていく。このままじゃ……!
其処でロディはポケットを弄り引っかかるものに気づいた、聖水の小瓶だ。
今使わずしていつ使う?だが同時にそれはガイウスの姿をした魔物を浄化させることに意味していた。

「う、うぅ……」
「ロディ!迷ってはいけません!」
レオノーレの声が聞こえるが、それでも決心がつかない。
しかし夢魔はそんな様子に業を煮やしたのか-。
「ならもういい!!お前ごと殺してやる!!」
夢魔の手が迫る。
もう躊躇っている余裕なんてない!ロディはポケットから取りだすと。
前歯でキャップを取り外し、 そのまま聖水の瓶を叩きつける。
「ごめんね……!」
小さく謝罪し、そのまま夢魔にぶっかける。
聖水の瓶が砕けると同時に、夢魔は苦しみだした。

「な、なんだこれ!?痛い!痛いぃぃ!!」
「兄ちゃんごめん……」
夢魔が化けた偽りのものと知っているが。
ガイウスの姿で悶え苦しむ姿を見て罪悪感が湧いてくる。
だがここで手を緩める訳にはいかない。
レオノーレは夢魔に剣を突き立てると、 そのまま切り裂いた。

「ぎゃああああ!!!」
断末魔の悲鳴と共に夢魔の姿が消えていく。
同時に偽りの故郷は霞のように消えていき。
やがて完全に消滅したことを確認すると、ロディはその場にへたり込んだ。