アルドレッド家居間にて、食卓に4人の影があった。
今日のメインディッシュは鳥の香草焼きだ、パンと野菜のシチューもたっぷり用意されている。
「さぁ召し上がれ!遠慮しないでいいのよ?」
「ありがとうございます。いただきます」
レオノーレが食事を始めると、家族たちはそっと部屋から退室していった。
気を遣ってくれたのだろう、しかし2人きりになったところで早速料理について聞かれる。
「あれ。聖教の信者さんって戒律で肉がだめじゃなかったっけ……?」
「もてなしで出されたものは食べてよいのです」
「あ、そっか。じゃあいただきます!」
そして2人きりの夕食が始まった。
レオノーレは無表情だ、美味しいものを食べさせれば少しは綻ぶかなと期待したが。
ただ静かに食べているだけ、内心ちょっとがっかりするが長く付き合ううちに。
なんとなく理解できるようになった、喜んでいるなと。
彼女の手はフォークとスプーンを器用に使いこなし、シチューを掬い口に運ぶ。
「おいしい?」
「はい」
そう短く答えるとまた黙々と食べ始める。
レオノーレは食事中あまり話さない人なのだな、と理解したロディは自分も食事を再開させた。
「ねぇレオノーレさん」
「なんでしょう」
「……あ、いや……なんでもないや」
2人の間に沈黙が流れる、だがこの沈黙は気まずいものでなく、どこか心地よかった。
珈琲のカップを揺らしながらレオノーレは向こうのロディの母へ「あの」と話しかける。
「勇者様はいつからこの家にいるのでしょう?」
「ええ、そうね。ロディちゃんが生まれて直ぐのころから」
「……血縁が無いと聞いたのですが。なれそめは?」
「不思議な子だったわねぇ。そう、ガイウスちゃんは……」
——
その日のディノスは大雨で、外の仕事も出来ないという事で夫妻は寝ようとしていた。
だがいつもは大人しいロディが。何故かその日に限って激しい夜泣きをした。
「どうしたのロディちゃん?お~よしよし……ママはここですよ」
泣き止まないロディをなんとかあやそうと。家の外へ出る事にした。
ロディは風が好きな子で、夜風にあたるとぐずっていても泣き止んでくれるのだ。
だから泣いているロディを家の裏に連れていった、少しでも外の空気にふれさせてあげようと。
「風は気持ちいい?ほら雨の匂いもするわ」
おかしい、いつもなら泣き止むのに。
どうしましょう、こんな雨の夜に神父様を呼ぶのもとオロオロしていた時だ。
――その声に導かれて、
ずぶ濡れの少年は家の灯りへと歩き出した。
理由なんてなかった。ただ“そこに泣いている子供がいた”から。
もしも、あの子が泣かなければ。
もしも、自分が足を止めなければ。
この家の「扉」は、二度と開かなかったかもしれない。
「!……ぼうや、だれ?」
ロディの泣きじゃくる声に導かれるように、全身ずぶ濡れの少年がやってきた。
見たことない子だ、もしかしてこの雨の中を歩いてきたのか?一人で?
少年は呆気にとられた夫人を見上げ、しばらく立ちすくんでいたが。
「その子を」
「え?」
「その子を、おれに」
少年が手を出すまま恐る恐るロディを抱かせると、少年は寒さに震えた声で子守歌を歌う。
それはまるで子守唄というより。泣いているように聞こえた。
やがてロディが泣き止みスヤスヤと眠り始めた頃。
「ありがとう……この子を助けてくれて」
「……おれはなにもしてない」
少年はそう言って立ち去ろうとする、その背中を見て思わず呼び止めていた。
「待って!」
「……」
もう雨に濡れる事はないというのに。
全身ずぶ濡れで立ちすくむ少年に言ったのだ。
「貴方も寒いでしょう?家に入りましょう」
陽だまりのような笑顔に少年は頷き、部屋に招き入れられた。
「それがガイウスちゃんの出会い。正しくは私たちがあの子にガイウスって名をあげたの」
「名づけ親でしたか」
「ディノスはまだ地母神信仰が残っててな。大地の神からとって名をつけた」
「じゃあ勇者様の本名は……」
「ルシウスっていうの。ルシウス・テルース・アルキード」
名乗ってくれたわけじゃない。
だが出会ったときガイウスが着ていた服は村人のものにしては上等なものだった。
それに最初は知らなかったが着ているうちにわかった。
その服にはルシウスと縫い取りがなされていたのだ。
このディノスはかつて才能を疎まれ流罪された、アルキード王族が流れ着いた地とされる。
彼はその王族の末裔か、詳しくはわからないが1つ言えるのは。
あの夜-ロディが夜泣きをしなければ、きっとあの子と出会うことはなかった。
「ふふっ……なんだか運命的ね」
「うん!確かにそう!」
家族全員の笑い声が居間に響き渡る、レオノーレはそんな様子をじっと眺めていた。
それまで大神官から聞く形でしか知らなかった、ガイウスの解像度が一気に上がった気がした。
家族との食事を終えたロディはレオノーレに泊まっていくように勧めた。
断る理由もないレオノーレが頷くと同時に母親は大はしゃぎだ。
「じゃあ今日は一緒に寝ましょうか」
「はぁ……!?母さん何言ってんの!?」
「あらあら、だってこんな機会もう無いかも知れないじゃない!いいでしょ?レオノーレさん?」
「はい」
あっさり承諾するレオノーレ。
この世の終わりのような顔をするロディを尻目に母は続ける。
「じゃあロディちゃんはお兄ちゃんのベッドで寝てね」
「え、ええ!?」
「だってガイウスちゃん帰ってこないのよ?あの子の部屋で寝なさい」
そう言われてしまえば仕方ないとロディはしぶしぶ頷いたのだった。
2人はベッドに潜り込む、だがお互いなんだか緊張して中々寝付けない。
そんな様子を見かねてかレオノーレがそっと口を開く。
「……今日はありがとうございます、泊めていただいて」
「い、いや!全然いいよ!」
「姫の事などは明日から調べましょう。今の姫は……何かが変です」
「……そうだね、でも今は眠ろう。夜更かしは身体に良くないよ」
そういって先ずロディが先に毛布を被る。
理由は2つ、お腹いっぱいかつ風呂上りってことで眠い事。
もう1つは気になる女の子が隣で寝ていると意識すると、 緊張して眠れないからだ。
「おやすみレオノーレさん」
「おやすみなさい」
そして2人は眠りにつくのだった。