ノワール区の街並みに、突如とてつもない地鳴りが響きわたった。
黒鉄の巨体が路地を這い、無慈悲に石畳を砕く。
魔導戦車が、無言のまま、家も人も構わず蹂躙しながら進んでくる。
悲鳴と怒号。
住民が転げるように逃げ惑い、どさくさに財布や野菜まで飛び交う。
誰かが「終わりだァ!!」と絶叫すれば、子どもが「ワンコ兄貴ー!」と泣きながら走り出す。
その横で、どさくさに猫が魚を強奪して逃げている。
そのど真ん中で、勇者ズ三人は完全に置いてきぼりだった。
「おぉぉい!?戦車!?いきなり戦車かよ!!!」
ガイウスの叫び声も、轟音にかき消される。
ヴィヌスは涙目で、ガイウスの腕を思いきり掴む。
「嘘でしょ……私、今日舞台で死ぬ役だったのに……まさか現実で……」
サタヌスは無駄に元気に瓦礫をジャンプでかわしながら。
「ギャル!雷!早く!!!俺、マジで死ぬって!!!」
路地には爆発音、上から瓦礫、斜め前からは人ごみ。
その中でヴィヌスは涙目&八つ当たりモード。
「なんで“勇者”ってだけでこんな目に……こっち来んなああ!!狙われてるぅぅぅ!!」
ガイウスは半分ヤケになり、ヴィヌスを盾にしようとして跳ね返される。
「無理だ!お前が盾になれよ!」
「やだ!!レディーファースト!!!」
「“ギャルファースト”ってことで頼む!!」
サタヌスはギャグなのか、本気なのかわからない叫びを上げつつ。
「瓦礫は踏み台!」「雷頼むー!」ととにかく叫ぶ。
その頃――上空のスクリーンに、外道な高笑いが響く。
「どうしたァ?もっと頑張れよ!
魔王軍は最初から“オーバーキル”が基本なんだよォ?」
遠巻きの魔王軍兵士がポツリ。
「……やっぱやりすぎじゃないっすかね、ユピテル様……」
「いいんだよ、ネズミ掃除は徹底的にやんなきゃ意味がねェ。
生き残ったら褒めてやるよ、“勇者サマ”?」
カオス極まる戦場。
逃げ惑う人々、ギャグとパニックでテンション迷走の勇者PT。
史上最悪の“街パニック祭り”が幕を開けた!
ノワール区は、今や地獄絵図。
魔導戦車が道路も家も人もまとめて轢き潰し。
パレードの音楽と爆発音がカオスに混ざり合う。
勇者ズ三人は、瓦礫の山に囲まれて絶望顔。
ガイウスは肩を震わせ、青ざめた顔で叫んだ。
「なあ……本来こういう大幹部ってさ!?
王様ポジでどっしり構えて“フフン、好きに暴れろ”くらいの余裕あるよな?
俺、まだレベル二桁すら怪しいぞ!?」
ヴィヌスは真っ青な顔で後退りしながら叫ぶ。
「えっ、えっ、えっ……私、あの…アルルカンの劇場出身なんですけど!?
戦争シナリオとか聞いてないんですけど!!」
サタヌスはヤケクソで拳を振り上げる。
「これじゃ“歴代勇者”も誰も城にたどり着けるわけねぇだろぉ!!
まず街ごとミンチだよ!!やっぱ魔王軍マジで頭おかしい!!!」
空のスクリーンでは、ユピテルがあっけらかんと笑いながら追い打ちをかける。
「ハハ、文句あんなら力でどうぞォ?
始まりだからって加減する趣味はねぇンだわ」
ガイウスは膝をついて、呟くように言う。
「歴代の勇者……俺らと同じ目に遭って、ここでゲームオーバーだったんだな……」
サタヌスも苦い顔で同調。
「冗談抜きで、1回死にかけるイベントすらオーバーキルじゃねぇか」
ヴィヌスは頭を抱えて。
「二章にすら進ませてくれないラスボスってどうなの……」と絶望の嘆き。
遠巻きに、戦火に逃げ惑う住民たちがささやき合う。
「これじゃ勇者でも何でもねぇよ……城どころか橋も渡れねぇって」
「また“今年の勇者”が消えたか……合掌」
空も地も、味方もモブも、全員が「詰んだ」と思っていた。
歴代勇者が“越えられなかった難易度”を前に。
勇者PTの本気とギャグ根性が今、試される――!
「いや確かにね!私、魔法使えるけどね!!?
でも!あの戦車のアンテナ――絶対“ジャマー”よ、わかる!?
なんも感じないもん、魔力!!」
ヴィヌスがキレ気味に叫び、サタヌスが半泣きで混乱する。
「ジャマーってなにいいいいい!?
説明しろ!!こっちただの殴り合い要員なんだけど!!」
ガイウスは、爆発の向こうでアンテナを指差して絶叫。
「多分ンン!あの戦車のアンテナみてぇなのがそれだあああああ!!
つまり――俺ら全員、魔法使えねぇ!!物理しか無理!!!」
「初手から戦車と魔法封印かよ……魔王軍、容赦なさすぎるだろ……!
まだ俺ら勇者になったばっかなんだけど!?!」
ヴィヌスは本気で動揺し、絶望を露わにする。
「ちょ、待って待って、本気でヤバいって!
せっかく勇者PT結成したのに、開始早々バッドエンドぉ!?
婚約破棄エンドでもまだ前兆あるわよぉ!!!」
アルルカンの舞台では、“婚約破棄”エンドが来ると。
必ず“そのあと”に更なる追い詰めシーンが控えている。
王子や公爵様に名指しで罵られ、観客席の空気も一変。
役者も客も“魂の一番底”まで叩き落される。
それを演じきる役者こそ、“主役を食う悪役”だと。
ヴィヌスは心から知っているのだった。
その瞬間――ヴィヌスの手の甲が、まばゆい光で満たされる。
“聖痕”が土壇場で発動し、彼女の身体がビリビリと輝き始めた。
「――何コレ!?身体が……勝手に……ッ!?
……ダメ、負けたくない!この街も、あんたたちも守りたいのに!」
ジャマーを弾き飛ばす力が輝き、ヴィヌスの魔法が解き放たれる。
ガイウスは驚愕しながらも叫ぶ。
「ヴィヌス!?今、一瞬魔法が通ったぞ!やっぱお前、ただのギャルじゃなかったんだな!」
サタヌスは涙目で託す。
「金曜女ァ!マジで頼む!派手にぶっ壊してくれえええ!!」
覚醒したヴィヌスは、舞台女優のごとく叫んだ。
「……私のステージはまだ終わってないッ!!雷よ――貫け!!」
ヴィヌスの掌が放つ一条の稲妻が、戦車のジャマーアンテナを真正面から貫いた。
一瞬、あたりが真っ白な光に包まれ。
そして、あまりにも静かな“無音”の時間が流れる。
砕けたジャマーの残骸が地面に落ちるまでの一瞬。
世界から、すべての音が消えていた。
次の瞬間、魔導戦車がギギ……ッと不穏な音を立て、進軍をピタリと停止。
続けざまに、砲身が唸りを上げて機銃モードへと切り替わる。
だが――勇者ズの三人は、確信と共に前に出る。
ガイウスが拳を握りしめ、叫ぶ。
「いけるぞ!こっからが俺たちのターンだ!」
ヴィヌスは女優のごとく華やかに微笑む。
「さあ…ショータイムよ!この曲、踊りきれるかしら?」
サタヌスは満面の笑みで拳を振り上げる。
「やっと…こっちの番だああああ!!」
その頃、遠く魔王軍通信室。
ユピテルは、通信機の向こうで頬杖をつき。
破壊されたジャマーの映像を静かに眺めていた。
「舞雷……今回の勇者は骨があるみてぇだよ」
その金色の瞳は、画面の中で雷をまとったヴィヌスをじっと、鋭く見据えていた。
ジャマーを失った魔導戦車が、金属の咆哮を響かせて再始動する。
戦車の砲塔がギギ……と唸り、次の標的を探している。
周囲の瓦礫と炎の中、勇者ズ三人は生身のまま対峙した。
サタヌスが叫ぶ。
「なぁ、反撃つったけど俺、戦車と生身で戦ったことねぇぞ!?」
(大体の人間はそうです)
ガイウスはキレ気味に瓦礫を蹴り上げる。
「バズーカ持ってこいよ、この野郎!!」
ヴィヌスは額に汗を浮かべ、しかしその目は決して諦めていなかった。
「ないわそんなもん!!自力でぶっ壊すしかないわ!」
戦車の機銃が唸り、火花が飛び散る。
鉄と煙と雷、三人はそれぞれの得意分野で“人間VS機械”という異様な戦場に飛び込んでいく。
サタヌスは足場を活かし、屋根から屋根へ跳ねる。
(……戦車の上、死角を取るしかねぇ!)
ガイウスは一瞬の隙をついて、戦車の横腹へ全力疾走。
銃弾を紙一重で避けながら。
「おいヴィヌス!もう一発頼む!!」
ヴィヌスは、砲塔の動きを読みながら雷の魔力を指先に集中させる。
まだ身体は震えている――だが、怖いのは諦めることだけだった。
「……行くわよ、“ギャルの雷”なめないで!」
戦車の金属装甲が爆ぜ、煙の中で三人の声が交錯する。
絶望的な戦力差――だが、“人間らしさ”だけは。
戦車にも、魔王軍にも絶対に真似できなかった。
戦車の機銃が唸り、周囲はもはや瓦礫と炎の地獄絵図。
その混乱の中、ガイウスがふと思いついたように叫ぶ。
「オイ!?戦車ってさ、そもそも中に乗り込んでるヤツいるよな!」
サタヌスがニヤリと悪ガキ顔で応じる。
「ハッチこじ開けるか!?外から“こんにちは”だ!」
ヴィヌスは半ば呆れ、半ば本気で答えた。
「名案ね!でもどうやって飛び乗るつもり!」
そのとき、三人の視線が同時に一点――壁から突き出たスチームパイプに集まる。
配管の上、ぐらつく金属板――普通なら見逃すような脇道が、今は“最強の足場”に見えた。
ガイウスが満面の笑みで拳を突き上げる。
「スラム流乗っ取り作戦、開始だぁぁっ!!」
サタヌスが最初に駆け上がり、ヴィヌスはブーツでパイプを蹴ってジャンプ。
ガイウスは勢いよく配管を駆け、三人同時に“スラムの野良犬ムーブ”で。
戦車の車体へ突撃する!
魔導戦車の装甲が軋み、スラムの悪知恵と勇気が。
ついに最強の兵器が“人間の手”でぶち抜かれる!
三人はパイプを駆け抜け、魔導戦車の車体にしがみついた。
サタヌスが全力でハッチをこじ開けると、中には誰もいなかった。
操縦席は自動で光を放ち、複雑な魔導コンソールだけが唸りを上げていた。
「誰かが遠隔操作してるッ……誰が!?」
ガイウスが奥の操作盤を見て叫ぶ。
「あぁもういいわ!ビリビリして目障りよ!」
ヴィヌスが怒りを込めて、指先に雷の魔力を集める。
次の瞬間、ヴィヌスの掌から奔った稲妻が。
コンソール全体を一気にショートさせた。
閃光と共に、基盤が黒く焦げる。
魔導戦車は断末魔のうなりを残し、ついに完全停止した。
街のど真ん中で、止まった巨体を見て、住民たちが息を呑む。
「止まった……」
一方その頃、魔王軍の通信室では、ユピテルが退屈そうに机を指でコツコツと叩いていた。
だが、戦車のカメラが沈黙するのを見て、その手をゆっくり止める。
「遠隔操作に気づいたか、あのダークエルフ……良いね。今回の勇者……マジでさ」
金色の瞳が、スクリーンの向こうを静かに見据えていた。