激闘のあと、三人はスラムの屋台裏で串焼き片手に座り込んだ。
ヴィヌスがススまみれの頬を指でなぞり、ふぅと息をつく。
「はぁ、久しぶりに転びそうになったわ、見てこのスス。ひどくない?」
「風呂入りたい……」
ガイウスも同じく真っ黒。お互い顔を見合わせて苦笑い。
そんな二人の横で、サタヌスだけは全然平気な顔。
安定の褐色肌はススどころか全く目立たない。
「何見てんだよ?俺、日焼けしてんの。」
ガイウスが突っ込まずにはいられない。
「いや絶対ウソだろ!お前どう見ても中東系の顔だぞ!!」
ヴィヌスも冷静に毒を吐く。
「ちょっと色黒すぎない?紫外線の仕業じゃ説明つかないでしょ……」
屋台の周りにはスラムキッズたちも集まってきて。
「それ、前も言ってた~!」「絶対どっか砂漠の王子系っしょw」
とからかいの声が飛ぶ。
屋台のおっちゃんも肩を揺らして笑い。
「お前の肌の色、街で一番健康的だな!“ラクダ乗ってる顔”だもんな!」
と賑やかに声をかけた。
サタヌスはニヤリと笑い、遠い日のことを思い出す。
「昔の俺、演技すりゃ貴族も騙せるくらいの顔してたんだけどな?
でも決まって目を見た途端、後ずさるんだよ。ありゃ面白かったぜ」
ヴィヌスはサラリと毒舌を重ねる。
「渦巻き模様だものね、顔が可愛いから余計目立つのよ。――異形が」
サタヌスは屋台の灯に照らされながら。
「異形ねぇ。おかげで“グルグル目”って呼ばれてたしな」と肩をすくめる。
少年時代のサタヌスは、いつもボロボロのシャツと穴の空いたズボン。
それでも、くしゃっと笑えばどこか野良猫のような愛嬌があった。
スラムでは「サータ!」と声をかければ。
どこからともなく現れては小石やビー玉、時にはアメ玉を自慢げに見せてくる。
誰よりも足が速くて、誰よりも木登りが上手く。
遠くから見るぶんには「スラムの元気なガキ大将」で。
実は貴族の令嬢や見習い騎士たちの間でちょっとした人気者だった。
そんなある日のこと。
町の広場で、上流階級の子どもたちと一緒に遊んでいたサタヌス。
はしゃいだ拍子に、ふと振り返った拍子、目が合った。
貴族の少年がふとサタヌスに微笑みかける。
が、サタヌスが返した“ぐるぐる渦巻き模様の瞳”を正面から見た瞬間。
その少年は、バッと数歩後ずさり、顔を引きつらせた。
「え……な、なにその目……?」
広場にざわめきが走る。
女の子たちも「え、なんか怖い!」と後ろに隠れてしまう。
サタヌスは最初、その理由がわからなかった。
だが、何度も同じことが繰り返されるうち。
「あぁ、俺の“この目”は、みんなと違うんだ」と気づくようになった。
それでもサタヌスは。
「ま、目が違うくらいでビビってくれるなら楽だよな」
と、野良猫みたいな強がりを隠さなかった。
遠くから見る分には“可愛い”。
けれど、近づいて本当の目を見ると、“異形”。
サタヌスの子ども時代は、いつもその境界線の上を歩いていた。
ガイウスは串焼きを齧りながら。
「まあ、お前はお前だろ。目ぇ合わすとなんか負ける気したわ」と。
苦笑まじりに本音をこぼした。
ススと笑いと過去の記憶。
命を懸けた戦いのあとの、夜の屋台。
この街でしか味わえない、特別な“生きてる実感”だった――。
—-
串焼きで小腹を満たした勇者PTは、夜の教会へとじりじり接近した。
教会の窓の隙間から中を覗くと――そこは“悪夢的な平和”が広がっていた。
壇上で、オーディスがマイクを片手に立っている。
自作の昭和ソング、しかもタイトルは「オーディスのうた」。
“信仰心”と“自己愛”だけで綴った謎の歌詞を。
洗脳されたキッズたちが無表情でリフレイン。
「オーディス様ばんざい! オーディス様ばんざい!」
コーラスは完璧だが、子どもたちの目はどこか焦点が合っていない。
教会全体が、異様な熱気と寒気に包まれていた。
ヴィヌスは窓越しにボソリとつぶやく。
「ナルシスト♡」
曲が終わると、今度は食卓タイム。
オーディスは小さなカップのゼリーだけを啜っている。
「固形物は魂の濁り……信仰はゼリーのように、柔らかく、甘く、人をとろけさせるのです。
……さあ、みなさんも一口どうぞ?」
キッズたちにもゼリーが配られ、無言でスプーンを動かす姿が、逆に不気味さを強調していた。
サタヌスは顔をしかめて。
「歯、いるか?抜いちまおうか?」
と小声で毒を吐く。
外から見ているだけで、その“コミカル外道”な日常が。
本気でヤバいという事実だけは、嫌というほど伝わってきた。
勇者ズはそっと目配せを交わし、満を持して教会の扉へ足を踏み出す。
教会の奥、薄暗い礼拝堂でついに勇者PTは“牧師”オーディスと対峙した。
オーディスは、例のニコニコ顔で洗脳トークを始めかける。
「……あなたたちも、神の――」
その瞬間。
ヴィヌスが一歩前に出て、指先をゆっくりとオーディスに向けた。
ただの仕草なのに、どこか決定的な“勝者の余裕”が漂っている。
「貴方の言葉を聞く気はないわ」
「雷、苦手なのよね? すごく」
バチバチと雷が指先に集まる音。
空気がピリッと張り詰め。
ガイウスとサタヌスは“来た、この女優魂……”と心の中で息を呑む。
次の瞬間――雷撃がオーディスを撃ち抜いた。
その身体が震え、膝をつき、崩れ落ちる。
白い法衣の裾が黒く焦げ、床に溶けるように力尽きていく。
「あぁ、あ……あと少し、だったのにっ……!
人間などに……この私が……屈するなど……!」
呻きながら床にしがみつくオーディス。
その姿を、ヴィヌスは冷ややかに見下ろした。
「水溜りが喋ってるわ」
バチッ、と最後の火花が跳ねる。
場の空気が一気に静かになり――決着。
ガイウスとサタヌスは思わず圧倒され、サタヌスが苦笑混じりに小声で漏らす。
「言い方が地味にエグいな……金曜女」
ガイウスも肩で息をしながら「終わった……か?」と。
静かに教会の闇を見つめていた。
“人間以下”という思想を、自ら“水溜り”として葬られた牧師。
そして勇者ズの“誰も容赦しない強さ”が、アルルカンへ静かに刻まれた。