闇ギルド「蛇骨」ギルドハウス
「デコ助。この日は賄賂握らせてバリケードを取っ払わせた、この日に聖女様を狙いな」
「ありがとうおじさん~!俺こういう交渉とか向いてないんだよね、ほら俺短気だから」
闇ギルドでは、ギルドマスターにして同じ団員すら本名を知らぬ男-
仮名をジョン・ドゥとする男が書類と向き合いながら、デクシアに指示を出す。
闇ギルド内は情報漏洩を避けるため、互いの顔を把握することもご法度ということで。
デクシアはまさに暗殺者というべきフード付きマントを目深に被り。
顔や声など全容を知る者はギルドマスターのみだ。
「枢機卿の暗殺は?」
「もう終わった」
「早っ!流石デコ助、殺しにかけちゃ一流だねぇ」
デクシアは書類を放り投げてジョン・ドゥに抱き着く、彼はそれを鬱陶しそうに払いながら。
枢機卿の暗殺は完了した、と告げた。
「教えがいいんだよ。マスターはもっと美しくやるよ、マスターはもう手品みたいに暗殺する」
「へぇ、じゃあ今度見せてもらおうかな」
枢機卿の殺害は手筈通りに。
デクシアは書類を一枚手に取ると、その内容に目を通す。
教皇庁に潜り込んだスパイからの報告書だった。
聖女様を孤立させる作戦は順調に進んでいるようである。
だが障害もある、大神官ヘルメス・フォン・ゾルクォーデだ。
彼は筋金入りの腹黒で、嘘つきは嘘つきに敏感という事か?
言葉巧みに言い寄っても、彼は全く靡かないという。
「俺は血を出すほうがいいんだけど。
マスターが教皇庁の人間は血の匂いに敏感だから一滴も出すなっていうの」
「生臭い輩だからねぇ。ほら、お前服に血が付いてるぜ?」
「あ、ホントだ!マスターのとこ行く前に着替えなきゃ!」
デクシアはそう言うとマントを翻してギルドハウスから出て行った。
教皇庁の暗殺は順調に進んでいる。
だが上手く行き過ぎている、長年裏社会に生きてきた身だからこそわかる。
こうして首尾よく行くときほど、何かが狂っていることが多いのだ。
-暗殺決行日。
「え!?私の命を誰かが狙っているかも……?」
「ゆ、由々しき事態です聖女様!すぐリプカを出ましょう」
「いえ……今帰るわけには」
「なぜ!?」
「勘です。今ニア・アンスロポスに帰るのは危険だと」
夕日を見ながらシャルロッテは御付きの神官と会話する。
目の前には勇者四人がいつになく真剣な顔で立っていた。
あれからリプカ中を駆け回り「黒い蛇」というヒントを基に探し回ったのだ。
そして突き止めた。表の顔は商人ギルド-その実は臓器売買や人身売買を行う闇ギルド「蛇骨」
彼等のシンボルマークが「黒い蛇」なのだ。
だが、彼等のアジトはもぬけの殻だった。
「今夜にでも蛇骨が動くわ。そしてアイツらは商人ギルドでもあるから」
「……キャラバンに擬態するのは朝飯前だろうね、下手に今街を出れば彼らに誘拐される」
「……」
日は刻一刻と落ちていく。闇が来る、裏社会の蛇たちが。
シャルロッテをここに置くべきだと勘が告げている、しかし確実に暗殺者は来るだろう。
何処から来るかわからないソレから彼女を守り切れるだろうか?
そう考えていると……ふっと、ガイウスは棚にあるものへ気づいた。
「聖女様?あの衣装は何だい」
「あれですか?儀礼用の衣です。普段は着ないのですが」
「……あれだ」
黒い蛇が狙うのは聖女の命だ。
ならばその命を狙う暗殺者を誘き寄せればいい。
ガイウスはヴィヌスを手招きし「作戦」を耳打ちする。
ヴィヌスは頷くと、神妙な顔をして頷き返すのだった。
—
夜だ、闇が訪れる。
リプカの夜は静かだ-その静寂を破るように、修道院のある部屋では声が響いていた。
「あ、あのぉヴィヌスさん、お気持ちはありがたいのですがぁ」
「何?私のセンスに不満なの聖女様」
ヴィヌス扮するニセ聖女はベースこそ聖女の衣だが、なんとも煽情的だった。
胸元は開き、スリットは腰まで入っている。そしてスカートも短く、膝上の丈だ。
シャルロッテは、堂々と立つ“影武者”の姿を見て、目を丸くした。
「わ、私……そんなにえっちな聖女じゃないです……!」
控室の隅っこで、真っ赤な顔をしたシャルロッテが身を縮める。
目の前に立つのは、シャルロッテそっくりの姿をしたヴィヌス。
ただし、胸元と太ももがやたら大胆に開いていた。
「いいのよ。これくらいでちょうどいいのよ」
ヴィヌスは堂々と胸を張る。
「だって来るの、魔王軍のエロガキでしょ?
釣る気でいかないと、こっちが喰われるわよ」
「で、でも……ぉぉ……」
シャルロッテの唇が震える。
目の端に涙が滲んでいるような気がした。
ヴィヌスがため息をつきながら、軽くポーズをとった。
「……ほら。早速エロガキが釣れたわよ。」
「エロいな……」
控室のカーテンの隙間から、目を見開いたサタヌスが声を漏らした。
「お前……ティータと同じ顔してんぞ。」
すかさず隣のガイウスがツッコむ。
「マジでやめて!? そのツラで父親被せられんの精神的にキツい!!」
「はいはい、健全な育ちですこと」
恥じらう本物の聖女と、顔真っ赤にして怒鳴るエロガキと、ため息混じりの大型犬-そして。
「下品すぎるよヴィヌス!せめて胸の前だけは閉じないか」
珍しく、顔を赤くして“こんなモノは聖女じゃない”と猛抗議するメルクリウスだ。
「あらメルクリ。あんた女性をエロく着飾らせるのは男の甲斐性よ」
「そんな甲斐性は要らない!」
メルクリウスがヴィヌスの作戦に異を唱える。
しかしヴィヌスは「適材適所だ」と言って聞かない。
彼女は自分のセンスに絶対的自信があったのだ。
そして、その自信は正しかった。
数刻後、聖女すり替え作戦が行われたとも知らずデクシアが音もなく修道院のドアを開け近づく。
アサシン特有の足音を殺す歩き方で、彼はターゲット……。
聖女・シャルロッテとの距離を詰めていた。
「聖女様、いい夜ですね。あなた最期の夜に相応しい月です」
「……」
シャルロッテ、いやヴィヌスは答えない。
祈りの手を組んで俯いているだけだ。
デクシアはそろりと彼女の傍へ歩み寄る。
「恨みはありませんが、貴女様には見せしめになっていただきますね」
「へぇ。どんな見せしめにするの?ボウヤ」
「そうですね。先ず手を切り落として、それから……え?」
はて。シャルロッテはこんな喋り方だっけ?もう少し大人しいイメージだったような。
デクシアは疑問に思いながらも、ナイフを振りかぶるが……その刃は素手で受け止められた。
まるでこうなるとわかっていたように。
そして口元しか見えなかった聖女がヴェールを持ち上げる。
其処には何処か幼さを残した女性でなく、艶めかしくも凛々しい女勇者が不敵な笑みを浮かべていた。
「だましやがったなぁああああああ!?このクソアマがぁあああ!!」
「クソはあんたでしょ、このドスケベアサシン」
怒りのまま振るわれたアサシンダガーをかわし、ヴィヌスは挑発する。
彼はターゲットに騙されたという事実に、元々ちょっと強面な額に青筋を浮かべていた。
視界に飛び込んだのは、あまりに出来すぎた“聖女”だった。
どこからどう見てもシャルロッテ……よりも露出が多く、視線を惹きつける。
悪質なほど完成された“偽物”。
デクシアの表情がぐにゃっと歪む。
「……っクソ騙しやがって!!」
勢いよくナイフを抜き、叫ぶように吐き捨てた。
「しかもなんだよその衣装はァ!?
見た瞬間からムカついてんだよ!どこ見てもドスケベじゃねーか!!!」
ヴィヌスは優雅にウィンクしながら、スカートの裾を少しだけ持ち上げて一礼。
「まぁ、下品な子♪」
「勇者じゃなきゃ●●して●●にして●●してやんだけどなァアアア!!」
(※発言の三分の一が規制されました)
ヴィヌスは涼しい顔でポーズを取った。
「褒め言葉として受け取っておくわ」
だが、デクシアの怒りは止まらない。
口元が引きつり、でも視線はしっかりとヴィヌスの胸元へ釘付けになっていた。
「許さねぇ!ぶっ殺して死体で●●してやんよおおお!!
ほんっと腹立つなこのエロ衣装ぉおおおお!!」
「うわ、ほんとに下品な子♪」
ヴィヌスは軽くウィンクを飛ばし、スカートを翻す。
「でも残念ね、“そういうの”が一番効く相手を選んだのよ?」
デクシアの青筋がビキビキと浮き上がる。
「ふざけんなよぉおおおお!!殺すゥウ!!」
それはまさに、“怒りの方向が迷子になってる男子”の典型だった。
「聖女様!お逃げください!」
メルクリウスが叫ぶと同時に、暗殺者は窓から飛び降りた-いや、飛び移った。
ここは三階だ、だが身軽なアサシンにとっては朝飯前である。
彼はそのまま修道院の屋根へ着地し、逃走しようと試みるが。
「そうはいかない!」
「チッ……!」
先回りしていたガイウスが向かいの屋根から飛び降り、暗殺者を追い詰める。
デクシアは舌打ちするとナイフを構えて、逃走ではなく戦闘へと切り替えた。
ヴィヌスが囮でメルクリが聖女の護衛、サタヌスとガイウスは暗殺の阻止。
四人の共同作戦に暗殺計画は阻止された。
「クソッ!なんでバレた!?俺もおっさんも。
決行日を絶対ゲロったりしなかったのに!!」
「さあ、運が悪かったんじゃないか」
「じゃテメェらも俺をキレさせた不運呪わせてやらぁ!俺はデクシア!!暗殺教団構成員、デクシア!」
腰のアサシンダガーを2本同時に取り出し、くるくる回すと逆手に構える。
怒り心頭ながらも、笑みを口元に湛えながら。
「デクシーって呼んでねぇ♪」
言葉こそ柔らかい。
だがその瞳は一切笑っていなかった。
「……それ以外で呼んだら、喉から潰すからね」
「……肝に銘じとくよ。俺はガイウス」
そのまま、完璧なネイティブ英語で。
「Nice to meet you.」
と挨拶する。その口元は皮肉っぽく笑っていた。