ゼルノバ・バイオ編-恋は死んでもできるよ♡ - 1/6

グラットンバレーの荒野に、世紀末サバイバーどもが噂する伝説の“カラオケ”施設がある
その名も「イケニエ」。
「マイクを握れば、どんなに叫んでも怒られない。
しかも飲み放題、歌い放題、魂ごとぶっ放してOK――まさに夢の楽園!」
……だが、噂の裏には“あっちの世界”の住人も大集合していることは誰も知らない。

イザナギはその日、テンション全開で砂嵐の中を走っていた。
「絶対ここだろ!?だって看板に“献体感謝デー”って書いてあるし!」
どこからどう見ても不穏すぎる廃ビル。
割れた窓からは「イケニエ!」という不協和音の合唱が漏れ出している。

背後でレイスが苦笑いしながら煙草をふかす。
「さすが不良騎士、感性バグってるな……。
まあ、“ジョニー・バッドのライブ”でノる奴に悪いヤツはいねぇ。
あの半竜、ほんと魂の叫び方が異次元だしよ」
イザナギが振り返る。
「いやマジで。クオ・シグレ、毎回観客も炎上してるし、魂燃え尽きるタイプの現場だろ。
ああいう生き方見せられたら“騎士”やってる意味まで考えちゃうわ!」

ウラヌスが背後からひょこっと顔を出す。
「惜しいよね~!ジョニーって絶対tiktok伸びるよ。
あたしがライブ動画撮って上げたら、バズり方やばくてさ。
『竜の涙で泣いた』『荒野に吠えろに人生救われた』って、地獄住民からコメントが飛びまくってる~」
ちなみにジョニー・バッドはマダム・リフはじめ地元マフィアや悪魔の奥様方に何度も。
「CD出そうよ!デビューしな!」とスカウトされてる。
だが当の本人、「柄じゃねぇ」と一言で全部却下。
一方で、ウラヌスの勝手撮り動画だけはまんまと“推し活用バズネタ”として一大拡散中。
荒野のアウトローも世紀末ティーンも「今夜のライブ告知」だけは。
即リツイートするという地獄のバズ現象だ。

「……まあ、ああいう奴がいるから、クソみたいな毎日も耐えられるってヤツなんだろうな」
レイスが煙草の灰をはたき落とす。どこか虚無っぽいのに、どこか羨ましげでもある。
だが今日の目的は“魂のロック”じゃない。
荒野に轟く「イケニエ!イケニエ!」コールの誘惑に勝てる者はいない。
世紀末の夜に集まる場所は“ゾンビ合コン”が大盛況のカラオケボックス「イケニエ」なのである。

店の入口にたどり着いた一行、しかし「イケニエ」の建物前には謎のコンテナが山積み。
そのどれもが「生モノ注意!」「開封厳禁!」とドギツイ警告シール付き。
カラオケなのに、なぜか焼却炉の残骸も鎮座している。
夜の砂嵐に赤いバイオハザードマークがピカピカと反射し。
「ここ絶対まともな娯楽施設じゃない」と誰もが脳内で警報を鳴らす、そんな空気。
扉を開けるといきなりゾンビ店員が列を成していた。
その先頭、妙に気さくなゾンビが愛想だけは満点だ。
「血のカクテル2杯で500円……」
この発声、地獄でしか聞けない営業スマイル。
ドリンクバーの奥では、すでに何人かのゾンビが“血カク”の試飲タイムで白目を剥いている。

「安い!!」
思わず叫んだのはイザナギ。脳がバグって一瞬“お得感”が先行した。
メーデンも「えっ、500円で2杯も……」とピュアに驚くが、ウラヌスのツッコミが最速で刺さる。
「いやいや、値段の問題じゃなくて血だよ血!!」
レイスは煙草を指で弾きながら冷笑を浮かべる。
「安いって言った瞬間に全員ゾンビ認定だな。カラオケより倫理観が埋まってる」
それでも店員ゾンビはイチオシメニューを繰り返す。
「血のカクテル2杯で500円……」
おそらく生前から値札だけは守る社畜魂が残ってるのだろう。ブラック企業の魂は死後も消えない。

店内の空気はじわじわ“異常”に染まっていく。
テーブルの上、ゼルノババイオ社製の完璧すぎる料理パックがズラリ。
開封厳禁ラベルがデカデカと貼られているのが逆に怖い。
どこかでノイズ混じりのBGM。「イケニエ!イケニエ!」という地獄のコールが延々ループ。
精算機のゼルノバ社ロゴが不気味に明滅し、ピュアなメーデンは既にガクブルで祈りを始める。
「この世界、本当に生きて帰れるんですか……?」
気さくなゾンビ店員は、さらに容赦なく営業スマイルで追撃してくる。
「ゾンビサワーも今だけ飲み放題……」
安さ推しだけは一級品、死んでも商魂だけは死なない。

「なぁ……もう値段とかじゃなくて倫理観の方をディスカウントしてねぇ?」
イザナギがつい漏らすと、レイスが鼻で笑う。
「安心しろ。ここはカラオケ地獄、命の値引きはあっても生還保証は付かねぇ」
「血のカクテル2杯500円」を勧めるゾンビの営業スマイル。
生きてても死んでても、ブラックは治らない。
この店、ある意味では最強のサバイバル空間だ。

入り口の自動ドアは壊れて半開き、ガラガラと重たい音とともに開くと。
受付カウンターの後ろにずらりと並んだゾンビ店員たちがお出迎え。
「い……いらっしゃ……ウウ……」
全員ユニフォーム着用(たぶん“生前”のまま)、どの顔もどこか。
“合コン初参加”みたいな緊張感で固まっている。
精算機は液晶がバグってチカチカ光り、「ゼルノバ社ロゴ」が画面いっぱいに点滅。

イザナギが真顔で囁く。
「ヤバい、これ絶対なんかの儀式だろ……。
精算機に“ゼルちゃん”いる時点で命の保証ゼロだぞ!?
歌った瞬間魂抜かれてゾンビになるやつ!!」
メーデンは困惑しつつも、ピュアな瞳で受付を見上げる。
「ここ……カラオケですよね?儀式じゃ……ないですよね?
でも“イケニエ”……生贄って意味ですよね?歌ったら選ばれるんですか?」
受付ゾンビが「ウウ……1名様、ご案内……」と無限ループで繰り返す中。
ウラヌスはすでにノリノリ。

「せっかくだし儀式ごっこしようよ!
コンテナの中で一番上手く叫べた人が“呪い王”!TikTokバズ必至!」
レイスは黙って“現場の空気”を味わっている。
(マジでコイツら何も分かってねぇ……面白すぎるだろ、絶対黙っとこ)
受付カウンターの脇で、精算機が突如「カラオケ課金は魂でどうぞ!」と喋り出し。
ゼルノバのAI音声が全館に響き渡る。
「ちょ、これ絶対帰れなくなるやつじゃん!ウラヌス、お前先に歌えよ!オレ後にするから!」
「イケニエチャレンジ、開幕だね☆ いっちょ魂ぶち抜くぞ~~!!」
その横でメーデンが本気でお祈りを始めてしまう。
(“魂抜かれませんように……歌はみんなで仲良く”)
こうしてカラオケ合コンという名の「死体と生贄の呪い儀式」へと。
何も分からぬままハイテンションで突入していくのだった。

ボックスの扉を開けた瞬間、そこはもう異様な空間だった。
薄暗い店内、カビ臭さと消毒液の香りが同居する中。
ゾンビ男女が、きっちり向き合って席についている。
どこかで見たことがあるような“合コン”のフォーメーション。
なのに、その顔には表情というものが存在しない。

テーブルの上には、不自然なくらい腐っていない料理の山。
サンドイッチ、サラダ、肉料理……どれも見た目だけは完璧。
だが、みな「ゼルノババイオ社製」の包装がばっちり貼ってある。
食べる気配はゼロ。
ゾンビたちはピクリとも動かず、時折フォークやナイフを持ち上げては宙を切るだけ。
口元に近づけても、歯がカチカチ鳴るだけで、決して食事しない。

ウラヌスは思わず呟く。
「……なんかシュールすぎて笑うんだけど。
ねぇ、雑巾ちゃん(=プルト)連れてくるべきだったよコレ。
絶対ツッコミ不可避案件だよ!!」
だが今この場には、あの最強ツッコミ担当は不在だ。

メーデンはもう完全にビビっている。
「あ、あれは……生贄の儀式じゃないですか!?
あの“腐らない料理”が供物で、手を挙げた者が選ばれる……的な!?
え、歌うと誰か選ばれるの!?怖い!無理!!」
彼女はもう完全に“ホラー儀式の現場”として受け止めている。

隣でイザナギもガチ顔。
「これ……絶対ただの合コンじゃねぇぞ。
だって、ほら企業ロゴ!ゼルノバのマーク、あれ“生贄OK”って意味だろ!?
目線の動き、明らかに“今夜の供物誰だ”って感じだし!」
ゾンビたちも、まるで合図でも取り合っているかのように。
一人がマイクを手に取れば全員がじっとその動きを見守る。
曲を選ぶ指はゆっくりと、しかしどこか震えている。
BGMは「イケニエ!イケニエ!」としか聞こえないノイズ混じりのコール。
不自然なほど明るいゼルノバ社ロゴが、部屋の端で怪しく点滅し続ける。

レイスはすべてを見抜いているが、あまりに楽しすぎて絶対に口を挟まない。
(あ~これはヤバい……合コンだって気づいてるけど、この誤解は放っておこう。
こいつらが儀式だと信じてるほうが何倍もおもろいしな)

合コン会場のテーブルには、ゼルノババイオ社のロゴが燦然と輝くオードブルセットが山積みだった。
その中央――やけに可愛い肉球マークがデカデカと焼き印されたサンドイッチが鎮座している。
ウラヌスが速攻で反応した。
「うわ、にゃんこ(ロコ)が大好きな奴じゃ~ん!
これ、とっていいやつ?いやもう映えすぎ!#肉球サンド #サバイバー飯」
メーデンは焦って制止する。
「だめ!たぶん、あの人たちが注文したものだから……!」
彼女はガチで真面目な顔をして、ゾンビ合コンのマナーを気にしていた。

イザナギが怪訝そうに肉球サンドをつまみ上げ、じーっと見つめる。
「でもさ、一向に誰も食べねぇな……置かれてから結構経ってんぞ?
このままじゃ腐っちまうだろ、いや、むしろ腐らないのか?」
レイスがふっと口元で笑った。
「昔そういう都市伝説、流行ったな。
“マクドネルド”のハンバーガーは何年経っても腐らないって――」
その目線の先、肉球サンドは新品のツヤを維持したまま、まるで誇らしげに輝いている。

空気が一瞬止まる。
テーブルのゾンビたちは、ただただ無表情で肉球サンドを見つめている。
フォークを持ち上げては何度も空を切るが、誰一人として一口も食べようとしない。
「……逆に怖いってコレ」
イザナギがつぶやくと、レイスがタバコの煙を吹きながら低く呟いた。
「食べ物より“安全”って言葉が一番怖い時代になったもんだな。
まあ、ゾンビ相手でフレッシュさ気にしても意味ねぇか」
それでも肉球サンドはそこにある。いつまでも、いつまでも――。
ウラヌスはカメラを取り出して「バズる予感しかない!」とニヤニヤ。
メーデンは祈るように「どうか、誰かが正しいタイミングで食べてくれますように」と唱える。
だがゾンビ合コンは今日も、誰も食べないまま“地獄の宴”を続けていく。
肉球サンドは、合コンの伝説になって、永遠に腐らないまま残り続けるのだった。

部屋の奥、ゾンビの一体がぎこちなくマイクを掲げる。
それを見たメーデンは「やっぱり……!!」と本気で震える。
呪いの合コンを前に、“歌った者が生贄に選ばれる”という世紀末ホラーな勘違い。
誤解のボルテージはついにMAXを迎える!