その夜、「イケニエ」カラオケボックスの地獄合コンはますますカオスを極めていた。
ドリンクバーに並ぶのは「発酵ジュース」「血のカクテル」「ゾンビサワー」だけ。
どれもゼルノバ社謹製、グラスのふちにはバイオマークがバッチリ印刷されている。
明らかに普通じゃない色合い――どピンク、ダークレッド、緑がかったグレー。
それでも、ここはグラットンバレー。
飲み物の正体なんて気にする奴はいない。いや、気にしたら負けだ。
レイスは妙に冷静だ。
「……このゾンビサワー、普通にうまいんだが。金髪用(=ユピテル)に保存しとくか」
手慣れた手つきで、ペットボトルにどぼどぼ注ぎ始める。
もはや“自家製備蓄”レベルの行動力である。
ウラヌスがツッコミ全開で叫ぶ。
「ゾンビ専用じゃん、それ!ユッピーの肝臓死ぬって!
ていうか、あいつ本当に不死身なん?こういうの飲んでバグらないのズルくない?」
だが、ユピテルは魔王軍一の“外道系不死身”、何をどれだけ摂取してもダメージはゼロ。
「死なないから何でも飲める」という終末バイオサンプルの象徴である。
さて、地獄の合コン参加者たちにも注目すべきだ。
ゾンビ女子たちはやたら気合い入ったメイク。
ラメたっぷり、頬骨が異様にハイライト、唇は闇色グロスで妖艶さ全開。
「今夜こそ生きてるボーイを落とす!」とばかりに、ほぼ本能だけで勝負を仕掛けている。
一方のゾンビ男子は、革ジャンにサングラス。
「不良のモテファッションは時代を越える」
そんな世紀末伝説を地で行く“ワルぶり”ポージング。
隙あらばポケットに手を突っ込み、スカして壁にもたれる。
だが、壁にもたれるたび背骨がカタカタ鳴るので、色気は全部台無し。
テーブルの上では、腐らないゼルノバ飯を囲み、誰も食べないまま会話も弾まぬ沈黙タイム。
「……あの、歌う?」
「……君の腕、前より取れやすくなったね」
「え、気づいてくれた?新しい糸、ゼルノバ製だよ」
なぜかパーツ自慢が始まってしまうゾンビ合コン。
新時代の恋愛トークは死体リスペクトが基本らしい。
曲リストを開けば「贖いのバラード」「最後の晩餐ソング」「俺を喰え」など。
いずれも死の香りMAX、命を賭けたタイトルばかり。
ノリノリの青年ゾンビが「俺を喰え」でシャウトすれば。
ギャル系ゾンビが「それ最高!」と拍手する。
メーデンは震えながら手を合わせ、「成仏できますように」と真顔で祈っている。
それでも、この空間だけはどこまでも明るい。
妙な一体感と、「誰も生きてないのに全力で恋したい!」
そんな狂気のポジティブエネルギーに満ちていた。
レイスはボトル片手にうそぶく。
「……まあ、地獄も悪くねぇな。生きてても、死んでても、恋は自由だ。
……金髪野郎が来たら、これ一気飲みさせてやるか」
そして、どこからともなく「イケニエ!イケニエ!」の合唱が上がる。
今夜もまた、グラットンバレーには“死体だって恋したい”という地獄の宴が繰り広げられていた。
ゾンビ合コン、盛り上がりは最高潮!
一行がボックスの隅っこで「やべぇ」「これ絶対呪われるやつ」などとヒソヒソやってるうちに。
ゾンビ男女グループはお約束の“生贄タイム”に突入していた。
「ひぃぃ!?ゾンビがこっち見た!!」
メーデンの悲鳴は完全にホラー演出。
「あっち見ないで……目が合ったら選ばれるやつ……!」
イザナギも本能的に察知した。
「やべぇ、これは追いかけられるやつだろ!」
だが逃げ場などない。ゾンビ女子の一人がにじり寄り、無表情でマイクを押し付けてくる。
もう一人はメニュー表を突き出し、「ほら、好きな曲を選べ」と言わんばかりに手招き。
“生者、歌え。イケニエの魂を捧げよ”――無言の圧がすごい!
そのとき、ロコがドアを蹴破って乱入。
「おい!?なんか食い物の匂いするなと思ったらゾンビじゃねぇか!
俺の期待返せ!肉球サンドどこいった!?腹減ったんだぞコノヤロウ!」
ティアも険しい顔でレイスに詰め寄る。
「レイス。これはなんだ?」
レイスは煙草を指でクルクル回しつつ「それが……俺にもよくわからねぇ」
※ぜんぶ分かってる。だが黙ってた方が100倍面白いので絶対に説明しない。
むしろ「呪いの儀式」「合コン」「カラオケ」の三位一体ミラクルを静かに観察するつもりだ。
ウラヌスが高らかに叫ぶ。
「歌え~!歌え~!!絶対“マキシマムザホルモン”とかゾンビ受け間違いなしだよ!!
この“合コンカラオケ”、地獄ロックでぶっ壊せ~~!!」
勢いで場を制圧しはじめる最年少魔将(メスガキ)。
ゾンビたちも「オォー!」と叫び声とも呻き声ともつかぬ奇声で大賛同。
イザナギ、ここぞとばかりに立ち上がる。
「よし。歌う。」
何も考えてない顔でマイクを握るその姿に、場が妙な緊張感に包まれる。
メーデンが泣きそうな顔で、「マジで!?やるの!?」
ロコも「ウラヌスの悪ノリに乗っちゃダメだぞ!」と叫ぶが、時すでに遅し。
ゾンビ男子がタンバリンを振り始め、ゾンビ女子が意味もなくクラップ連打。
死者も生者も区別なく、地獄のカラオケタイムが始まろうとしていた。
イザナギの選曲は――「贖いのバラード」でも「最後の晩餐ソング」でもなく、
なぜか“ガチのマキシマムザホルモン”。音量MAX。
店内のスピーカーが限界でバリバリ鳴り、全員で叫ぶカオス!!
それがグラットンバレー「死体だって恋したい」夜の本番である。
イザナギが歌いきった――それはもはや「絶唱」でも「絶叫」でもない。
世紀末魂の限界突破シャウトだった。
全身から汗と“生命力”が蒸発し、その場でカクンと膝をつく。
「ウウウ……」
ゾンビたちの反応が一変!さっきまで生贄狙いでギラついてたゾンビたちが、
なぜかイザナギのまわりでサークルを作ってリスペクトの眼差し。
その顔はどこか誇らしげで、「よくやった!」と言いたげな生前の合コン男子そのもの。
イザナギ自身も、魂を歌に削りすぎたせいで。
「うう……オレ、ゾンビになったかも……」
目の下はクマ、口は半開き、動きもダルダルで完全に死体ムーブ。
ウラヌスが爆笑。「どっちがゾンビかわかんねー!!草!」
店内、地獄の合コンに新たな伝説が誕生した瞬間である。
その時、メーデンが小声で指差す。
「あ、向こうのゾンビ……見つめ合ってる」
ゾンビ男女の二体がガチでアイコンタクトしてる!
次の瞬間、青年ゾンビが頭を掻きながら手を差し出し、OL風ゾンビも照れたように手を取り合う。
まさかのイザナギ、“恋のキューピッド”となってカップル成立!!
店内が“イケニエ!イケニエ!”コールから。
“おめでとう!おめでとう!”合唱へ一瞬で空気チェンジ。
レイスは呆れ顔で煙草をふかす。
「恋は死んでもできるって証明されたな……」
ロコはその横で肉球サンド(もちろんゼルノバ社製)を奪い、モグモグしながら。
「シュールすぎねぇか、これ」と素の声。
パンから謎のバイオ肉汁が垂れてるが、誰も気にしない。
グラットンバレー、今夜も地獄と愛とサブカルが渦巻くカラオケボックス。
イザナギのゾンビ顔に店員ゾンビたちが親近感でピースを送る。
「Welcome to イケニエ合コン、みんな魂で歌え!」
そして誰もが「生きていても、死んでいても、恋は自由だ」と知った夜だった――。
地獄のゾンビ合コンカラオケ、気づけば夜はとっくに明け始めていた。
曲リストはもう「生贄ソング」から「ラブ・ゾンビーズ」まで全部歌い尽くし。
半分魂が抜けかかった顔でまだマイクを握っている。
そんなとき、ウラヌスのスマホが突如バイブで震える。
「あ~!ユッピーからLINEきてる★」
ニヤニヤしながら画面を見せびらかす。
そこには、金髪の鬼畜剣士ユピテルからの淡白なメッセージ。
“今どこにいる?剥製タイムラプスを見たくねぇか”
相変わらずの地獄趣味。
「また始まったよ……剥製タイムラプス」と、誰もが顔をしかめる
カリスト以外喜ばないと有名なユピテルの趣味である。
レイスが笑いながら茶々を入れる。
「さてはまた無断で魔王城出てきたな、メスガキ。ユッピー、また怒るぞ?」
ウラヌスは悪びれずに返す。
「だいじょーぶ、せっかくだから“朝までカラオケしてきた”って正直に言うわ。
あいつ酒さえ持ってきゃ絶対機嫌直るし!
むしろ私たち帰る前にコンビニ寄って“血のカクテル”と“ゾンビサワー”お土産で持ち帰ろうよ!」
レイスもノリノリだ。
「物騒な酒とゾンビドリンクな、あいつ。
“こういう酒は死体の隣で飲むのが粋”とか意味わかんねぇこと言い出すタイプだからな……」
ロコは肉球サンドの包み紙でピザみたいに顔を拭き。
「朝までカラオケ?ここ何時間いたんだよ……てか、ゾンビの歌って何故かクセになる……」
ティアも「次は“人狼合コン”とか地獄の続編頼むわ」と小声でボソリ。
イザナギは完全にゾンビ化しつつも。
「……もう一曲だけ歌わせてくれ。まだ成仏できてねぇ……」
メーデンはカップル成立のゾンビたちを眺め。
「死体だって、朝まで恋して、朝まで歌ってる……なんか、すごく自由ですね」
どこかしんみりしつつも、ちょっと羨ましそうな顔。
やがて「イケニエ」カラオケボックスの窓から差し込む朝焼け。
ゾンビたちは「イケニエ!イケニエ!」コールの代わりに。
「また来てね」「次回は“供物バトル”しよう!」と別れのハイタッチ。
レイスは血のカクテルをボトルに詰めながら。
「……終末ってのは、こういう馬鹿な夜を生き抜いてこそ、だよな」と。
ひとりごちて、また煙草に火をつけた。
グラットンバレーの夜明け、今朝も“地獄のカラオケボックス”には。
生者も、死者も、魂をぶん投げて遊んだ余韻が静かに残り続けていた――。