レイスが仮眠明けのカウンターでニヤニヤしながら言い出す。
「さて、ゼルノバ社遠征といえば――誰が最初にゾンビになるか賭けるか?
まず坊ちゃん(イザナギ)はな~、“最初に感染するか最後まで生き残る”タイプなんだよ」
イザナギが即ツッコミ。
「二択かよっ!!?主人公じゃなきゃ100%死ぬじゃん俺!
“死にかけて復活”枠の顔してるって自分でも思うけどさ!!」
ロコはにやっと笑いながら自信満々。
「オレはゾンビになっても肉食えるなら罹るにゃ。
むしろ“ゾンビ飯レビュー”で生計立てられそうだし!」
ティアはカウンターにもたれて、じわっと微笑む。
「ラクーンシティって伝わるあたり、あのゲーム(バイオハザード)は偉大よね」
メーデンは真顔で手を挙げる。
「すみません、できればゾンビ化は遠慮したいです……」
しかし全員から「メーデンは感染耐性ガチそう」と太鼓判。
レイスが締めに。
「全員ゾンビ化したら、最後は“誰が一番うまくゾンビを演じられるか”選手権だな」
「そしたらお前が一番ノリノリだろ」
「レイス、ゾンビ役は地でいけるしね」
一同ゲラゲラ笑いながら「次の地獄ツアー、全員で“ゾンビごっこ”して生き残ろうな!」
と超前向きに死亡フラグを量産しつつ、ゼルノバ社地獄ツアーへ向かうのであった――。
妙に空気が重い。
肉球サンドのイラストが描かれたポスターが。
風に煽られてコロコロと路地を転がっていく。
ロコがしっぽをぴょこぴょこ立てて声を上げる。
「ゼルノバってあれだにゃ?肉球サンド食べ放題の会社、天国じゃん!」
脳天気な猫耳に、レイスは即座に首を振る。
顔にはニヤニヤ笑い。
「残念だが違うぞ~。肉球サンドは“子会社”だ。俺らがこれから行くのは本社」
「バイオ・ゼルノバ。……嬢ちゃんの親父が働いてたほうだ」
その目だけ、ギョロリと横目でメーデンに向ける。
メーデンは一瞬で顔色を変え、露骨に身構えた。
光沢のある髪が微かに揺れる。
「……辞退しても、いいですか?」
冗談抜きで退避しそうな空気を滲ませて、腰が引けている。
しかしレイスは悪魔的な余裕で、即答した。
「だめだ」
即答、かつ一切の迷いなし。遠慮も慈悲も欠片もない。
路地の奥には「本社社員以外立入禁止」の警告板。
カメラの死角には、まるで見張っているようなゾンビの影が見え隠れする。
「そもそも本社は――」
レイスが煙草を口に咥え直す。
冷たい目つきのまま、妙に滑舌良く続けた。
「“バイオハザード拡散”や“不老実験”“死体蘇生”で有名なほうだぞ」
ロコは聞いてるのか聞いてないのか。
でも肉球サンドも売ってるなら良い会社だと思うにゃ」と。
寝ぼけたことを言う。その横で、メーデンは完全に青ざめたまま小声で呟いた。
「父さん、なんでそんなとこで働いてたの……?」
答えを返す者はいない。空気だけが重く、全員が一瞬だけ無言になる。
道の先――ゲートは、不気味に輝いていた。
—
ロックダウンされたバイオフォートレスの外縁部。
コンクリ壁と無菌ドームが異様な存在感を放つその都市は、朝日すら毒々しい黄色に染めていた。
入口の前、ハンター組は、呆れと警戒MAXの顔で立ち尽くしていた。
都市のゲートは分厚い鋼鉄扉、その上には無駄に光る“ゼルちゃん”バルーン。
「ようこそ安心・安全の未来都市へ!」などというAIアナウンスが延々ループ。
だが現実は上空を巡回するドローンの影、入り口前には無菌スーツ姿のゾンビが列をなしている。
イザナギが苦笑しながら壁を見上げる。
「うわぁ、めっちゃ閉鎖されてんじゃん!どうする?」
ロコは耳をぴくぴくさせながら「この壁、どこもドアが見当たらないにゃ……」
ティアは一歩引いてため息。
「入り込む前からゲームオーバーしそう」
だがレイスだけは、壁際の“梯子”に目をつける。
それはボロボロに錆び、下半分は今にも崩れそうな絶望的クオリティ。
「……昇るしかなくねぇか?ほら、梯子あるぞ」
レイスが煙草をくわえ直し、適当なテンションで言う。
全員がその梯子を一瞥したあと、完璧に同じ疑念を抱いた。
「どうせ途中で壊れる」
レイスの投げやりな予言は、重苦しい現実味を伴っていた。
メーデンが声を上げる。
「か、帰り道はどうするんですか!!?」
目がガチで泣きそう、だがレイスはあくまでクール。
「……もう内側からゲート開けるしかないじゃん」
それはつまり――内部の制御室に辿り着くまでは、一方通行・死亡フラグ一本道。
イザナギが絶叫する。
「マジでラクーンシティじゃねぇかこれ!!」
ロコは妙に納得してる。
「でもゾンビって意外と優しいかもにゃ。オレ、肉分けてもらうし」
ティアは無言で頭を抱える。
「どうせ最後は“全員ゾンビ化END”だろうな……」
メーデンはもう小声でお祈りモード。
「無事に帰れますように……梯子が壊れませんように……」
レイスがニヤリと笑い、最初に錆びた梯子へ手をかけた。
「じゃ、行こうぜ――バイオフォートレス、地獄ツアーの始まりだ」
その瞬間、都市内部のAIアナウンスがもう一度響く。
「ご安心ください――感染の心配はありません」
だが、壁の向こうからはゾンビたちの呻き声が重なって聞こえてくる。
地獄の遠征は、最初の一歩から死亡フラグ祭りで始まった――。
梯子は、半分どころか三分の一も登らないうちに、「ミシッ」と不吉な音を立てた。
全員が息を止めて、わずかな希望とともに慎重に一段一段登っていく。
だが運命はあまりに残酷で、勢いよく錆びた金具が弾け飛び、梯子の下半分が地面に叩きつけられた。
レイスは虚無顔で煙草をくわえ直す。
「あーあー、お約束な」
一同を振り返りつつ、安心しろと言うように話しかける。
「気にすんな。カプコンのヘリみてーなもんだから」
“墜落しない方がおかしい”の精神。
メーデンは涙目で絶叫する。
「気にすんなじゃないですうううう! 帰れませんってば!!」
手足をプルプルさせながら、なんとか全員登りきる。
命がけで壁の上に這い上がったその時。
バイオフォートレスを一望できる絶景、その端っこに。
「いい眺めだなぁ」と言いながら背中を丸めている金髪の人影。
ユピテル、何故かすでに悠々と座っている。
レイスが口を尖らせて叫ぶ。
「なンでいるの金髪ゥ!?てかどうやって登った!?」
ユピテルは一ミリも悪びれず「は?お前等、90度の壁も駆け上がれねぇのか」
と片眉だけ上げてドヤ顔。
完全に“物理法則を捻じ曲げる酔っ払い”の余裕。
(全員:※無理です)
イザナギはあきれながら膝に手をつく。
「酔っ払いは物理法則ねじ曲げるのか……てかもう一周回ってゾンビより怖ぇ」
ロコは尻尾を逆立てながら「ねぇ、ゾンビよりヤバい生き物この都市にいるにゃ」と小声で呟く。
ティアは呆れつつもニヤリと笑う。
「これが“魔王軍六将”の生存本能よね。
ゼルノバ社も金髪一匹だけは解析不能だったんじゃない?」
ユピテルはバイオフォートレスの風を浴びて、金髪を靡かせながら。
「じゃ、見物に行くか。せっかくだし感染源見つけて解体してやるよ」
と楽しげに立ち上がる。
絶望の梯子と不死身の雷神。
地獄のバイオフォートレス攻略戦は、最初の一歩から「常識崩壊」で始まった。
バイオフォートレスの封鎖壁を越えた瞬間――空気が一変した。
廃墟ビルの内側、やけに“リアルな陰影とテクスチャ”、妙に重い空気。
普段より引きの構図、背を向けたレイスの肩越しに、暗い通路とちらつく非常灯。
キャラの輪郭もやけに重く、どこからともなく不気味なSEが鳴り響く。
その光景に、メーデンが目を丸くする。
「なんか……なんか別ゲー始まったァ!!?
キャラの絵柄も、色味も、急にホラーゲームみたいになってません!?
これ本当に私たちの冒険ですかぁああ!!」
背中越しのレイスが、妙に重厚な雰囲気のまま振り返り、少し照れたように笑う。
「すまん、1回やってみたかった」
レイスの手元には謎のインベントリウィンドウ。
UIだけ急に洋ゲー風。
――と、次の瞬間、画面は急速に“いつものアニメ調”にパキンと戻る。
輪郭線も明るさもBGMも、元通りのサブカル世紀末。
イザナギが「いや、なんだ今の!?めっちゃ重厚な怖さ出してたぞ!」と大声でツッコミを入れる。
ロコは「正直、ゾンビよりあの画風の方が怖いにゃ」と震え。
ティアはため息混じりに「二度とやらないで」と真顔で言うのだった。
封鎖都市のホラー感もサブカルギャグも、全部混ざったバイオフォートレスの一歩目。
今日も世紀末は、“画風すらも超えて”開始していく――!