ゼルノバ・バイオ編-恋は死んでもできるよ♡ - 6/6

バイオフォートレスの廃墟で、ユピテルが壁にもたれてふと首を傾げる。
「ところで、今更過ぎる気するがお前ら何しにきたン?」
レイスは煙草の灰を落としながら淡々と返す。
「散策依頼だっつの。オフィス経由で、都市の現状調査。……そういうお前こそ、なんでいるんだよ」
ユピテルは妙にあっけらかんと指を鳴らす。
「ウラがさ、“爆イケなピクトグラム見つけた!”って自慢しながら部屋突撃してきてな~。
あいつのスマホの位置情報たどったら、ここに辿り着いたワケ」
全員、しばしの沈黙。
その場にいないはずの“あのメスガキ”の顔が脳裏にフラッシュバックする。

「……あぁ」
「やっぱりな」
「絶対、兄貴分には見せちゃダメなタイプだろ」
「ウラヌスは、兄貴分を一番危険な現場に導く生き物だからな」
何も言い合わずとも意思が完全一致する瞬間。
ウラヌスが元凶であることは、この世界の地獄現象すべての出発点。
そして全員、数秒遅れて無言で頷いた。
“あのメスガキは絶対兄貴分に見せるな”
ゼルノババイオの爆イケピクトグラムをきっかけに、また1つ都市が地獄の底へと転がり落ちていく。

メーデンは廃墟と化したクリエイションタワーのロビーで壁に寄り添い、小声で呟いた。
「ところでこの様子じゃ、本社……ただじゃ入れませんよね」
レイスは煙草を指で転がしながら苦笑い。
「嬢ちゃん、あぁいう会社は大抵カードキー式なんだよ。探そうぜ、カードっぽいのを」

PT一行は自然と最奥部――。
“ペット&培養クリエイションタワー”の深部へと足を踏み入れる。
床はヒビだらけ、壁には色褪せた「永遠の家族」ポスター。
消毒スプレーの残骸と、毛玉に埋もれたカラフルなペット用おもちゃ。
あたりには異様な静けさと、かすかな腐敗臭が漂っている。
最深部で見つかったのは。
割れたアクリルケージの横に落ちていた、一冊の飼育員手書き感染日記。

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今日もペットたちは元気だ。
新しいゼルノバ社製サプリの効果は抜群だ。

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どうも左手の感覚が鈍い。
昨日引っかかれたせいだろうか。

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食欲が……止まらない。サンドイッチも、肉も……全部ペットの分も食べてしまいそうだ。

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からだがおもい。かゆい。
ペットもよくなついてきた。ぜるのば……。

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のば
ぜる の ば
ぜるのば

のば

ページの端から端まで、“ぜるのば”の文字が乱雑に書きなぐられていた。
崩壊していく理性、バイオ地獄のテンプレ。それがリアルに突き刺さる。
ユピテルだけが興味津々で頷く。
「ギリギリまで理性残してる!この“かゆうま”崩壊テンポ、芸術点高い!いいねぇ~~」と目をキラキラ。
他の全員は、ガチで泣きそうな顔。

「こえぇよ!!何が“いいねぇ”だよ!!」
メーデンは震え「怖いですううう!!何でバイオペットの飼育員さんがこんなことに」と半泣き。
ティアは溜息混じりに「感染してから最期までの日記、文化圏超えて残るんだ……」と頭を抱える。
レイスだけが「やっぱりバイオ地獄の記録は“味”が違うな」と、どこかサブカル的感動に浸っていた。
クリエイションタワーの静寂の奥――ケージの隙間からは、微かに獣の唸り声が聞こえてくる。
「カードキーは……まだ奥か」
彼らは地獄の最深部へと、息を呑みながら進むしかなかった。

ペット&培養クリエイションタワー、最奥部。
探し続けたカードキーも、どこにも見当たらない。
空気はよどみ、腐臭と消毒液の臭いが入り混じる地獄の底。
レイスがボソッと呟いた。
「う~ん…ここにカードキーがないならお先真っ暗だな」
だが、その沈黙を切り裂くのはロコの叫びだった。
「おい!?なんかいるぞ!」

一行が振り返ると、そこには……言葉にできない「何か」が、薄暗い非常灯の下でうごめいていた。
もはやゾンビとも呼べない。
犬、猫、うさぎ、フェレット……あらゆるペットたちの頭部が、不自然に合成され。
巨大な四足動物の“肉塊”として地を這っている。
目玉がいくつも蠢き、尻尾や耳が異様な数だけねじれて揺れる。
「管理番号」や「クリエイション認定証」の焼き印が、あちこちに浮かび上がっている。
レイスは目を細め、口の端だけで笑った。
「ペット・オブ・ザ・デッド……!」
直後、イザナギが限界絶叫。
「なんでもオブザデッドて言えばいいて思ってんじゃねぇぞコノヤロオオオオ!!」
全員の背筋が氷のように冷えた。
ケージを突き破って蠢く、“ペットの集合体ゾンビ”。
バイオフォートレスの地獄は、ここからが本番だった。

非常灯がゆらぎ、影が壁に巨大な獣のシルエットを落とす。
PTの前に立ちはだかる、倫理も、管理も崩壊した「家族のなれの果て」
その場に漂う緊張と絶望。
しかし、その空気を切り裂くように、ユピテルだけがケタケタと高笑いを響かせた。
「アハハハハハ!!↑」
「見な!これが“ペットは家族”はきれいごとだって証拠だぁぁ!」
耳障りなまでに楽しそうな声。
倫理も、感情もどこか壊れている。
巨大ペットゾンビの惨状に、一人だけ目を輝かせているのは間違いなく雷神ユピテル。
その狂気の笑みは、異世界転生主人公どころか“異世界外道ラスボス”のそれだった。

メーデンは青ざめた顔で身を縮める。
レイスは静かに肩を叩きながら低く囁いた。
「気にするな嬢ちゃん。あいつの言う事、真に受けると病むぞ」
PTは絶望と狂気の板挟み。
“家族”の理想も、“可愛さ”の記憶も、すべてがバイオの泥に沈む。
ユピテルの笑い声だけが、地獄の底まで響いていた。

ペット・オブ・ザ・デッドが狂気の咆哮を上げる中、PTの背中に絶望とネタが降臨する。
ティアが振り返りざま叫ぶ。
「レイス、ロケランはないか!?あの手の怪物はロケランで沈むもんだ!」
必死すぎて妙に説得力がある。
レイスは肩をすくめ、余裕ぶった薄笑い。
「生憎俺、デカブツは持ち歩かねぇんだァ!!」
その後ろでイザナギが絶叫。
「どこのバイオだよ!!現実的に考えろ!!」

ユピテルは爆笑しながら煽る。
「じゃ、どうすんだよ勇者さま~?クリティカルな“弱点”狙ってピンポイント攻撃?
それとも“赤く光ってる部分”を執拗に斬れば勝てるとか信じてる?」
メーデンは本気で祈り始める。
「お願い、どっかにでっかい爆発物とか落ちてませんか……!」
ロコがふと足元を見て、血まみれのペットフード缶を投げる。

「ダメ元だにゃ!」
怪物は缶を一瞬で潰し、怒りの大咆哮。
ティアが半泣きで再度叫ぶ。
「だからロケラン寄越せって!!」
レイスはポケットの中をガサガサ探すも、出てくるのはナイフとタバコのみ。
「なァ、誰か“二周目特典”でも持ってきてくれ」
絶望とギャグの狭間で、ペット・オブ・ザ・デッド戦――開幕!!
イザナギはパニクりながら、手近な方法を必死に探す。

「えーとえーと……ロケラン以外でクリーチャーに有効なやつっていえば――」
ロコが指差したのは、錆びついた大タンク。
「これ、危険物って書いてあるにゃ」
ラベルはすでにボロボロ、けれど唯一判読できるのは「酸」の二文字。
内容物は不明だが、とにかくヤバい匂いだけは間違いなく伝わってくる。
ティアは目を輝かせて絶叫。
「アシッドアタックいくぞおおおっ! レイス手伝えええ!!」
戦闘指揮が完全に洋ゲー脳。
壁際には“これ絶対一般家庭じゃ使わないだろ!”ってサイズの酸タンクがずらり。
逃げてきたイザナギが、バルブに手をかけながらふてぶてしく毒づく。

「いや助かったけど、おかしいだろ」
「なんでこんな場所に酸のタンクがあるんだよ」
「しかもこの量、絶対ペット施設の規模じゃねえ!」
レイスは酸タンクのラベルを無駄に念入りに眺める。肩をすくめて、悪戯っぽい笑い。
「そりゃ……あれだろ? 狂犬病に罹った犬とか、な……」
その“な……”に、メーデンが食い気味で叫ぶ。
「それ以上言わないでええええ!!」
背中の方で、誰かが遠慮なくケラケラ笑う。ユピテルだ。

「アハハハ↑! これがクリーンなペットちゃンの真実よぉ!!」
ふてぶてしくアクリルケースをコツコツ叩き、あくまで他人事のように、満面のゲス笑み。
「見た目だけカワイイ・キレイを装ってりゃ、裏で何やってもOKだろ。これが“未来企業”ってやつだぜ?」

酸のバルブがカチッと鳴る。イザナギは呆れつつも、タンクの一つを蹴っ飛ばす。「……ロケランより質悪いな、マジで」
レイスは煙草を咥え直し、「今さらだろ?」と肩を竦める。
メーデンは両手で耳を塞ぎ「もう帰りたいですううう」と泣きそうな声。
どこかで警報音が鳴り始める。

こういう地獄作業は、なぜか全員連携だけは早い。
タンクの弁が開き、床に「酸」が流れ始める。

「イザナギ、クリーチャーの上に誘導しろ!」
「命がけだなおい!!」
巨大キメラゾンビの足元を狙って、危険物タンク大放出!
赤黒く染まる廃墟、酸の煙と咆哮。
酸で皮膚がドロドロに溶け落ち、絶叫とともにのたうち回るキメラゾンビ。
一瞬の静寂、だがその巨体はまだ倒れない。
ユピテルが口角を吊り上げて忠告する。

「気を付けな。獣ってのは大抵、死にかけが一番やべぇのさ」
ティアは鋭い目つきで小型爆弾を手に取り、レイスに手を差し出す。
「じゃ追い打ちかけてやるか、レイス。タバコ貸せ」
レイスは呆れ顔で、ポケットから吸いかけのタバコを渡す。
「俺の吸いかけだぞ?」
ティアは不敵に笑いながら答えた。
「着火剤には十分だ」
カチッと小型爆弾に火をつけ、溶けたキメラの巨大な口へ思い切り投げ込むティア。
爆弾がキメラの喉奥に吸い込まれ、内部から鈍い閃光。
直後、腹の底から爆発が響き渡り、怪物の肉塊が内側から弾け飛んだ!
ロコは顔をしかめて、肩をすくめる。

「きたねぇ花火だにゃ」
煙と肉片が飛び散る中、PTは廃墟に立ち尽くし、酸と火薬の臭いを肺いっぱいに吸い込んだ。
地獄のペット・オブ・ザ・デッド、ここに完全沈黙。
爆散したキメラゾンビの残骸が床一面に飛び散り。
酸の煙と焦げた肉片の臭いが、空間をこれ以上ない地獄絵図へと塗り替える。
消毒済みシールも、ポスターも血と灰にまみれ、誰も“クリーン”なんて信じていない。

壁の一部が爆風で崩れ落ち、瓦礫の下から。
小さなプラスチックの破片――カードキーが転がり出た。
メーデンが顔をしかめつつも近寄る。
「もしかして、あの飼育員さんのカードキー……?」
レイスは肉片を踏み越え、カードを拾い上げて苦笑する。
「誰のだっていいさ。重要なのは本社ビルに入れることだ」
カードキーの表面には、どこまでも明るくて無駄に可愛い。
例のゼルちゃんマスコットが、くっきりとプリントされていた。
ZELNOVA BIO – ペット&培養クリエイション担当。
名前部分はすでに劣化し、もはや判読できない。

キラキラしたロゴと、地獄の惨劇のギャップが、余計に胃に重くのしかかる。
PTの手に、本社への道が開かれた。
だがその鍵は、間違いなく“ペットたちと飼育員の悲劇”そのものだった。