ゼルノバ社・本社ビル。
ピカピカの大理石ロビー、しかし入って早々、AI自動音声が高らかに叫ぶ。
「ご来訪ありがとうございます。当社はウイルスゼロの完全防疫施設です。
入館の皆様には滅菌シャワーをご用意しております」
疑いの目を向けつつも、PT一行は仕方なく並ぶ。
だが、いざ滅菌シャワーブースに入った瞬間――無機質な電子音の後、シャワーがピタリと止まる。
カラッカラに乾いた空気と、微妙にカビ臭い霧だけが漂う。
ティアは無表情で肩をすくめた。
「あー。わかってたわかってた、一人くらい脱落するよ。こういうのは」
イザナギは涙目で叫ぶ。
「せ、せめて面影を残してくれぇ……!」
全員、すでに死亡フラグの雰囲気に染まる。
ところが何かがおかしい。
ゾンビ化どころか、体の感覚や世界の見え方が急激にバグっていく。
手のシワ、髪の毛の質感、顔立ちや目の奥のグラデーション。
気付けばPT全員、“やたらリアルな実写寄りビジュアル”に変化していた!
ロコが震え声で呟く。
「実写化ウイルスじゃねぇか……!!」
ティアは自分の手元を見つめて青ざめる。
「私の目が……3Dでうごめいてる……」
メーデンはその場にへたり込み、叫ぶ。
「怖いですうううう!!私の顔が知らない人ですううう!!」
全員「ゾンビ化」を予測していたはずが。
本社ビルにて発症したのは、まさかの“実写化ウイルス”だった。
その後、数分間だけ続く地獄のフォトリアルタイム。
やたら生々しい表情、ハリウッド並の汗、謎の影と質感に耐えながら。
PTは無言で歩を進めるしかなかった。
地獄のフォトリアル化タイム継続中――全員、やたら生々しい肌と瞳でロビーを進む中。
唐突にレイスが振り返る。
「おい、金髪……お前、黒幕オーラ出てるぞ!?」
普段から怪しさ満点のユピテルだが、実写化されたことで。
瞳の光沢、髪の金色、肌の質感――全部「ラスボス」映えMAX。
本物の映画ヴィランみたいな存在感を放っている。
ユピテルがからかい気味に言う。
「そういうお前こそ、リアルになると吸血鬼感すごまじいな?」
レイスは即座にツッコミを返す。
「吸血鬼じゃねぇよ!!」
だがレイスも負けてはいない。
実写寄りのぼさっとした赤い髪、鋭い据わった目、青白すぎる肌。
フォトリアルな質感が、普段の腹黒と闇オーラを10倍に増幅していた。
イザナギがボソッと呟く。
「再現度高すぎってざわつくやつ……」
誰よりもリアルな闇属性PT。
その場にいた全員が「これ地味にバイオで一番怖い現象だわ」と無言で頷くしかなかった。
PT全員、ハリウッド映画の“闇属性チーム”みたいな姿で実写ロビーを進む羽目になるのだった。
誰より一番普通そうなはずのメーデンだけが。
「私だけエキストラ感……!」と絶望していたとか、いないとか。
本社編、最初からグラフィック地獄で幕開けだ。
「エレベーターは……生きてるな」
「よし。とりあえず一番上の階を押そうぜ」
意外にも電源が生きており、エレベーターは何の支障もなく動き出す。
ウィーン……と音を立て上昇し始めた瞬間。
社歌(超キャッチー)が突如大音量で流れ出す!
ゼールノバー♪ ゼールノバー♪
進化の超新星~
クリーンな未来へ! 無限の夢を!
笑顔でつなぐバイオの力
みんなの命 守ります
キラキラ笑顔で! ゼールノバー!
DNAでつながる家族の輪
ペットも野菜も培養でOK!
ゼルちゃんと一緒に踊ろうよ
明日はもっと…安全!安全!
ゼールノバー! ゼールノバー!
進化の超新星~
清潔パワーで 世界を守る
みんなで歌おう ゼールノバー!!
PT全員、あまりの明るさと中毒性に引き気味。
「なんだこの歌……悪夢か?」
「……進化の超新星って単語、ヤバい予感しかしねぇ……」
「耳から離れないにゃ……」
メーデンは小声で祈るように「お願い、早く止まって……!」と呻く。
エレベーターのチカチカしたLED照明の下。
顔色の悪いフォトリアル・レイスが、無意識に口ずさみ始める。
「ゼールノバー……ゼールノバー……」
音程だけ完璧、声は死んでる。
皆ゾンビより怖いモノを今見てしまった顔。
ユピテルは爆笑しながら、隣でこめかみを押さえたイザナギの肩を叩く。
「これ社員の9割くらい、毎朝1回は口ずさんでたんじゃねぇの?」
「父さん……これを毎日……」
メーデンの絶望の呻き。
レイスは返事もせず、死んだ目で二番まで完璧に歌い続けていた。
エレベーターが「チンッ」と鳴り、社員食堂フロアに到着。
その瞬間、何事もなかったかのように全員のグラフィックが“元のアニメ調”に戻る。
誰もこの現象にツッコミを入れないまま。
PTは次の地獄――培養肉パニック食堂へと歩みを進めるのだった。
クリーンすぎる社員食堂に、あの場違いに明るいAI音声が響く。
「ご安心ください、感染はありません」
だが、目の前のテーブルではパック肉がズルリと這い出し。
ソーセージがピクピクと跳ねながら移動している。
サラダのレタスまで微妙に動いて見える地獄。
ユピテルは目を細め、心底嬉しそうに囁く。
「活きが良い♡」
イザナギは半泣きでテーブルを指差す。
「どこが安全だよぉ!!食材が生きてるのにぃ!!」
レイスは肘をついて、やけに落ち着いた顔。
「ブラックユーモアとしてはセンスあるな。“クリーン”なだけで、何も安全じゃねぇ」
ロコは空腹のあまり、頭を抱えて絶叫。
「おい、肉球サンドはあるか!?本社なんだから勿論あるだろ!にゃーッ!!」
食欲>超えられない壁>ゾンビという、本能むき出しの叫び。
PT全員、“クリーン”という言葉だけがひたすら虚しく反響する社員食堂で。
地獄の“蠢く肉”を前に立ち尽くしていた。
食堂の片隅、ロコはついに“本社仕様”の肉球サンドを手に入れた。
パン生地はふわふわ、焼き印はゼルちゃん本社ロゴ、サンドの具もなぜかキラキラと光沢がある。
かじりついたロコ、瞳が星になる。
「うめぇぇ!本社の肉球サンドは培養具合が違うな(?)」
あまりの幸せそうな顔に、PT全員、一瞬だけ地獄の現実を忘れる。
蠢く肉やソーセージはまだ動いているが、誰も気にしない。
レイスはコーヒーを啜りつつ、先ほど通ってきたエレベーターを見やる。
「ロビーのエレベーターは社員食堂までしか通ってねぇぽいな。
てことは上層は別エレベーターを探さなきゃいけないわけだ」
ティアはフォークでソーセージをぐさりと刺し、そのままスープに沈めてから淡々と続ける。
「よくあるセキュリティ対策ね。
社長室へ殴り込まれた時用に、一気に辿り着けない仕様にしてるわけよ」
ユピテルは目の前で蠢く肉をじっと観察し、ミニナイフで美しく切り分けながらニヤリと呟く。
「いい体験だ。色んな肉を食ったが、蠢く肉は初めて食うぜ」
誰もツッコまないまま、肉球サンドを噛みしめるロコ。
スープに沈んで静かになったソーセージ、ナイフで薄く切り分けられる謎の肉片。
メーデンはソーセージがピクピクと自力で皿の上を這い回るのを見て。
ついに我慢できずに叫ぶ。
「ていうか。何でソーセージが動くのに誰も突っ込んでないんです!?」
イザナギは目を逸らしながら苦しいフォロー。
「踊り食いって文化……あったらしいじゃん? ほら……ほぼ生きたまま……」
足元には「ゼルノバ・フーズ」と書かれた開封済みソーセージのパッケージ。
裏面には妙にポップなキャッチコピーと説明がぎっしり。
レイスがパッケージを拾い上げて読み上げる。
「皮までうまい。這わせて楽しいゼルエッセン、だってよ」
メーデンは即座にツッコミ。
「這わせて楽しいじゃねぇよ!! 普通は焼いて終わりでしょ!?」
レイスは悪戯っぽく、まだ踊るソーセージをフォークで突っつきながら笑う。
「動く肉は“鮮度”が違うんだとよ?さすがクリーン企業」
ティアは苦笑しつつ「“食の安全”って本当に信用できないわ……」と肩をすくめる。
ロコだけは、肉球サンドを噛み締めながら無心で「うまいにゃ……」と呟くのだった。
ユピテル、完全に“ヤバいもの好き外道”スイッチON。
蠢くゼルノバフーズのソーセージや肉片を前に、目がギラギラと輝き始める。
ユピテルはナイフでそっと蠢く肉を切り分け、独りごとのように呟いた。
「活け造りってよぉ、あンまり鮮度がいいやつでやると切ったあとも蠢くンだわ」
「でも、まさかそれを肉で見ると思わなかった……ンン〜……いいねぇ……」
味覚も、倫理もイカれてるテンション。
蠢くソーセージを芸術品でも見るように持ち上げて。
「これ、口の中で暴れそうだなァ」と微笑む姿が逆にホラー。
イザナギはドン引き顔で呟く。
「やめろよ……そういうのは魚までにしとけよ……」
「普通…食べないですよ…!」
レイスは遠くで「本社の肉はクセが強ぇな」と薄ら笑いしていた。
やはりコイツ、腹黒い。全員が改めてそう感じるのだった。
社食の残飯を後にし、レイスが立ち上がる。
「さて……腹も満たされた、いよいよ上層だな」
ロコはしっぽを垂らし、絶望顔で呟く。「既に嫌な予感しかしないにゃ」
ティアは腕を組みつつ「廃墟に不穏要素は付き物よ」とシビアな現実を突きつける。
静かな廊下に、ぶっ壊れたスピーカーから、あの“洗脳社歌”がノイズ交じりに鳴り響き始める。
ゼールノバー♪ ゼールノバー♪
進化の超新星~
誰も望んでいないのに、PT全員の耳と脳に“再生ボタン”が強制ONされる。
ユピテルだけが妙に真剣な顔でスマホを構える。
「……なぁこれ、録音してtiktokで流したら再評価いけんじゃね?」
イザナギは頭を抱えて絶叫。
「もう呪いのメロディなんだよぉ……!」
どこまで行っても逃げられない社歌。
地獄の上層フロアへ、PTは“中毒性の洗脳BGM”に追われながら進んでいくのだった……。