ゾンビたちは、赤い警告灯が明滅する中。
まるで何も変わっていないかのように徘徊していた。
腕がちぎれたまま壁を叩く者、消毒スプレーを握りしめて意味もなく撒く者。
ただ「消毒……消毒……」と呟きながら歩く者。
警報が聞こえているのか、“警報”という概念そのものが。
もう失われているのか、誰にも判別できなかった。
唯一反応したのは、動物系ゾンビたちだった。
鼻が利くのか、危機察知能力だけは本能的に残っている。
「キャン……!?」
「ガゥッ……!」
彼らは壁際まで走り、出口に向かおうとする。
だが――もう遅い。
都市の中心に隠された“爆弾”は、すでに導火線の先端だけが燃えている状態だった。
「自爆モード作動……10、9、8――」
瓦礫の山を跳び越え、PT全員が命がけで走り抜ける。
床が抜け、天井が崩れ、非常灯がバチバチ火花を散らす。
最後の外壁――そこを飛び越えた瞬間。
轟音。閃光。巨大な火球がバイオフォートレスを飲み込む。
爆風が土煙を巻き上げ、空に赤い光の柱が立つ。
ロコが、飛び散る瓦礫の中で絶叫する。
「オレの肉球サンドがああああああ!!!」
「もうやだこの人ぉ!!」
レイスは肩で息をしながら、血と煤だらけのコートを握りしめ。
ゆっくりと崩落した要塞を振り返った。
喉の奥に笑いを忍ばせながら、わざと渋い声で言う。
「……オチまでバイオハザード。完璧だ……」
ユピテルは爆炎を背に、悪魔的な笑顔で両手を大きく広げた。
「爆破オチってサイコオオオ!!脳が焼けるッッ!!」
テンションMAX、まるで爆発がご褒美かのような満面の笑顔。
吹き飛んだ瓦礫の中、メーデンはへたり込みながらも。
「やっぱりこの世界、まともじゃないです……」と呆れ。
ティアは肩をすくめて「このノリでしか生き抜けないわね……」と苦笑。
生きて脱出できた――それだけで、もう最高の大団円。
爆炎とガレキの中、レイスがゆっくりとメーデンのもとへ歩み寄る。
笑顔はいつもの悪魔的な余裕、でもその手つきだけは妙に優しい。
「誇れ嬢ちゃん!今日からお前はゼルノバ製人造人間だッ!」
そう叫ぶと、なぜか肉球サンドの包み紙でメーデンのほっぺをゴシゴシ。
「誇れるかぁ!!ていうかそんなの嬉しくないですううう!!」
メーデンは涙と瓦礫まみれで、感情ぶつけるようにレイスをぶん殴る。
ロコは楽しそうに、その包み紙を拾いながらニヤリ。
「それ親父さんの因果じゃね?ゼルノバの血だにゃ」
ユピテルはサンプルボトルをひゅっと掲げ。
「いやー人間やめるのって最高だな」と、爆発の火花を浴びながら酒を煽る。
メーデンは俯きつつも、小さく声を絞り出す。
「……でも父さんは、本当は“人間に戻す”研究をしてたはずなんです……」
「なのに私が人造人間になったら、笑うしかないじゃないですかぁ!!」
レイスは真顔で言葉を返す。
「地獄を生き抜いたお前は、何者でも――ちゃんと自分のままさ」
爆炎とサイレンBGMが、その台詞を包む。
そして静かに、レイスは瓦礫の山の上で空を見上げて呟いた。
—-
「ゼルノバ社、地獄の具現化みたいな企業だったな……」
ユピテルは肩をすくめて、爆風を浴びた髪をかき上げながら――
「だが見ろ。剥製タイムラプスよりカラオケより、俺はこのバイオな地獄が大好きだ!」
魔界本拠の王室サロン、
天井から吊るされた巨大な水晶ディスプレイには、燃え上がるバイオフォートレスの光景。
その傍らには「監視ドローン」の映像が、複数角度から同時中継されていた。
肘掛け椅子にふんぞり返ったベリアルは、手元のグラスを傾けながら画面を見ている。
焚火を囲む勇者ズ、爆炎、弾ける瓦礫。
そして、何よりも――「地上で一番デカくて業深ぇキャンプファイアー」を。
孫であるレイスが一番良い席でやらかしている。
ベリアルの口元が、満足げに歪む。
「……ククッ……最高だなァ。やはり血か」
「アンフィスもだが、どうもこの血族は何か燃やしたいらしい」
後ろで控えていたバアルが、静かに問いかける。
「陛下、どうされますか? 報告は……」
ベリアルはグラスを揺らし、火に照らされた映像にもう一度目を細めた。
「かまわないよ。これくらい燃えるほうが世界は面白い」
「世界が滅ぶも燃えるも、どのみち暇つぶしにはちょうどいい。
燃やすやつがいる限り、悪魔も魔界も退屈しない」
ディスプレイには焚火と、レイスの悪魔的な笑み。
「血の連鎖」が、新しい地獄を生み出す現場が、鮮やかに焼き付いていた。
大爆発の余韻がまだ夜空に残る。
焼け落ちるゼルノバ本社を背に、勇者ズ一行は燃えた瓦礫の前で小休止。
赤い火の粉と吹き上がる熱気に、ロコは両手を広げて。
「今はデカい焚火であったまるにゃ……」と幸せそうにゴロゴロ。
その隣、ティアは遠い目をしつつ呟いた。
「でコレ……ハンターオフィスになんて報告するの……?
“本社を爆破しました”で済む話じゃないわよね……」
イザナギは肩を落としながら「まぁ、毎度のことだし……」と苦笑い。
その少し離れた場所で、レイスは燃える本社ビルをじーっと見つめていた。
視線は動かない、呼吸も落ち着きすぎている。
メーデンが、不安そうに声をかける。
「あの……レイスさん??」
レイスは目を離さないまま、淡々と答える。
「いやさ。ゾンビ映画って大体な」
「みんな去ったあとに――瓦礫からゾンビが1体だけ出てくるんだ」
その瞬間、崩れた瓦礫の隙間から。
焦げた腕と、半分潰れた頭を引きずるゾンビが一体、這い上がってくる。
乾いた銃声、ノーモーション。狙いも確認もない。
ゾンビはその場で崩れ落ち、二度と動かなくなった。
レイスはようやく視線を外し、銃口から煙を一筋だけ上げる。
「続編は絶つ主義でな」
メーデン、即ツッコミ。
「ひとのこころがない」
レイスは肩をすくめ、いつもの薄い笑み。
「なくて結構」
焚火がパチパチと鳴る。
遠くで、本社ビルが崩れ落ちる音。
誰も拍手しないし、誰も感動しない。
終わったという実感だけが、ゆっくりと全員に行き渡っていく。
地獄は燃え尽きた。
続編の芽も、きっちり潰した。
あとは帰って、報告書と頭痛と焚火の続きだ。
ゼルノバ編・完全終了。