「仮装用の服?大変申し訳ありません……ほとんどのお客様が買っていかれて、もうないんです」
「そ、そんなぁ……」
三バカことガイウス、ルッツ、バルトロメオは服の看板に誘われるまま入ったお店にて。
申し訳なさそうに受付の女性にそう言われ 肩を落としていた。
それもそのはず、看板にはこう書かれていた。
『仮装用衣装もご用意しています!値段もリーズナブル!』と。
仮装衣装を買い求めに来たのは自分たちだけではないのだと、がらんとした店内を見て思い知らされる。
「あ、Sサイズの衣装でしたら奥に……しばらくお待ち頂けますか?」
「Sサイズか。僕とガイ君は着られないからルッツ専用てとこだね」
「悪かったわねチビで!」
ルッツの仮装はどうにか用意できそうだが、問題はガイウスである。
「僕は最悪、貴族時代のお古があるけど……ガイ君はどうしようかねぇ」
「俺?仮装だろ。ドレスでも着ればいいじゃないか」
「アンタ、その筋肉ムキムキの体でドレス着る気?」
そう、ガイウスは背が高いのだ。188㎝とかなりの長身である。
この背丈ではサイズが合わない服を着れば最悪破ける、かといいオーダーメイドを頼むにも時間がない。
だがガイウスとユピテルは因縁があるので仮装なしで行けば絶対バレる。
さあどうする、と唸ってると奥の従業員スペースから先ほどの店員がやってきた。
「お待ちしました!そちらのお嬢様にぴったりかと」
「うん。え……!?」
「どうしたのルッツ」
「キズ野郎、バル。えーと……笑うな!以上」
何を渡されたんだか、ルッツは恥ずかしそうに試着室へ入っていった。
するとバルトロメオがポン、と手を叩いて笑う。
「あっはははは!なるほどね~」
「何がおかしいんだよ」
「いや~……ルッツも女の子なんだなぁって」
「?」
バルトロメオの言っている意味がわからない。
しかしすぐにその意味がわかった、試着室のカーテンを開け仮装姿が出てきたからだ。
「お、お待たせ……」
「おお……これは……!」
カーテンを開けて出てきたのはメイドプリムにグレーのエプロンドレスを着こなす。
まさに貴族のお屋敷で働くメイドそのものだった。
「なんでメイドなのよー!?これも仮装っちゃ仮装だけどさ!」
「いいじゃん、カーテシーやってみなよ」
「誰がするか!というか私だけ仮装は不公平でしょ、早く着替えなさい」
「うん、僕は貴族時代のお古あるから」
(さすが宰相の息子……)
バルトロメオはお腹を撫で「まだ入るかなぁ」とかぼやきながら試着室に入っていき そして出てきた。
白いシャツに黒いベスト。ズボンは細身の黒、靴は革製のブーツといった装いである。
特徴の長い髪は頭の後ろで結んだ、その姿はまさに貴族のおぼっちゃま。
先ほどのおちゃらけた雰囲気から一転し、馬車から降りてきそうな気品と風格を醸し出している。
「貴族社会を思い出す……あぁ窮屈だ」
「仮装なんだから我慢しろ!俺は……」
「待って!ユピテルってあんたの顔知ってる?」
「知ってるも何も殺り合ったヤツだ!生半可な仮装じゃダメだな。絶対俺とわからない……ん?」
向かいの試着室から参加客と思わしき人物が出てきたが、その様相は大きく変わっていた。
かつらと女物の服を着て完全に異性になり切っている。
仮装にルールはない、なら男装や女装も立派な仮装だろう。
女装した参加客が会計を済ませ出ていくのを見て、ガイウスの脳裏にある案が浮かんだ。
「女装……か?」
「こんなデカくて筋肉ムキムキの女いないわよ!?」
「いぃや居る!居るぞ!僕は難題ほど燃えるタチでね!」
「いや俺は女装するとは言ってねぇぞ!?」
ユピテルは生半可な変装では見破ってしまう。
ゆえにガイウスと絶対わからないレベルで変装しなくてはいけない。
そこで考えたのは性別を偽ることなのだが、ひとつ決定的問題があった。
「俺……女装なんかしたことないぞ?」
そう、ガイウスは女装したことがないのだ。
スカーフェイスかつ長身で筋肉質と、女性で通すには体格が良すぎるのだ。
「化粧や服じゃ誤魔化せないレベルで男よコイツ!?」
「いぃや絶対にガイ君を女装させる!僕がそうさせる!」
「どこがそこまで燃える要素あったの!?やだよ女装なんて!」
ガイウスとルッツは必死で止めるが、バルトロメオの目を見て悟る。
あぁこれは本気の目だと、ステージの上で踊ってる時と同じ目をしている。
こうなったらもう止められない。
見れば心配そうに見守っていた店員も「勇者を女装させる」という無理難題に協力してくれるらしい。
これで断っては勇者の面目が潰れる、もっとも今から行うのは女装なのだが。
「えぇいままよ!とにかくやる!じゃあまずはメイクからだ!!」
こうして、彼らの戦いが始まった。
ガイウスは色んな意味で大丈夫だろうかと、鏡台に向き合う。
そこには冷や汗を垂らすスカーフェイスの男がいた。
「ふむ……ガイ君は肩幅あるから……うん!逆転の発想だ!隠すのでなく活かそう!」
(えぇ~……?)
そんなこんなで2人のなかで女装ガイウスのイメージが固まったようで、今は衣装選びの最中だ。
とりあえず試着してみたが違和感しか感じない、本当に大丈夫なのか?
不安を抱えながら次は化粧へ取り掛かる事になったのだが。
「ちょっといいかなガイ君」
「なんだ?」
「いろいろ考えた結果、武闘家に決まっちゃったよ。フーロンから来たってことにしていい?」
「フーロンか、いいぜ。あの国の文化は知ってる」
「さすが勇者。物知りだね」
話を聞くとこうだ、肩幅を活かそうとした結果。
顔のキズをあえて隠さず名うての武闘家という事にしたらしい。
ガイウスにとって人生初の女装、というか化粧自体初めてである。
バルトロメオが慣れたものというように化粧道具を並べる光景は全く気が休まらない。
唇を湿らす用のリップクリームを近づけてきたあたりで、目の前のダンサー男に力なく話し掛ける。
「バル、俺化粧なんか無理だよ。キズ在るし」
「大丈夫。ガイ君は素材が良いから化粧映えするよ。
せっかくだからおめかししようよ、ね?」
「……わかった、任せる」
「うん!じゃ始めるよ~」
(もうなるようになれ)
口出しするにも化粧の知識がない。
自分より……下手したら女より化粧がうまいかもしれないこの男に任せる他ない。
『化粧は男でもやる機会あるから覚えた方が良い』と言われた事もあった。
そんな日が来るとは思わずスルーしていたのが悔やまれる。
(まさかこんな形で経験する事になるとはな)
「はい、顔は完成!鏡見てごらん」
「……これ、俺か?」
そこには別人がいた。顔のキズはそのままだが先ほどより目立たない。
目鼻立ちはそのままだが、どこか色気を感じる。
「次は髪だね。赤も素敵だけど……ユピテルが気づかない色にしよう」
「カツラ被るのか?」
「もっとナチュラルにしよう、毛染め……経験あるかい?」
「……ない」
「前ダンスで使った黒の染料が残ってたはず。それを使おう」
髪を染める、これも始めてだ。
それも赤から黒という大胆な色への染め替え。
しかしバルトロメオは嫌な顔ひとつせず、むしろ楽しそうに髪を染めていく。
「よし!できたよ!」
「おぉ……すげぇな」
鏡に映っていたのは別人だった。
肩幅と筋肉質さはそのままだが女性らしさを損なっていない絶妙なバランス。
そして何より黒髪が「フーロンから来た」という設定に説得感を持たせていた。
「触っていいのか?」
「いいみたい、うわっ……あんたアホ毛下すとそうなるわけ?」
「アホ毛じゃねぇ!子供のころからの習慣だ」
ガイウスが特徴的な、跳ねた髪束を下ろすと一気に片目が隠れてしまった。
虹色の目に強い容姿コンプレックスがあった習慣から、髪で目を隠す習慣が根付いているのだ。
実のところ両目を出すようになったのもつい最近の事で、元々メカクレなのである。
だがバルトロメオは一気にミステリアスな印象になった彼を見て頷く。
「ガイ君、あげちゃダメだ!鏡を見てくれ」
「?」
鏡に映っていたのは別人だった。
そこには片目を隠した黒髪の美女が佇んでいる。
「えっ!?これ俺か!?」
「そう!騙す相手は因縁持ちでしょ?じゃ徹底的に
キズ野郎の面影を消さなきゃ!衣装も……あれとかいいかも」
向こうにあった、横にスリットが入った妖艶な衣装。
-俗に言うチーパオを手に取り、バルトロメオは笑う。
「このスリットがセクシーだよねぇ」
「ダメ!それは絶対にダメだ!チーパオなんか着たら体のライン丸出しじゃないか!?」
「でも仮装って感じの服これしかないわ、メイド服ならそこのチャラ男に雇われたって設定で」
「あ、じゃチャイナにするわ俺」
(僕なんか凄いディスられた気するんだけど……)
ルッツの一言でチーパオに決まった。
そして今に至るのだが、鏡を見て改めて思う。本当に俺か?別人じゃないか?と。
骨格は女としてたくましすぎるが、チーパオに黒髪が合わさり。
異国の武闘家という雰囲気に仕上がっていた。
そして最後に化粧を仕上げて完成である。鏡を見るとそこには妖艶な雰囲気の美女がいた。
本当に自分なのか疑いたくなってくるほどだ。
「どうよ?」
「すごい!ちょっとフーロン人としちゃデカいけど……ここまで変装すれば顔知っててもバレないよ!」
今のガイウスは完全な別人となっていた。
チーパオのスリットが入った服を着から見える足や腕は筋肉質で引き締まっている。
そして何より特徴的なのはその顔だった。
顔のキズを敢えて消してないお陰で、武闘家と言う設定に否応なしの説得力を与えているのだ。
そんな訳で、準備が整ったところで早速行動を移す事にした。
「どうするの?名前は」
「……シン。でいくぞ」
「星って意味だね。よしっ!じゃあ行こうか!」
たまたま窓から北極星が見えたから、そう名乗ることにした。
ユピテル暗殺計画が始まる、気を引き締めるように三人は会計へ向かう。
「お値段はこちらになります」
「じゃ僕のポケットマネーで」
「お待ち下さい、当店では一定金額お買い上げの方にサービスとしてこちらを提供しております」
「……ナニコレ?」
「扇子さ。いま貴族の間で大ブームなんだ」
店員からサービスとして受け取った扇子は鳳凰が描かれた美しいもの。
ガイウス(女装してるのでシン名義)が今着ているチーパオと非常にマッチしていた。
「タダならもらってくぜ。小道具にはなるさ」
「ありがとうございます!これからもどうぞ御贔屓に!」
舞踏会が始まるまであと1時間、3人は手を振る店員を背に帝城へ向け歩み出した。