トウキョウ物語-銀座編 - 3/4

会場はかつての高級ブランドビルを改装した地下フロア。
今は“GINZA GRAND AUCTION”の看板だけが、
虚飾の明かりを取り戻していた。
シャンデリアの下には、魔族、商人、異形、そして成金亡者。
「世界が滅んでも金は死なねぇ」――そんな欲望の残骸たちが、
今日も拍手と札束で世界を動かしている。
司会の悪魔オークショニアが、金歯を光らせて叫ぶ。

「ご覧ください! 本日の目玉商品はこちらッ!!」
「ただの車のバンパーではありませんッ!」
「――暴徒に破壊された“元日本総理大臣”の車、その一部ですッ!!」
一瞬、静寂。
次の瞬間、拍手とどよめき。

「おおおっ!」
「時代の遺物だ!」
「政治が死んでもバンパーは生き残る!!」
サタヌスが思わず机に突っ伏した。
「夢ねぇのか!? せめてもっとロマンある出品にしろよ!!」
隣のユピテルは、脚を組みながら手を叩いている。
「夢が買える!!いい時代だぜぇ!!」

「黙れキ◯◯イ!!!」(※自主規制しています)
「おおっと!ここで電撃が走ったァーッ! 会場のボルテージ最高潮ォ!!」
ユピテル、無邪気な笑顔で指先からビリッと火花を散らす。
「だって面白ぇだろ?この“腐った文明のガラクタ”を、みんな必死に買い漁ってんだぜ?」
「笑ってんのテメェだけだよ!」

「いやいや、“遺物”ってのは美しいんだよ。壊れた瞬間が一番輝く」
その言葉にプルトが静かに目を細めた。
「……それ、地獄の王の台詞みたいですね」
ユピテルがニヤリと笑い、褒め言葉だと目だけで伝えた。

「続きましてはこちら!“高級メロンパフェの模型”、奇跡の冷凍保存品!!」
「完全に腐っておりますが、“当時の銀座文化”を象徴する逸品です!」

出品されたものは、おおむね地獄だった。
暴徒に破壊された総理大臣のバンパー(血痕付き)
東京タワーのネジ(実物保証なし)
パンダのぬいぐるみ(泣き声付き/原因不明)
高級メロンパフェ模型(冷凍保存)
“昔の人間の笑顔”が映るデジタル写真(バッテリー残1%)

銀座の夜、狂気の競りが続く。
レイスはその光景を眺めながら、
「……人間、死んでも“物欲”だけは生きるんだな」
と呟いた。
プルトは小さく笑って、
「ええ。生への執着とは、結局“買いたい”という欲望ですから」

拍手とどよめきが収まり、司会の悪魔オークショニアが両手を広げた。
「さぁお待たせいたしましたァ!!!」
「次の出品は――伝説の名刀、“村正”ですッ!!!」
会場がざわつく。
刀を好む戦闘狂どもが一斉に札を握りしめる。
赤錆びた刀身がライトに照らされ、妖しい光を放った。

「ついに来たぁああ!!」
サタヌスが立ち上がる。
「初めてまともなの来たぞ!! ユピテルぅ!!!」
レイスも椅子の背にもたれながら笑う。
「妖刀の代名詞だぞ! お前の趣味ド真ん中じゃねぇか!」
だが――ユピテルは出品カタログをめくりながら、
まったく興味なさそうに鼻を鳴らした。

「んー……村正かァ……ただの刀じゃン?」

「はァ!?!?!?!?!?」
サタヌスとレイス、同時にツッコむ。
「いやいや、妖刀だぞ!? 呪われた名工! 血を吸う伝説!!」
「そういうの好きだろ!? “人殺しの刀”とか大好物だろ!?」
ユピテルは頬杖をつきながら、
退屈そうに口角だけで笑った。

「ん〜……舞雷くらい我ァ強くねェとさぁ……」
「他の刀は全部“ただの金属棒”に見えンだよ」
その瞬間、背後の天井ライトがバチィッと弾けた。
観客がどよめく中、ユピテルはまるで退屈を噛み殺すように笑う。

「刀が人を呪うんじゃねェ。人が刀に呪われてンのさ」
マカが静かに紅茶をすすりながら、一言。
「……現実に刀剣乱舞求めないでください」
「それ言っちゃう!?!?」

出品カタログ・抜粋
村正:状態良好、刀身に微弱な呪波反応あり。
舞雷(展示参考):落札不可、前回ユピテルが持ち逃げ。
“斬れなかった歴史書”(ページごとに呪文付与)。
雷神本人の髪束(偽物疑惑99%)。

ユピテルはカタログを閉じ、指先で机を軽く叩いた。
「ま、斬れねぇ刀には興味ねェな。
俺は、“斬れる”方の物騒担当だから」
「お前、カテゴリ“人間”じゃねぇよな?」
「おいおい、人間なんざ、もう誰も残っちゃいねェよ」
赤い照明の中で、ユピテルの瞳が一瞬だけ稲妻のように光った。

照明が落ちた。
薄暗くなった会場の中央、一本のスポットライトが刺す。
それはまるで神の啓示のように、一本の書を浮かび上がらせた。
司会の悪魔が、金歯をキラリと光らせて声を張り上げる。

「――さぁ、お待たせいたしましたッ!!」
「本日の最終出品は……伝説の少女漫画――」
「『ゆびきりを、もう一度。』……第五巻!!」
会場がざわめきで揺れる。
空気が一変するのがわかる。空調も魔法も関係ない。
記憶の奥を殴られた観客たちが、本能で“それ”を理解していた。

「ご存じですね!? そう、あの伝説の“五巻”です!!」
「大災害の“その日”、偶然にも発刊された最後の一冊!!」
「世界には、残り200冊も存在しないッッ!!」
レイスが椅子から身を乗り出し、頭を抱えた。

「うわああああ!? アレ伝説だぞぉ!!」
「よりによって最終巻だけが……最終日に出ちまったんだよ!!!」
「回収も流通も止まって、公式も行方不明になって……
“現存する完結作品”が……200冊しかねぇ!!」
サタヌスがポカンと口を開けて呟く。
「作者……前世で何したんだよ……」

司会は続ける。
「ラストページの“あのコマ”……誰もが記憶していますッ!」
「“焼け焦げた吹き出し”、そして――“ゆびきり”のシーンッ!!」
「中のセリフは読めない……だが、あの笑顔だけが世界に残った!!」

静まり返る会場、誰もが思い出していた。
世界が滅ぶ、その日。
それでも、愛を描いた――少女の物語。
「……ストーリー性あるな。よし、本気で狙うぞ」
「村正スルーしてたくせにぃぃぃぃ!?」

「スタート金額は――10万ソウルから!!」
「人間、滅んでもマンガには課金するんですね」
「“物語”こそが宗教ですから」
レイスは額を押さえて笑い、
「だめだ……文明の亡霊どもが、マンガで殴り合ってる……!」
ユピテルは完全にスイッチが入っていた。
「200万!!」
「220!!!」
「……300万ソウルだ!!」
雷光が弾け、椅子が吹き飛ぶ。
「ひィッ!?!?」
「で、出ましたァ!! 雷の将軍、ユピテル様より三百万ソウル!!!
これ以上の入札は――!?!?」

――静寂。

「……買う気満々じゃねぇかよ」
「“漫画は命より重い”って知ってるか?」
「……だから冥界行きなんですよ、あなたは」
会場の照明が落ち、“旧人類の最期のマンガ”がユピテルの手に渡った。
彼はゆっくりとページを開き、
「……ふぅん。いい線描くじゃねぇか、人間」と呟いた。
雷の閃光がページを照らし、遠くでサタヌスが叫ぶ。
「なぁ!読ませろよ!!!」
「やだね♡」