ドリーミア編-同じ悪夢 - 4/5

「こっちは閉園エリア!? なんでそっちが通れるんだよ!!」
レイスが怒鳴りながら、倒れかけたゲートを飛び越える。
「あははっ、解説しま~す♡」
すぐ後ろから聞こえる、やけに滑舌のいい追跡者の声。
「こちら、“夢見の庭園エリア”!
ドリーミアの中心となるスペースで、ピクニックや家族写真の撮影に大人気でしたぁ~♪」
「息切れしてる我々に丁寧に説明すんじゃねぇ!!!!」
「次は“幻灯回廊”を通りますよ~♪
ナイトパレードでは光と影の演出が幻想的で、プロポーズスポットとしても話題でしたッ♪」
「恋人いねえし今それどころじゃねぇ!!!!」
「うおおおおお!!」
ひときわデカい声をあげてロコが加速する。
その言葉に、メフィストがぴたりと止まり。
完璧な営業スマイルで答える。

「ええ♡ ご褒美に……私と一緒に“回り続ける権利”をあげますよ♪」
「うわあ! 楽死(たのし)いいいいいい!!!」
ロコがなぜかテンション爆上がり。
「お前それ!“死”のテンションだぞ!!」
ティアが全力で引きずって引き戻す。
その頃レイスは、フェンス越えた先の植え込みで虚無顔。
「……こんな地獄にテンションで勝てるやつがいるとは思わなかった」

逃げ続けた果てに、広場へと追い込まれたレイスたち。
メフィストの足音が近づいてくる。
「やだなぁ、もう終わりなんて言わないでくださいよぉ~♡
“夢”に終わりなんて、ないんですからぁ~~♪」
その声が、地獄の風鈴みたいに響いていた。

そして目の前に、そびえるように待ち構えていたのは――
ジェットコースター“ドリームクライマックス”
鉄の骨組みはギシギシと軋み、座席の安全バーはすでに半分壊れている。
それでも、コースターは規則正しく動いていた。
“夢だから”という理由だけで。

「これに……乗るしかねぇ!!」
「……おい」
レイスが冷めた目で口を開いた。
「コレ、次で確実に壊れるぞ……あぁでも……マジシャンが来る……ッ!!」
後ろを見れば、手を広げてにっこり笑うメフィストが。
そのままスキップで追い上げてくる。

「乗る以外に選択肢がありません」
メーデンが、どこか悟ったように呟いた。
「……神頼みですね……」
「ラストライド、か」
ティアは安全バーを握りながら小さく笑った。
「……悪くない」
その言葉と同時に、ジェットコースターは音を立てて。
空へ――夢の終端へ、走り出した。

ガタン、ガタン、ガタン――!
鉄の軋む音を鳴らしながら、ドリームクライマックス号が走り出す。
「うおおおおおおッ!!」
ロコが叫ぶ。全身でテンションMAXを表現し、腕をブン回す。
「速いです!!ほんとに速いです!!」
メーデンはバーにしがみつき、瞳に涙を浮かべて叫ぶ。
レイスとティアは、ほぼ無表情。
「……これ、いつ崩れてもおかしくないな」
「ああ。既に半分崩れてる。むしろ奇跡で持ってる」
風を切る。ギシギシ鳴る。
急カーブで、カートが浮き上がる感覚に全員の身体が揺れる。

その時だった。
コースターが、逆走を始めた。
「えッ!?逆ッッッ!!!???」
メーデンが本気で泣きそうになる。
「コースターって後ろ行けるの!?」
ロコがテンションのまま絶叫。
そして―その時、誰も座っていなかったはずの最後尾から、声がした。

「あぁ~。これ、壊れそうですねぇ♪」
振り向いたレイスの顔が真顔で硬直する。
「……おい」
「……だから言っただろが!!お前のせいか!?」
にっこり笑うのは、レールの上にきっちり座っている赤いマジシャンスーツの男。

「いいえ? 元々ですよ?」
「これは設計ミスです♡」
「その顔で設計の話すんな!!」
レイスがガチトーンで叫ぶ。
ティアが真顔で呟く。
「どっから乗ったんだアイツ」
「むしろいつからいたんですか!?!?」
メーデンがツッコミと悲鳴の中間で言う。
コースターはどんどん加速する。
逆走なのに、終点が見えない。

風が、音が、狂っていく。
後ろではメフィストが両手を広げ、まるで夢の王のように宣言する。
「さぁ、夢の終わりを――迎えにいきましょうか♪」

ジェットコースターが――止まった。
ガコン、と何かが引っかかる音。
その瞬間、支柱のひとつが音を立てて崩れた。
次々に壊れていく骨組み。
悲鳴のように軋みながら、ドリームクライマックス号は、粉々に崩れ落ちた。

「……わ、壊れた!?」
「いや、壊れるって言ってたし!?」
鉄と木の破片が舞い散る中―乗客一同、ふらふらになりながら降り立つ。
「もう一回!」
ロコが目をキラッキラさせながら両手を上げる。
「無理だ、壊れた」
レイスが塵と化したレールを見ながら即答。

「……ラストライドでしたね」
メーデンがそっと呟く。
少しだけ、目元に涙の跡があった。
そしてメフィストは、崩れたコースターを眺めながら微笑んでいた。
「あぁ~、また壊れましたねぇ♪」
「“また”って何回目だよお前……」
ティアが冷めた目で睨む。
しかし、メフィストはもう、こちらを見てはいなかった。

「ではまた、夢の途中で――」
そう言って、シルクハットのツバに手を添えたその瞬間。
ふわり、と赤い布が舞う。
次の瞬間、メフィストの姿は風に溶けるように、そこから消えていた。
まるで最初から、何もいなかったかのように。

コースターが崩れ落ちた、そのすぐ隣。
そこには、別のアトラクションが静かに回っていた。
メリーゴーランド。
誰も乗っていない。
馬たちは空っぽの座席に微笑みを貼り付けたまま、ゆっくりと、永遠に回り続けていた。
軽快すぎる音楽だけが、空間に響く。
それは滑稽で、どこか痛々しく、そして……哀しかった。

「これも……乗っていいか?」
ロコが純粋な目で、指差しながら聞いた。
レイスはその顔を見ずに、渋い顔で返した。

「やめとけ。……アレはやばい。」
ティアが、少し首を傾げて言った。
「……レイス。あれは、なんだ?」
レイスは短く息を吐く。
「同じ景色を……ひたすら、回り続けるだけだ」
「それは……」
ティアがゆっくりと、虚空を見つめながら呟いた。

「……虚無じゃないか?」
「虚無だぜ……」
しばしの沈黙。
回る。
何も変わらず、ただ回る。
夢も、希望も、感情も、乗客さえもないのに。
虚無bot、誕生。