大龍編-武神と海王 - 1/5

フーロン首都-パーダオ
レオノーレが温度差で風邪を引きそうだと言う通り。
王女を喪い国全体が悲しみに包まれるアルキード王国に対し。
フーロン皇国中が湧いていた。なぜなら今日は大龍祭。
国を挙げて祝う日なのだ。街ゆく人々の顔は明るく、誰もが笑顔だった。

提灯が連なり、空を舞う龍の紙飾り。
露店の香辛料の匂いが鼻をくすぐる。

通りを行くのは奇抜な組み合わせ。
傷顔の漢服の男・ガイウス。
紅いチャイナドレスのハーフエルフ・ルッツ。
舞衣装の青年二人・バルトロメオとシャオヘイ。
そして仙女姿のハオ老師が番傘を差しながら笑っていた。
「ガイウスくんまで漢服着る必要あるのぉ?」
「大龍祭はドレスコードが厳しいノ。形から入るのヨ♪」
……やけに派手な一行だ。
この明るい喧噪の中に、誰も“戦場の空気”を感じ取ることはできない。
ただ、彼らだけは違っていた。
この祭りは、マルスを誘い出すための“作戦”でもある。

「師匠。出店で遊んでいいですか?」
「いいヨ、まだ開門まで時間あるからね」
シャオヘイはお気に入りの黒のチャイナ服から狐の尻尾をフリフリしている。
年の一度の大祭ということで、いつもな厳かな皇宮への道は。
赤い提灯と異郷の祭りに染まっていた。
魔王軍が国土に攻め入っているの最中でも、一時休戦を行ってまで開催したというそれは。
今まで見てきたどの祭りよりも盛大だった。

「これはすごいな」
「俺と師匠、この日だけパーダオに来るんですよ。いつものパーダオは厳か過ぎますから」
シャオヘイはクルクルと回り、黒髪から髪とお揃いの色の狐耳を揺らす。
いつもは仙人の弟子として堅物気味な少年も、やはり子供。
はしゃぐ時ははしゃぐのだ。
「あ、射的だよガイウス君」
「俺銃は使わねぇよ?趣味じゃない」
「大丈夫。おもちゃだから、それに勇者様は万能なんだろ?」
「……仕方ねぇな、じゃあの赤いのね」
ガイウスはおもちゃのライフルを受け取り、狙いを定めて引き金を引く。
弾は命中した……が倒れず、少し揺れた程度だった。

「あっはっは!お客さん残念!それじゃあ景品は獲れないよ?」
「ちっ」
当たりはしたが倒れなかった、バルトロメオが言う「勇者は万能」と言うのは事実だが。
ガンナーのスキルは趣味じゃないと習得をしなかった。結果がこのありさまだ。
早々にめんどくさがったガイウスを見て、ルッツが貸せとライフルを引っ手繰る。

「銃って飛び道具でしょ?弓と同じよ、ほらこうすんの!」
ルッツは流れるような動作で構え、引き金を引いた。
弾は景品に吸い込まれるように当たり。
ガイウスが目標として指差した龍のぬいぐるみを見事撃ち落としたのだ。
「さすがエルフ!飛び道具使わせたら右に出る者無し!」
「アンタにだけは言われたくないわね」
ルッツは景品のぬいぐるみをシャオヘイに渡し、向こうの飴細工を見に行く。
相変わらず気まぐれなやつだと、軽く肩をすくめる。

「今年は特に盛況してるんだよ、麒麟様が出たんだ」
「麒麟が出るのってめでたいの?」
「ああ。麒麟様は神の化身でね、現れるときは救国の英雄が訪れるときと決まってるんだ。
だからみんな大喜びさ」
バルトロメオはシャオヘイにそう説明しながら、射的の景品を物色している。
そして「あ、これ可愛い」と亀のぬいぐるみをねだるルッツを見て、また笑った。
「じゃあその救国の英雄ってのは?誰なんだ?」
「さあ?でもとにかくとてもめでたい事だよ」
「へぇ」
「そうか。じゃあこのお祭りがずっと続くように頑張らないとな」
シャオヘイはそう言い残し、射的の景品をバルトロメオに渡しルッツと合流する。
そして三人はまた出店を見て回るのだった。

一方そのころ、ネプトゥヌスも六将でなく「名物クリーニング屋」として準備を整えていた。
「では大家さん、わたくしは皇宮へ向かいます。よしなに」
「ええメイレンユエちゃん、大龍祭ってことで山ほど洗濯物出るかもしれないけど、よろしくね」
「はい、では」
もうすっかり偽名である「メイレンユエ」と呼ばれることに慣れてしまった。
六将でなくただのクリーニング屋として、ネプトゥヌスは皇宮へ向かう。
「さて、では始めますか」
メイレンユエは店先に出した「本日休業」の看板をひっくり返し。
「大龍祭限定!特別クリーニングサービス!」と書いた看板を出した。
そして店先へ置かれた椅子に腰掛ける。
「さあ、どんな汚れでも落としてみせますわ!」
ネプトゥヌスは、この皇宮で「メイレンユエ」として。
「クリーニング屋」として大龍祭の日を、迎えるのだった……。

——-

「これより皇宮の門を開く!下々の民は天狐皇様の御姿を目に焼き付けるように!」
それから数刻後-門兵の声が響き、轟音と共に四聖獣の描かれた大きな門が開かれた。
朱雀、玄武、青龍、白虎の四聖獣が描かれたその門は皇宮へと続く道だ。
門兵に誘導され市民らは列を作って皇宮へと入っていく。
ガイウスたちも「時が近い」というように息を呑んだ。
そう、彼等はただ祭りを楽しみに来たのではない。
皇の右腕と言う地位に納まり、間違いなく良からぬことを目論んでいるマルスを誘い出し。
その悪行を止めるために来たのだ。

「さあシャオヘイ、バルトロメオ、ルッツ。準備はいいな?」
「うん!」
「ええ!」
3人は頷き合い。そしてガイウスを先頭にして門をくぐる。
するとそこには-。
「すごい人だかりね……」
「……おいルッツ手つないどけ、お前チビだから見失うと困る」
「アンタが無駄にでかいだけでしょ!」
門をくぐった先には人、人、人の大混雑だった。
ハオとルッツは背が低いため見失う可能性が高く。
それを心配したガイウスに手を繋ぐことを提案され、二人は渋々それに従うのだった……。
そしてそんな彼等を窓から眺める影があった、マルスだ。
椅子で足を組んでいたのから立ち上がり、癖である角の先を指でいじる。
「やはり、来たかガイウス。」
「決着と行こうか……私の炎が大陸を包むか、お前との因縁にケリをつけるか」
マルスはそう呟き、窓から外を見る。
そして人ごみの中に「彼」の姿を見つけ、その口角を吊り上げた。

「はぁ……まさか、こんなことになるなんてなぁ……」
「仕方ないだろう、この大龍祭がマルスをおびき出す最大のチャンスなんだし」
「だからってなんでこんなカッコなんだよー!
しかもよりによってあんなアホと!」
「ま、まあまあ落ち着いて……」
そうこうしているうちに一行は城門へと到着した、門番に事情を話すと。
あっさりと通してくれたので拍子抜けする。
だが、中に入った途端全員の表情が引き締まる。
無理もない、ここにはこの国で最も高貴な人物がいるのだから。
案内人に連れられ大広間へ入ると、そこは人でごった返しており。
とてもじゃないがゆっくり話が出来そうにない雰囲気である。

「ほら、あの人が皇様!此の国で1番えら~い人」
「へぇ。髭面のおっさんと思ったが意外と若いんだな……」
「当然です、仙術で年をとるのを遅らせているのです」
「なるほどねぇ」
一行が小声で話している間も宴は続いていた。
ガイウスは皇に捧げる余興という出し物が始まったのでそれを見てみる。
だがどれもこれも興味を引くものでなかったので。
すぐ視線を外し料理を食べに行ってしまった。
一方、マルスは食い入るように舞台を見つめていた。

(これが人間どもの最高戦力というわけか……)
マルスからすれば人間など取るに足らない存在だ。
しかし今の彼には違う考えがあった。
この力が炎となって忌々しいアルキード王国を焼き尽くすのだ。

思わず笑い声が漏れてしまう、周囲の人間は怪訝そうに見つめるが気にしない。
なにせアルキード王国には六将で最も残忍なウラヌスを送り込んでいるのだ、
彼女が内部から国を崩壊させていく様子が手に取るように分かる。
今頃あの国は地獄絵図となっているに違いない。
想像しただけでも笑みがこぼれてくるのだった。