大龍編-武神と海王 - 2/5

「はぁ、フーロンの飯はうめぇなぁ…」
ガイウスはむしゃむしゃと皿に盛られた料理を平らげていく。
その様子をバルトロメオたちは呆れながら見ていた。
「よく食べるわネェ、そんなに食べて太らないノ?」
「いや別に?俺の故郷じゃこれくらい普通だぜ?むしろお前ら食べなさすぎだろ」
「だってあたしエルフだもの、少食なのよ」
「仙術で食欲を抑えるのを覚えたおかげかネ?ほら、シャオヘイも見習いなさイッ」
「は、はい師匠っ……あむっ……もぐもぐ……」
食欲を抑えろと助言したのにまた食べだした。
これで本当に仙人になれるのやらとハオは息をつく。
ガイウスはというと向こうに魚料理が沢山置いてあるのに気づいた。
肉にちょっと飽きていたのだ、魚もいいかなと箸を伸ばした時。

「あら漢服が素敵な殿方ですわね……って」
「ネプトゥヌス!お前も参加してたのかよ!!」
「参加しますよ!!ああ、ガイウスを素敵な殿方と呼ぶなんて
何という失態でしょうか!このまま死にたい気分ですッ!!!」
「うっせぇよ!ったく相変わらずだなお前は……」
昔なら一触即発になっていた筈だが、甲高く喚き散らして満足したのか。
今は宴だからか鼻を鳴らし紹興酒を飲み出す。
以前の彼女ではあり得ない行動に思わず片眉を持ち上げた。

煌びやかな旗袍(チャイナ)を纏った客人ばかりの会場にあって。
ただ一人、闇を湛えた深海色のドレス。
露出の少ない黒が、かえって彼女の肌の蒼さを際立たせていた。
「ただの祭りで終わる気がしませんでしたので」
ネプトゥヌスはそう言って微笑む。
その声は優しく、それでいて波打つように冷たい。

「通行人にはずいぶん残念がられましたわ。
“あんなに旗袍が似合うものはそうそういないのに”と」
軽く肩をすくめる仕草にも、女王の品が滲む。
だがその瞳は笑っていない。
底知れぬ静けさがある――それは戦場の潮の匂いだった。

「どうした?お前六将だろ」
「ええ。今もそうですわよ」
「魔王から皇サマに鞍替えしたの?」
ルッツの方を見下ろしムスッとしながらグラスの紹興酒を流し込む。
相変わらず生意気だと思うが、確かに彼らからすれば不思議な行動だろう。
六将は魔王の腹心、そして彼らは魔王復活のため奔走している筈なのに。

「転生体……もといルチア様にはお会いしましたか?」
「ああ」
「あの子は復活を望んでいない。無理に覚醒させたところで王の復活は成し得ないのです」
魔族の世界は徹底した実力主義かつ弱肉強食の価値観である。
個人でなく力に忠誠を向けるのは至極当然のことだ。
だが、ルチアはそんな価値観とは対極に位置する存在だ。

「それに言葉を交わしてみて思いましたが、あの天狐皇という男。
器が出来ていますからね。仮に復活してもあのものに仕えるでしょう」
「そんなにすげぇのか?あの狐顔」
「無礼な男!まぁ確かに切れ長の目をされてますがねぇ!」
ネプトゥヌスは元々魔王への忠誠心がそんなにない節があった。
だがまさか鞍替えするほどとは、何があるかわからないものだ。

「それに我々、いまソロで活動してるでしょう?冷静になって思えてきたことがありますのよ」
「なんだ?」
「わたくしが貴方を気に入らないのは、魔王を殺したからでなく。
六将全員で揃える時間を奪ったことでないかと」
ネプトゥヌスの本心はこうだ、正直魔王が復活しようが、しまいがどうでもいいのだ。
だがユピテル、マルス、ウラヌス、プルト。
六将全員で揃って笑いあう時間は魔王よりはるかに失いたくなかったのである。
だがユピテルは魔王復活に奔走するあまり死んだ、ウラヌスも死んだと風のたよりで聞いた。

「それにわたくしね、あの戦争マニアにはついていけないのです。
皇様を焚き付けてアルキード王国を侵略させようとしているのですよ?」
「アルキードを滅ぼすぅ!?むぐぐっ」
「おいヒスエルフ大声出すな!本当か?」
「まずいよ……!アルキード王国は帝国の庇護下にある。そんなことをすれば……」
「帝国のメンツ丸つぶれネ、世界大戦の引き金にもなるヨ」
マルスの行おうとしていることは予想を超えるものだった。
思わず大声を出したルッツの口を慌ててガイウスは手でふさぎながら問う。
大陸最大の二大国家の武力衝突となれば、世界大戦に発展するのは明らかだ。
そして改めて決起する。この大龍祭が世界大戦を止める最後のチャンスだと。

「魔王を討った人間への復讐と言っていますが。まぁ口実ですわね。
あの男は歴史に名を刻みたいだけでしょう」
マルスとは元々反りが合わないところがあった、だが最近はもう限界だ。
さらに「麒麟」が現れた、これが決定的であった。
麒麟は神の化身。彼が現れるときは救国の英雄が現れる時と言われているのだ。
まるで-今のフーロンは滅びに向かっていると「神」が言っているかのように。

「ガイウス。先に言いますがわたくし、貴方のこと大嫌いですからね」
「わかってるよ」
「しかし、アルキードを滅ぼすことは望んでおりません。
わたくしが復讐したいのは貴方であって国ではないのです」
魔王を討ったガイウスへの復讐心が在るのは事実だが。
アルキード王国をフーロン皇国に滅ぼさせるとなると、八つ当たりとしか言いようがない。
そんなことをするくらいなら自分も滅びる、それがネプトゥヌスの覚悟だ。
自分たちの知らぬところで、六将の間にも埋まらない溝が生まれていたとは……。

「協力してくださらない?マルスは炎の悪魔。
冷水ぶっかける要因が居るでしょう」
「お!?共闘!?いいね~あたしそういうの好きー!!」
「おバカさん!マルスを倒すまで、ですのよ!」
二人はお互いに顔を見合わせると不敵に笑いあった。
こうして追放者パーティーに、なんと蒼水将軍ネプトゥヌスが加入したのだ!
思わぬ助力だと驚きつつも全員でマルスに挑もう、と。
ユピテルのときのように誘い出す手段に出よう……。
と思ったが止めるものがいた、ハオだ。

「等一下(ちょっと待て)!寛寧様は老獪ヨ、それだけで罠にかかることはないワ」
「じゃあどうすんだよ、何かいい案でもあるのか?」
「う~んそうネ……」
「あ!師匠、始まりました。始まりましたよ!」
「なにが」
興奮するシャオヘイにつられ全員が舞台を見る、そこには武闘家と思わしき人々が。
舞台にあがって試合を始めているじゃないか!あれが皇への出し物だというのか。
それを見ながらハオは「これだ!」という顔をする。

「武闘演舞です、大龍祭の名物ですよ!」
「武闘演舞って?」
「皇サマの前で試合をするのヨ。
一番良かった戦士はどんな願いも叶えてくれるそうネ」
「へー!!すごいね!」
「ええ。それでガイウス……ちょっと耳貸しなさイ。ハオの作戦は」
ハオはガイウスの耳元で何やら話す、何を話しているかは分からなかったが。
彼の口元は了承したという代わりに弧をえがく。
「いいぜ、乗った」
「そうこなくちゃネ!」