「武闘演舞のルールを解説する!試合はこの舞台上で行い、舞台の外から一歩でも出た時点で敗北とみなす!
なお、武器は木製の物を使うように!相手を死に至らしめる攻撃は禁じ手とする!」
「うおおおお!!」
「武闘演舞だあッ!!」
「待ってましたー!!」
大龍祭の目玉である武闘演舞がついに始まった。
舞台ではすでに二人の戦士が戦いを繰り広げている。
一人は筋骨隆々の男、もう一人は細身の戦士だ。
そしてそれを観客たちが取り囲み声援を送っていた。
皿に取り分けてきた肉まんや串焼き絵を手に応援していたバルトロメオはふと気づく。
あれガイウスは?と、ハオだけはガイウスがどこへ行ったか知っているように。
「サプライズは大事ヨ」とだけ言って、肉まんをかじっていた。
「うおおお!いけええ!」
「負けるなああ!」
観客たちはどちらが勝つか賭けているようで、あちこちから歓声が聞こえてくる。
正直喧嘩を見るのは好きである、ダンサーと言う仕事柄。
酔っぱらい取っ組み合いを見るのは日常茶飯事だからだ。
「うおおお!!」
「はあっ!」
そんなことを考えていると、どうやら決着が着いたようだ。
勝ったのは細身の戦士、観客たちは歓声を上げている。
「おおっ」
「やったー!」
「フゥーッ!」
戦士は舞台を降り、観客たちに一礼する。
そしてそのまま舞台裏へ消えて行った。
武闘演舞はトーナメント方式となっており、勝ちあがった者たちが皇の前で戦う。
そして優勝者は願いを1つだけ叶えてもらえるのだ。
「うおお!俺の金がああ!!」
「いいじゃない、どうせまた稼げばサ」
「でもよ~……」
そんなやり取りをしながらバルトロメオは舞台に注目する。
次はどんな試合になるのだろう?そしてガイウスは何処へ消えたのだろう……?
まぁハオが言う「サプライズ」に期待だと、舞台に注目するのだった。
そして-武闘演舞がいよいよ決勝戦目前となった時。
ずっと椅子に座り頬杖をついていた天狐皇が、目を細める。
彼は寡黙で無表情だ、だから目にした者のほとんどは「何を考えているか分からない」と言う。
だが彼は今、確かに口角を上げていた。
「さてマルス、武闘演舞もたけなわ。お主も参加するがよい」
「知道了(わかりました)」
マルスは頷き、腕組みを解いて舞台へ歩いていく。
赤い羽衣を揺らし優雅に、しかし発するオーラはまさに「炎」。
そのオーラに気圧された観客たちは、自然と道を作る。
まるでモーゼの十戒だ、とバルトロメオは息を飲む。
彼は壇上に上がるとゆったりと、太極拳を思わせるような構えを見せた。
「マルスの武器は拳なの?」
「あやつが何を使うかは見た方が早い、まずは始まるぞ」
皇に言われ武闘家たちは構えを取り始める、そして一瞬の静寂の後。
ドゴォッ!!という轟音と共に武闘家が宙に舞うとそのまま動かなくなる。
会場中が静まり返る、だが審判が動くことはなく。
倒れた武闘家の方へ行こうとするとマルスが手で制す。
「ま、まさか今の一瞬で!?」
「一撃で仕留めたというのか!?」
武闘家は気づいたら宙を舞っていたのだ、観客たちも何が起こったのか分からない。
だが審判はマルスの殺気を感じとり首を横に振ると、会場中に響く声で勝者の名を呼んだ。
「マルスの勝利!!」
その名が呼ばれた瞬間再び歓声が巻き起こる!皇も満足気に拍手していた。
マルスは満足げに頷くと次は何をするか?と首を傾げる。
そんな彼に近付くものがいた、ネプトゥヌスだ。
「お下がりなさい、審判はわたくしが致します」
「よ、よいのです?」
「ええ。次の試合は人間には刺激が強すぎるでしょう」
審判を下がらせネプトゥヌスはじっと見つめてくる。
審判役ということは、彼女以外に戦いたいものがいるというのか……?
「なんだネプトゥヌス?水でも差しに来たか」
「いえ、より熱狂させようと異国の戦士を呼びましたのよ」
「ほう?」
「さあ、来なさい!」
ネプトゥヌスが手を振り上げると、漢服の男が壇上に上がってきたではないか。
しかし顔は仮面で隠されていて、面から表情は伺い知れない。
だが背負う剣やオーラから只者でないことが伺える。
「貴様、名は?」
「………」
「どうした、口がきけぬのか?」
「あら失礼。火傷で喉が焼かれたそうで。
声が出せないそうですの……しかし剣の腕は本物ですわよ?
さあ!このネプトゥヌスが最高の舞台を用意しましょう」
もちろん実際は違う。声を出せば仮面の男の正体がガイウスとわかるからだ。
だがそんなこと知らないマルスはにやりと笑うと手を下ろすよう合図する。
そして両雄が向かい合ったその時、会場の熱気は最高潮に達した……!
「ではこれより、マルスと異国の戦士による試合を執り行う!はじめ!」
その言葉と共に炎を纏った拳を振るうマルス、しかしその攻撃は全て避けられる。
それどころかカウンターを受けてしまい。
膝をつく羽目になった、どうやら相当な実力者のようだ。
「くっ……!何者だ貴様ッ!?」
「……」
ガイウスはネプトゥヌスの「声を出すな」という約束通り。
クイクイと手を動かした。この仮面を叩き割れたら教えてやるよという合図である。
「そうか、ならば!」
マルスは構えを取ると魔力を練り始める、1年前の死闘を思い出しながら何処か楽し気に。
この立場に収まってから稽古として戦士を相手したりはしたが、どれも燃えなかった。
あの男には遠く及ばない、七色の瞳に赤い髪、自分が負わせた消えない鼻の傷。
そして目の前の仮面は-一言も発さぬ仮面の動きはその男と限りなく似ていた。
いや同じだ!足の踏み込み方も腕の振り方も。
「意地でも口をきかぬか!ならばっ……」
マルスは「あの男だ」という確信を抱きながら、片足を折り曲げ。
バネを戻すように一気に伸ばし、蹴りを叩きつける!
人間をはるかに超える脚力に仮面がひび割れ、砕ける。
「やはり、貴様か……」
マルスは自分でも説明しがたい気持ちになっていた。
また邪魔しに来たという苛立ち、騙されていたという怒り、そして。
-男の仮面が砕ける、そこから現れたのは。
特徴的な顔の傷、虹色の瞳。燃えるような赤い髪。
「ガイウス・アルドレッド……ッ!!」
叩き割られた仮面が更にヒビ割れ。
仮面-もといガイウスは鬱陶しそうにそれを破り捨てる。
「相変わらず、人の顔を覚えねぇな」
剣を抜く音が響く。
舞台の熱狂が、一瞬で「戦場の静寂」に変わる。
「おい……あれ、シェンタオで見たことあるぞ!」
最前列のモブが声を上げる。
「デッカイお兄ちゃんじゃねぇか!」
別の観客が立ち上がると、すぐに周囲がざわつき始めた。
「誰?」「あの髪の赤、あんな派手なの他にいないって!」
「キャ~!いつものコートより数倍かっこいい!!」
妖狐の娘たちが頬を染め、尻尾を振りながら叫ぶ。
普段の旅装とは違う――
胸元を浅く開いた朱の舞衣に、腰には生成りの帯。
腕には防具ではなく、しなやかな布を巻き、
風を操るかのように、軽やかに開くその仕草。
彼は戦うために舞う。
舞うことで“戦う意志”を隠す。
舞衣の裾が揺れるたび、観客の目は奪われ、敵の意識は乱れる。
戦いを演出に変える、それが――ガイウスの作戦第二段階だった。
「来るとは思っていた、シェンタオで再会した時からな。しかし何故騙す様な真似などした?」
「俺の目は少し目立ちすぎる」
言葉短かに告げ、ガイウスは「演舞」でなくここからは殺し合いだというように。
竹刀を捨て、腰のダリルベルデを引き抜く。
そして、彼は1年前もマルスと対峙した際に行った構えを取った。
ネプトゥヌスもこの展開を読んでいた。
彼女が審判として壇上に立ったのは、炎を“水”で制する布陣。
もし暴走すれば、即座に彼女がマルスを抑える。
ガイウスにとっても、唯一“炎の将に対抗できる安全弁”が彼女だった。
「……では、これより演舞を再開いたします。どうぞ、全力で燃やし合いなさい」
その声に、観客の誰もが息を呑む。
「来い、マルス」
1年前の死闘が今-再び幕を開ける。
仮面を脱ぎ捨て、剣を構える勇者。
拳に炎を纏う将軍。
観客は何も知らず、「異国の戦士 vs 炎の武闘家」として歓声を上げる。
だが実際は「世界大戦を止めるための一騎打ち」が今、始まる。