大龍編-武神と海王 - 4/5

舞台での演舞-いや炎舞はさらに激しくなり、民は食い入るように見つめる。
「マルス様があんな顔をするのは初めてではないか!?」
「一体あの男は…」
「はいはいはい民ども!ルッツちゃん達が
教えてあげるから刮目しなさいよー!」
民たちがざわめく中、ルッツはマイクを手にして真実を告げていく。
マルスの正体は六将であること-皇を唆し。
アルキード王国に言い掛かりをつけ滅ぼさせようとしていること、
そのためにフーロン皇国の民を人質にしようとしていること。
これらを話す間も戦いは続いている、ネプトゥヌスはその間も。
2人の戦いに水を差さぬようあくまで中立に、真剣な面差しのまま審判を務めていたが……。

「ッ……いけません!」
泡の結界に綻びが生じたのに顔が一気に険しくなる。マルスは加減と言うものをまるで知らない。
このまま結界の綻びが大きくなれば炎が会場を包み込み大惨事だ。
2人の戦いに水を差すつもりはなかった。
というかガイウスは勇者としても、個人としても大嫌いであるが。
「およしなさい!マルス!!」
ガイウスの目の前にとっさに水の壁を張り、炎を防いだ。
「む」
「……ふぅ」
「ネプトゥヌス、何をした?裏切るのか!?同じ六将に在りながら!!」
マルスの矛先はネプトゥヌスへ。
しかし彼女は怯むどころか逆に睨み返し、そして言い放つ。

「勘違いしないでくださる?わたくしはただ民を守るだけですわ」
「なにぃ?」
「わたくしはわたくしの生活があるのです、それにあの向こうの人間。お得意様ですのよ?」
親指で指し示す先には皇宮の役人や貴族、 そして宰相といった富裕層が集まっている。
マルスが皇の側近としてアルキード侵攻計画を練る。
すぐ隣でネプトゥヌスは一介のクリーニング屋として暮らしていた。
それが二人に埋め難き溝を作り、それぞれの生き方を生んでいたのだ。

「そんな打算で動くだと!? 貴様は六将失格だ!恥を知れェ!!」
「なんとでもおっしゃい」
-ネプトゥヌスはマルスのことが大嫌いだ、しかし。
彼女は六将の中で誰よりも民のことを考えていた。
アルキード王国が滅んだらフーロンはどうなる?
そして何より、自分の生活はどうなるのか?と常に考えていた。
だがあくまで自分は審判-ガイウスの味方になったわけではないのだ。
庇う様にガイウスの前に立つネプトゥヌスは、横目だけで彼を見やると。
「ガイウス、わたくし結界の保持くらいしか致しませんからね」
「知ってるよ。ありがとな、ネプ」
マルスの口元が歪む。
「……この裏切り者どもが」
――その声はもう、理性を失っていた。

彼の足元に炎陣が浮かぶ。
舞台の木板が焼け、煙が立ち上る。
「ネプトゥヌス!ガイウスを討ったら次は貴様の番だ」
「ハッ!俺を打ち負かす前提か。大した自信だな」
「貴様は強い、だが私には及ばん。
マルス・フローガは魔王の右腕として-そして勇者に復讐する男として。今ここで!貴様を討つ!!」
マルスは構えると魔力を練り始める。
-この演舞は1年前と似ているようで全く違うものになっていた。

「うおお!」
「すごいぞマルス様!」
「いけー!」
舞台ではマルスとガイウスが剣を交える、 ガイウスはダリルベルデを。
マルスは漢剣を、異国同士の剣技がぶつかり合う。
「はあっ!」
「うおお!!」
2人の戦いに民たちは熱狂する、そしてそれはネプトゥヌスも同じだった。
彼女はどこか楽しそうに2人の演舞を見守っている。

「マルス、楽しいのか?」
「お前もな」
マルスはガイウスの顔を見て軽く驚いた。
この男はこんな風に笑えるのか、と。
1年前のガイウスの笑顔は何処か仮面のようだった、良くも悪くも勇者らしい作り物の笑顔。
だが今の彼は狩りを楽しむ獣のような、獰猛でいて純粋な笑顔をしている。
「いい顔になったな」
「ハッ!お前に褒められても嬉しくねぇな!」
「それは残念」
2人の戦いは更に激しさを増していく。
しかし楽しい時間は永遠には続かない、マルスは眉を寄せ核に触れる。

「チッ……」
「マルス!」
「残念だ。これ以上は遊んでいられん……本気で行かせて貰う!!」
マルスが漢剣を放り構えを変える。
本気を出した合図だ、彼は鬼-如何なる武器より、己が肉体が勝る鬼神。
そしてマルスの足元からは赤い火花が散る。
「マルス!結界が壊れたらどうしますの!死人が出ますわよ」
「構わん」
「構わんですって……」
「私は暦に名さえ刻めればよい!魔王復活など大義名分よ!!」
追い詰められいよいよ、マルスの冷静な顔に隠された「本性」が剥き出しになった。
歴史に名さえ刻めれば名声でも悪声でも何でもよい。
フーロンを潰した「勇者殺しの」という汚名さえ甘んじて受ける。
それほどまでに彼は焦慮にかられていたのだ。

(マルスは……俺だ)
ガイウスは深呼吸し正眼の構えを取る。
容姿が似ているというわけではない、だがガイウスは過去の自分をマルスに重ねていた。
(魔族は死ねとしか言えなかった頃の俺に、こいつは似ている)
「皇様。演舞も大詰めにございます!我が最大の奥義にて締めとさせて頂きましょう」
「うむ!許す!」
マルスはその場で舞を踊るように回りだし、彼を中心に火炎が渦を巻き始めた。
そして彼は両手を広げて天を仰ぐと、高らかに叫んだ。
「我が奥義にて焼き尽くしてくれるわァアアアッ!!!!」
「ネプ、あれ食らったらどうなる?」
「死にますわね間違いなく。四の五の言ってる場合ではありません、わたくしの後ろに隠れなさい」
「大丈夫なのかよ!?」
「フン、蒼水将軍を甘く見ないでくださいまし!!」
そう言うとネプトゥヌスは自分の体を水の膜で覆い、さらに防御壁を展開した。
その様子を見ていたマルスは勝利を確信する。
もはや炎の竜巻と化したそれは二人を飲み込んでいった。
泡の結界越しにも感じる熱波、赤く輝く舞台、水と炎が衝突したときの黒煙と共に。

「……まずい!炎が…水蒸気爆発が起きるよっ!」
「キズや……ガイウスーっ!!!!」
思わずルッツがいつものあだ名で呼ぶのを忘れ、身を乗り出した直後。
その頭はバルトロメオによって強制的に伏せられ。
舞台に凄まじい爆発音と、衝撃波が響き渡った。