海編-宝島は、島ではない - 3/5

ジャングルの中、息も絶え絶えの一行。
レイスがロコの肩をガシッと掴みながら。
「なぁネコ、お前獣のカンで“心臓”見つけらんねーか?」と切実に問う。
ロコは全力で頭を振り。
「オレはイヌじゃねぇよ!!猫だ猫!嗅覚はあてにするな!」
「 鼠がどっちにいるかはわかるが、匂いはさっぱりだ!」とムキになる。
その横でネプトゥヌスがくすくす笑い、「猫さんは気まぐれですものね」と軽口。
けれどマリーナがバシッと手を打ち、「いや、それで十分だ!」と真顔で言い放つ。

「???」
マリーナは目を光らせ、指を立てる。
「鼠の動きがわかるなら、それを逆に辿れば“心臓”に通じる道筋が見えてくる。
どの動物も、自分の身を守るために“出口”や“安全な場所”を本能で選ぶもんさ」
「このクラゲの中で鼠がどこを好んで通ってるか」
「それが“内臓”や“重要ポイント”のサインってわけだ!」
ロコはハッとし「なるほど……俺、猫のカンだけは誰にも負けねぇからな!」と胸を張る。

ユピテルが楽しそうに、「さすがだな、キャプテン。サバイバルの本質わかってんじゃん!」
レイスは「結局、猫頼りかよ」と呆れつつも、どこか安心した表情。
ネプトゥヌスも「えぇ、猫さんの勘に賭けましょう♪」とニッコリ。
ロコは文句を言うのをやめた。
その代わり、すっと呼吸を整え、四つん這いになる。

地面の脈動が微かに残るジャングルの奥。
一息ついた五人の間に、ふと静けさが戻る。
マリーナが湿った土を指でなぞりながら、ぽつりと呟いた。
「“厄を落とす”ってのは、悪い流れを取っ払ってもらうってことでもあるんだよ」
マリーナはロコの頭を軽く叩く。
「猫、集中しろ。神社に行ったときみたいにな」
ロコは一瞬きょとんとした顔をしたあと、真剣な目つきで頷いた。

「……了解」
「おい、猫の集中って、やっぱ“神頼み”ベースなのか?」
「厄八の加護って、案外バカにできないな」
ネプトゥヌスは扇子を閉じ。
「何事も“気持ちの切り替え”が大切ですわ」と柔らかく微笑む。
五人は各々に息を整え、ロコは“猫の勘”を研ぎ澄ます。
今この瞬間、ほんの少しでも“厄が落ちた自分”を信じて。

腹が地面すれすれまで落ち、しっぽだけがわずかに揺れる。
鼻ではなく、気配と動きを拾うための姿勢。
猫が“狩り”に入る前の、あの形だ。
湿った地面に頬が触れ、島の脈動が伝わってくる。

ユピテルとネプトゥヌスは、その姿を見た瞬間。
ほぼ同時に「あぁ」と納得の声を漏らした。
「あら……プルトですわ」
「あぁ、プルトだな」
一拍置いて、にやりと笑う。
「やっぱあいつ猫だろ」
マリーナは苦笑し「“本気で獲物を追う時の姿勢”ってやつさ」とだけ答えた。

ロコは聞こえていない、完全に集中している。
地面を這うように前進し、ぴたりと止まり、耳を動かす。
目に見えない“何か”を、確実に追っている。
「……いた」
低い声。
指先が草の隙間を指す。
「鼠、こっちに流れてる」
「しかも、数が多い……道になってる」
マリーナが目を細める。
「道、ね」
ネプトゥヌスは楽しそうに扇子を閉じる。

「小さな生き物が集まる場所は、たいてい……重要な場所ですわ」
ユピテルは肩をすくめる。
「心臓か、血管か、あるいはその手前」
ロコは顔を上げないまま、ぽつりと言った。
「……ネズミは、ヤバい場所には巣を作らねぇ」
「だから、生きるために必要な場所の近くにいる」
その瞬間、島がまた一度どくんと脈打った。

ネコは本来、愛玩動物なんかじゃない。
ただ人間が「かわいい」ってフィルターで、
本質――生まれついての狩人――を忘れてただけ。
世紀末という余裕のない世界になって、猫たちは本当の姿を取り戻し始めた。

ロコの瞳がギラリと獲物を捉え、指さす。
「あの洞窟!あそこだ!」
ネプトゥヌスが振り返り、空を見上げる。
「…ちょうどいいタイミングですこと」
「スコールですわ、雨宿りに向かいましょう」
空の色が一気に暗くなり、巨大クラゲの呼吸が雲を吐き。
ドシャァァァァ――!と容赦なく雨粒が降り注ぐ。
五人は息を合わせて小走り、一目散に洞窟へ駆け込む。

人間の“愛玩”が消えたとき、ネコは再び“狩人”に還る。
世紀末の世界で、獣も人も“生き残る知恵”だけが真価を証明していく。
洞窟の入り口、全員で肩を寄せて雨をしのぎながら、本能がひりついていく。

ジャングルのスコールから逃げ込んだその洞窟。
ロコが鼻先で指し示した入口は、一見するとただの岩の裂け目だった。
レイスがにやりと口元をゆがめて「……ジャックポット」と呟く。
入口から数メートルは、しっとり冷えた石の壁。
だが、やがて空気も色も変わっていく。

壁は次第に硬い岩から、ピンク色の有機質な“うごめく膜”へと変貌。
見た目はまるで巨大生物の体内そのもの。
うっすらと脈動し、ときどき“濡れた呼吸音”さえ聞こえてくる。
マリーナが肩をすくめ「この先だ」と声をかける。
全員が、なぜか確信していた。
「ここが心臓につながってる。“生きた島”の本当の中枢……!」
“冒険”でも“サバイバル”でもなく――
「生き物の中に侵入している」という本能的なゾクゾクを感じていた。

ジャックポットの洞窟。ピンクの有機壁が脈打つ前で。
マリーナは腰のホルスターから。
年季の入ったフリントロックピストルを静かに抜き取った。
「よし、そろそろ……こいつの出番だ」
指先で銃身をなでる仕草に、スチーブンが羽をバタバタ。
「キャプテン、本気ダ!賽ハ投ゲラレタ!」と叫ぶ。
ユピテルが半分からかうように「随分レトロな銃ダネ?」
ネプトゥヌスも興味津々。
「まぁ……おしゃれですが、現代兵器には見劣りしませんの?」
マリーナはにやりと唇を吊り上げる。

「はっきり言って、古臭い。だが旧式には旧式なりの“旨味”があるんだよ」
銃身を掲げ、魔力で浮かぶ紋様を指し示す。
「こういうフリントロック式はな」
「機構が単純な分、魔法回路や特殊な刻印を“直に”入れられる」
「現代銃は合金や回路が複雑で、逆に魔改造が難しい」
「魔力を直接“銃身”や“発射機構”に刻むことで、
“ただの博物館の骨董品”が――“現代兵器超え”の火力や特殊弾を撃てるって寸法だ」
ネプトゥヌスが目を丸くし「まぁ……まるで魔法剣みたいなものですのね」
ユピテルも「アンティークが一番強い世界線……嫌いじゃない」と口元を緩める。
マリーナは最後に、カチリと撃鉄を起こしてにやり。
「今どき、フリントロックとか笑ったやつがな」
「右肩から先が消し飛ぶのは、もはや伝説だぜ?」

マリーナはいつもの無駄口も封印、真剣そのものの顔でフリントロックを分解していた。
銃身に魔力を流し込み、刻印をなぞる指先が止まらない。
「今回は大物、それに一撃で撃ち殺さなきゃ、報復がヤバい」
マリーナが低く呟く。
「帰り道の確保は大事だからね、雷様。強化を手伝ってくれ」
ユピテルは余裕の笑みで頷き、指先に淡い稲妻を宿らせる。

「ン?いいぜ。雷なンざ無限に沸いてくるからネ」
その手を銃身にかざすと、フリントロックの魔術刻印が青白く光り始める。
ユピテルの雷魔法が“増幅回路”として銃そのものに流し込まれていく。
“レトロ銃”と“現代魔法”、二つの異能が融合したその瞬間、
金属音がビリビリと空気を震わせる。
マリーナが満足そうに銃を組み上げ「よし、あとは一発必中だ」とニヤリ。
海賊と雷将の共闘。
今ここに、“世紀末最強”の一撃が誕生した。