沈みゆく奇怪島を背に、船上の仲間や島民たちが歓声と涙で迎える。
ネプトゥヌスは大きく息をつき、「やれやれ、姫も大変ですわ」と肩を落とす。
レイスはどこか満足げに笑い、「なかなか悪くなかったぜ、お姫様タクシー」と軽口を叩く。
ミナはクマちゃんを胸にぎゅっと抱きしめ。
「クマちゃん、無事だよ!」と満面の笑顔。
マリーナは肩にアドリアンのバイオリンを担ぎ、甲板の真ん中で空を見上げる。
「まったく……小説家が聞いたら、ネタにされそうな出来事ばかりだよ」
「だが収穫はあった――特にこいつがな」
満足げな笑みを浮かべて、沈んだ島の方角を指差す。
気づけば――無意識のうちに、全員が“哀悼のポーズ”をとっていた。
クラゲは、ただ生きていただけ。
悪意も、敵意も、なかった。
だが、存在そのものが“災い”になってしまうこともある。
「彼」の死を見送りながら、しばし誰も言葉を発しない。
潮風の中、ただ静かに――全員が手を合わせ、その命の終わりを悼んだ。
島もクラゲも、客船の夢も――すべてがこの海に還っていく。
それでも、自分たちは生き残り、また新しい物語を歩き始める。
新しい朝の光が海を照らし。
巨大な船の甲板には、興奮と安堵の入り混じった子どもたちの声が響く。
「こんな大きい船、はじめて!」
「空がひろーい!」
「クマちゃんも、いっしょに冒険できる?」
波間に揺れる笑顔の輪。
嵐も沈む島も、今はもう遠い過去のよう。
レイスは、甲板の縁に腰をかけながらマリーナに訊ねる。
「で、船長さ。俺らどうなんの?」
マリーナはバイオリンを肩にかつぎ、あっけらかんと答える。
「約束通り、ルートナギサにつき次第下ろす」
「だが私たちは陸に用がある。しばらく顔合わせするかもな」
ロコは猫耳をピクピクさせて驚く。
「えっなんで??」
操舵士がニヤリと笑って割り込む。
「アドリアンのバイオリンだぞ? ダーティフリーのマフィアどもに売るのさ」
「海賊ってのは年中海の上にいるわけじゃないんだぜ?」
ユピテルはつまらなそうに尋ねる。
「島民どもは?」
技師が無表情に答える。
「ダーティフリーやルートナギサに下ろします」
「それでもついてくる……というものは、全員海賊団のメンバー入りですね」
ふと見れば、すでに何人かの島民がモブ海賊とすっかり打ち解け。
甲板で自慢の土産話や悪ふざけを始めている。
ネプトゥヌスは肩の力を抜いて微笑む。
「あらあら……賑やかになるのはいいことですわ」
奇怪島で失ったものは多い。
だが、新しい船上には“これから”の笑顔と。
また別の冒険が始まる気配が満ちていた。
朝陽を浴びて、船はルートナギサの港へと滑り込む。
「さぁ――お別れの時間だ」
マリーナが甲板から手を振り、豪快な声で送り出す。
「またな、野郎ども!また乗せることがあったら、今度こそ全員眼帯付けてもらうぞ!」
レイスは肩をすくめて笑う。
「はいはい。その時がきたら、よろしく頼むよ」
ロコは名残惜しそうに尻尾を振る。
「オレはいつでも大歓迎だぞ~!」
ユピテルは淡々と、でもどこか充実感の残る表情。
「海、悪くなかったぜ?」
ネプトゥヌスはしなやかに一礼。
「ごきげんよう。よき航海を」
タラップを下りる四人の背中に。
海賊団や島民、見送りに来た仲間たちが大きく手を振る。
ミナは甲板から小さな体を乗り出し。
クマちゃんを抱きしめながら、ぶんぶんと手を振ってくれた。
「ばいば~い!」
クマちゃんのぬいぐるみも、パタパタと小さな手を振る。
その笑顔に、思わず四人も手を上げて応える。
レイスは少し寂しそうに、それでも前を見つめて言う。
「あの年頃の子は、覚えてるほうがレアだ」
「“誰?”て言われる覚悟しとかなくちゃな」
それを聞いてロコが「それでも思い出の一部にはなれるにゃ」とポジティブに笑い。
ユピテルは「どうせまたどっかで出くわすさ」と肩をすくめる。
ネプトゥヌスは微笑み。
「大切な人も思い出も、意外と世界は狭いものですわ」と静かにまとめる。
四人の冒険は、ひとまずここで区切り。
でも、それぞれの物語はまだまだ続いていく。
港の喧騒、旅の疲れ、そして新しい一日。
また新しい“冒険”が、どこかで彼らを待っている。
海の大冒険を終え、港町の朝。
波の音、遠くで響く船の汽笛。
四人は、それぞれに“旅のあと”の空気を吸い込む。
レイスがふと口を開く。
「なぁ……五重奏から一人かけたら、四重奏か?」
「ダーティフリーで、マフィアたちに楽器でも教えてもらうか?」
ロコはしっぽをぴこぴこと揺らして、すぐに文句を返す。
「オレが教わっても下手って言われんのが目に見えてんだろーが!」
ネプトゥヌスはやんわりと笑いながら。
「誰でも最初はそうですわよ? きっとアドリアンさんも……」と優しく返す。
ユピテルは肩をすくめ。
「せっかくだ、ダーティフリーも付き合ってやるよ。うるせぇンだろ? 楽しそうだ」
と余裕を見せる。
しばらく歩き、朝の潮風に吹かれながら、みんな無言で歩調を合わせる。
ふとロコが、レイスに尋ねた。
「おい、ヘビ。海、好きになったか?」
レイスは前を見たまま、ほんの少しだけ口元を緩めて――。
「……すこし」
水平線の向こうに、新しい冒険の気配。
どこまでも続く日常に、小さな変化だけが確かに息づいていた。
ルートナギサの廃道路にて、レイスとロコは。
肩を並べて夕陽に染まる港町をぼんやり眺めていた。
二人の視線の先では。
ロコが持ち帰った救命浮き輪で子供たちがキャッキャとはしゃいでいる。
レイスは時折ふっと笑い。
ロコも「今度は一緒に海入ろうぜ」と肩を揺らしている。
海の大冒険は終わった。
だが、ふたりの目に映る日常には、確かに「非日常の続き」が息づいていた。
港のカフェテラスにて、取材に来た小説家を前に。
ネプトゥヌスは扇子を持ち優雅に「海で起きたこと」を微笑みとともに語っている。
小説家は夢中でノートを走らせ。
「本当にこんな冒険が……」と目を丸くする。
その奥の席では、ユピテルが「海土産」のタッセルを指先でくるくる揺らし。
「やっぱこういうのが一番だ」と満足げに微笑んでいた。
時々ネプトゥヌスにちょっかいを出しては「また一緒にやろうぜ」とにやり。
ダーティフリーの豪華なVIPルーム――
マフィアの大ボスや幹部たちが並ぶ中、
マリーナは「アドリアンのバイオリン」をどーんと見せつけてドヤ顔。
「さぁ、言い値で売るよ」と、にんまり笑う。
血相を変えるマフィアたち。
「マジかよ本物!?」「おい、いくらでも出すぞ!」とざわつくなか。
スチーブンは後ろで「一品モノ!アー!」と煽りまくり。
大金と伝説の楽器を前に、マリーナの「海賊商売」の本領が炸裂していた。
あの音色が一瞬だけ、ダーティフリーの夜空にふわりと漂う。
その旋律に、一人だけ、昔を懐かしむ老婆が足を止め。
「あぁ、まだ“夢”は終わっていないんだねぇ」と呟いた。