深淵怪文書-五 - 4/4

ディープスコ前、異界の大戦場――
ガチャコーナーで勝利の咆哮を上げたアバガイは。
カプセルの破片を拳に食い込ませたまま、突然振り返る。
「つーかさ、そんだけ言うなら連れてけよディノス」
唐突な“過去回収”リクエスト。
ガイウスの眉がぴくりと跳ねた。
一拍置いて、即答。
「やだ」
即死のカウンター。

「俺が子供時代の俺と手繋いで帰ってくるって光景になるじゃん。どう見てもホラーじゃん」
その場の空気が0.5度下がる。“異界の日常”ですら一瞬バグる。
パン売り場のモブが、なぜか敬礼してからパンを袋詰めしている。
だが――アバガイは泣いた。
カプセル片を涙と一緒に握りしめ、駄々をこねる。
「連れてけよおおぉ…!」
勇者は根負けした。
世界はバグった。
ディノス行きが決定した。

ディープスコ裏、魂の倉庫街。
アバガイが去ったあとに残されたのは、“地下牢パーツ(B)”の山。
三十個。まさかの三十個。
数え間違いかと思って再確認しても、三十個。
Bパーツの群れが、床に広がっている。
一部はカプセルの中から脱走し、転がりながら異界の埃を集めている。

アバサタはそれを見下ろし、
「……どうすっかな、これ」
ため息は溜めすぎて低音になっていた。
だが、やることは一つしかなかった。
静かに手を伸ばし、カプセルの破片を一つひとつ拾い上げる。
何故か無駄に真剣な目。
倉庫街に、DIY魂が灯る――

数時間後。
パーツと空きカプセル、Bパーツの山、わずかに残ったEセット。
すべてが合体し、ついに――アルカトラズ刑務所(異界ver)

異様な完成度を誇る地下牢ジオラマが出現。
Eセットの見張り台を中央に据え、左右対称に並ぶ檻。
微妙な傾きまで再現された床。
ガチャカプセルの透明な殻が窓の役割を果たす。
照明の反射も計算し尽くされた鉄柵。
職人芸が地獄に降臨した瞬間である。

アバメルが静かに現れる。
足音はゼロ、空気だけが揺れる。
顎に手を当てて、しげしげとジオラマを見入る。
「上手いねぇ」
「特に檻を左右対称で向き合わせているのが、リアリティがあっていい」
録音用クリスタルが光る。
パンが背景でなぜか雄叫びを上げている(誰も驚かない)。

しばらくして、コスメ棚帰りのアバヴィヌスが登場。
香水の匂いと一緒に「あら、アルカトラズね」と軽やかにコメント。
「私なら絶対脱獄のメインキャストよ」
アバサタは一瞬間を置き、ジオラマを見上げて、
「おわってんな」
その低い声には、ほんのりと誇らしさが混じっていた。
Bパーツの山を見下ろす彼の背中に、妙なヒーロー感すら漂う。

ディープスコ裏路地。今日も地獄は、手作りで完成していく。
パンの叫びとガチャカプセルの破片、勇者の残骸。
全てが異界の夜を彩る芸術。
――その一角、DIY魂は静かに燃えている。

内界が震えた日、アバター四天王——勇者の影。
破壊の幼児たちが災害として現れた瞬間、世界はバグった。
彼らは子供の姿だった。
かつては「これ絶対、神か誰かが自分たちを嘲笑ってる」と思った。
だが和解して理解した——そういう仕様だった。
内界では“自分の全力”は持ち込めない。
魂と名前も、身体ごとリセットされて幼児化する。
自分たちの“欠け”がそのまま姿に出る、地獄の仕様バグ。

だから起きた。
勇者ガイウスが、ガイウス(少年時代)を抱っこして街を歩くという異様な絵面が。
街はパニック、モブがザワザワする。
「ねぇ…あの子、ガイウスちゃんそっくりすぎない?」
「間違いないって!あのメカクレ!!」
「どの世界線でもガイウスはあんな顔…」
「しかもあっち、めっちゃ泣いてるし…勇者の泣き顔拝めるのレアじゃね?」
ガイウス本人は超焦ってる。

「いやいやいや、違う、迷子なんだって!魔物に襲われてて…」
苦し紛れの言い訳、全部滑って床に転がる。
腕の中のチビ勇者(アバガイ)がもぞもぞ動く。
「俺ガイ…」
「言うな!!!」
目がバキバキに殺意を帯びる。
アバガイ、涙目で即座に空気を読む。
「う、うん…ぼくガチャガチャくんだよ……」
声が震えて、もう勇者の誇りもプライドも床に落ちてる。

周囲のモブが爆発する。
「かわいい~~~!」
「ガイウスちゃん(幼)尊い!!」
一部始終、アバドン広報がバッチリ記録。
この事件は後日、街の公式アーカイブに
「アバターガイウス・アルドレッド姓じゃない説」として残された。

——検証結果:85%。
明言はされてないけど、匂わせが各所に滲む。
レプリカアーク崩壊(推定6歳)までは本体ガイウス=アバガイ同一存在。
でも以降は、異界ならではの“分岐バグ”を辿ったらしい。
勇者ガイウスは「二度生まれた男」。
アバターガイウスは「どこにも生まれなかった子供」。
パン屋のパンもモブも、だれも彼らを勇者とは呼ばない。

「……もう帰ろ」
「肩車いい?」
「……やだ」
狂気の日常は続く。深淵では不条理が最大のエンタメだ。

【余談】
東エリア・イセカイ美術館、ジオラマ区画の片隅。
“アルカトラズ刑務所(ガチャガチャの副産物)”が、今日もガチャカプセル越しに檻の影を落とす。
展示タイトルは《孤独と規律》。
作者名「A.Satanus」
素材:カプセルトイ、怒り、暇つぶし、そして少々のスラム魂。

寄贈初日、ギャラリー内は騒然としていた。
展示案内AIが淡々と説明を繰り返す。
「本作品は“怒り”と“退屈”が生んだカプセルジオラマです」
ユピテルが腕を組み、顎でグイッとジオラマを覗き込む。

「へぇ~、カプセルトイだけでここまで作れるモンだな」
「この鉄格子の赤錆、リアルだな。……なぁ、これ“魔王城地下牢”より質感よくね?」
ヴィヌスは美術評論家の顔。
「展示照明も計算してるわね。影の歪みが美しいわ」
ひときわ大きなカプセルの影が、床で異界文字を描き出している。

メルクリウスはメモ帳片手に構造をガチ解析。
「構造的にも破綻がない。“孤独”という感情を規則的なパーツ配置で表現してる」
「この無駄な左右対称性、逆に“規律”の強迫観念を感じるね」
その後ろで、展示をガン見している作者の本体——アバサタ。
「……なに勝手に分析してんだ」
照れ隠しの腕組み、でも顔は超得意げ。
普段の“スラム王”ムーブどこいった。

一方、展示の隅っこにはアバガイが膝を抱えて座り込んでいた。
「なんで俺のオマケが!!俺より評価されてるのぉ!?」
勇者のプライド、まさかの美術館で粉砕。
アバサタは肩をすくめて、ニヤリ。
「しゃーない、我ながら出来良かったからな」

ガチャの副産物から生まれた芸術作品。
深淵では“アート”と“ギャグ”の境界なんて最初から存在しない。
今日もどこかで、パンが鳴き、ジオラマが語り、カプセルと怒りと暇つぶし。
それだけで、世界はまたひとつ、おわってんな(褒めてる)。

展覧会帰りの南エリア。
アバガイはカプセル片を握りしめながら、ボソッと呟いた。
「……俺にも、誕生日ほしい」
その一言が、パンの群れに衝撃を与える。
一斉に叫び声を上げ、トングが床を叩く音がBGM代わり。
プルトが静かに現れる。
黒マントを揺らし、首を傾げて。
「逆誕生会をやればいいではないですか」
「それなら365日、毎日祝えますよ?」

アバガイは、虚空を見上げて絶叫。
「365日祝えることの異常性に気づけよおまえ!!!!」
パンの声も一斉に合唱に切り替わる。
「おめでとう!おめでとう!」
「生まれてないけど、おめでとう!」
ケーキは三割引、ろうそくは“吹き消さないタイプ”。
ハッピーバースデートゥーユー(逆再生)のBGMが再び流れ出す。

モブ住民も続々と参戦。
「今日は“あなたが生まれなかった日”おめでとう!」
「明日もやるんでしょ?」
「そろそろ“エターナル誕生日”称号もらえるよ!」
アバガイは頭を抱えながら、カプセル片を床にぶつける。
「だから俺はガイウスでいいんだって!!ガチャガチャくんじゃなくて!!」
パンは静かに語る。
「どっちでもおめでとう。」
こうしてアバドンには、誕生日が365日存在する勇者(?)が誕生した。

深淵流・逆誕生会。
異常が異常じゃない街では、「おめでとう」は毎日カオスの合図だ。
(パンも祝ってくれるぞ!)