深淵怪文書 - 4/5

電脳インフォカフェ「ドリフト」-不毛な夜

アバドン中央エリアは、今日も明日も明後日も雨模様。
雨がネオンを歪め、無限ループするBGMが耳を蝕む。
その奥、電脳インフォカフェ「ドリフト」は、闇夜のオアシス。
否、情報中毒者の溜まり場である。
合法も、非合法も、全てのネットが繋がる。
監視カメラの死角、アノマリーな何かが自作PCで奇声を上げ。
カウンター席では、今日も誰かが“人間をやめる準備”をしている。

都市伝説BBSの発信源?
そうだ、アバドンのゴシップと呪いは必ずここから流れ出す。
電脳オタクなら一度は沈む、欲望の底なし沼。
料金?笑わせるな、この店に“貨幣”の概念はない!
支払いは――欲望。
君が何を求め、どこまで溺れる覚悟があるか、それだけが全てだ。
雨の夜、カフェのモニターには“深淵BBS”が流れる。

【速報】本日のアバドン懺悔bot、午前3時から“ざんげしろォ”連呼。
【悲報】聖句連打bot、Wi-Fi“ANRA_FREE”に無限アクセス中。
【警告】呪ケーキ広告、ケーキ苦手勢に配慮ゼロ。
何もかもがスパムと煽りと後悔で出来ている。

303号(MMO廃人)は、今日もラグに苛立ちつつ呟く。
「今日もラグやべぇわ……このカフェの回線、絶対アノマリーが噛んでるだろ」
「つか、深夜になると“懺悔しろ懺悔しろ”ってスパムが飛んでくるし」
隣のメルクリウスは眼鏡を直しながら呻いた。
「それ昨日から僕のログイン画面にも出てるんだけど!?
どう考えてもアバターの僕か、隣の席のやつだよねコレ!!」
画面の端から、闇属性ギャル文字風botが囁く。
「ざんげしろョ♡ざんげしろォ♡現実からログアウトしろォ↑」
この瞬間、全員が悟る。
ここは現実より、異界の方が“まだまとも”に見える世界だ。
レスバが始まる。聖句vs懺悔vsケーキvs現実逃避。
“深夜のドリフト”は、精神の戦場である。

メルクリウスがキレ気味に叫ぶ。
「バーカ!“神の加護は気分次第”ってルール読めなかったの?」
303号がぼそっと呟く。
「運営=邪神説もう公式だろ。
てかこのカフェ、Wi-FiのSSID“ANRA_FREE”なの悪質すぎ」
そして一息、メルクリウスに聞く。
「今日もケーキ食う?」
即キレ。
「僕がケーキ苦手なの全鯖周知なのなんで!?ログ流せよ!!」

掲示板の最新トピは。
【深夜の懺悔bot VS 聖句連打bot VS ケーキレスバ】
「ログ見てるだけでSAN値減る」「誰かカフェラテ投げてやれ」
欲望と情報が、雨の夜に溶けていく。
だが、ここにいる限り、君もまた“ドリフト適応症”だ。

メルクリウスは、額に青筋を浮かべて絶叫した。
「いやそもそも僕は!真剣に!!アバター領域の情報を探るために来てるんだが?
なぜbotに懺悔を強要させられればならんのだァァ!!!」
深夜2時の魂の叫び。
だがこのカフェ、“真剣な動機”など最も踏みにじられる。
303号のMMO廃人、余裕の顔でつぶやく。
「時間が悪い」
――それだけが、ここの全ての理屈。

すると次の瞬間、MMO廃人は堂々とエロ動画を検索し始めた。
ログイン情報が深夜モード、ブックマークはすべて“SAFE”の皮を被った闇。
カフェのWi-Fi名。“ANRA_FREE”。
ネットの監視も“懺悔bot”も、今や誰も止められない。

メルクリウスの悲鳴がカフェの闇を裂く。
「聖職者の前でR-18サイトを開くな!!!」
キレのいい叫び。botが反応した。
「ざんげしろョ♡ざんげしろォ♡現実からログアウトしろォ↑」
掲示板の最新トピは更新される。
【深夜の懺悔bot VS 聖職者 VS エロ動画閲覧厨】
「これはアバドンの倫理観バトル」「夜のドリフトに救いはない」「カフェラテで全て流せ」
カウンターの端で、何かのアノマリーがウィルスを撒き散らす。
奥のテーブル席からは、「ねぇ今日もケーキ食う?」の声。
メルクリウスの精神は既に半分バグっている。

雨がネオンを歪ませる。
深夜2時、カフェラテ片手に、現実より“異界”のほうがまともに思える瞬間がある。
このままじゃ全員、“精神的ログアウト”に突入するぞォォォ!!!
「動画はやめろ!動画は!!僕の集中力が乱れる!」
もう何度叫んだか分からない。
しかし今度こそ、本腰を入れて“アバター四天王”の所在を探り出す。
一刻の猶予もない。
もしここで情報が途切れれば、内界が深淵に飲み込まれる緊張感が天井にまで漂う。
(少なくとも本人の頭の中だけは)
だが、MMO廃人は全く動じない。
「わかったよー、じゃイヤホンでASMR聴くわ」
さも当然のように、D-tubeを開きやがった。

【1時間、広告なし】プルトが貴方を優しく寝かしつけます♡

メルクリウスは一瞬、画面を見て絶句する。
想像してみてほしい。
あの妙な中毒性ある声が、1時間ずっと耳元で囁き続けるのだ。
しかも優しく寝かしつけると言いながら、時折小声で入る不穏な囁き。

botが即座に反応した。
「ざんげしろョ♡ざんげしろォ♡安眠できるわけねーだろォ↑」
メルクリウス、崩れ落ちそうな声で呟く。
「闇だ……」
カフェのBGMは、地獄。
アバドンの夜に、またひとつ“安眠できない伝説”が刻まれた――。

画面の向こうでプルトがささやく。
「おやすみ、全部忘れて、私だけを……」
メルクリウスの手は震え、隣のMMO廃人は
うっとりしながら“現実からログアウト”していく。

「あと少……し」
メルクリウスはカフェのモニターに額を押し付け、半ば朦朧としながら必死にタイプする。
「赤い髪、身長190手前の青年、間違いない……アバターガイウスの情報だ」
「まずリーダー格である彼から所在を、ダメだ本当に眠い……!」
夜明け前。
神官は知っている。
聖職者たる者、夜更かしは最大の禁忌である。
朝のミサで欠伸でもしたら最後、「破門」の二文字が紙飛行機のように飛んでくる。
だが、知識欲は止まらない。
“アバター四天王”の行方を追いかけ、彼の魂はまだ戦っている。
しかしその肉体は、すでに限界を迎えていた!

隣の303号、MMO廃人はとうの昔に寝落ちしている。
キーボードの上に突っ伏し、イヤホンからは微かにプルトの囁き声。
「ねえ……もう寝ていいんだよ……」
「私が全部、守ってあげるから……」
ASMR地獄。

カフェの空調が、やたら優しい音で唸る。
モニターの奥では、深淵BBSのログが延々と流れる。
「ざんげしろォ……」botの声が、夢うつつの脳を直撃。
メルクリウスは叫びたかった。
「眠気が……!ログに飲まれる……!」
しかし誰も彼を助けてくれない。
眠気と知識欲、どちらが神に近いか?
それは、アバドンの夜明けが決めることだ。

「あと5分だけ……情報、追うから……」
ついに、メルクリウスの手も止まり、脳内にプルトの声が響き始める。
「大丈夫、全部私に預けて……おやすみ」
カフェの外はまだ雨。
中央エリアに朝日は射さない。
電脳の夜明けは、まだまだ遠い。

【追記:カフェ掲示板最新トピ】
「神官寝落ち伝説」
「プルトASMRは効きすぎる」
「今夜も“深淵BBS”は誰も救わない」

アバドン中央エリア。
夜のネオンはまだ残る。
だが、どこか灰色がかった雨と靄が、街を優しく包み込む。
ビルの谷間、ホログラムの看板は光の粒子を霧の中に散らし。
昨夜の混沌が、まるで嘘のように静まっている。

「お客さん、朝ですヨ」
アノマリー店員の声が、心地よい振動となって鼓膜を揺らす。
眠りの沼から引き上げられるようにして、メルクリウスは目を覚ました。
カウンター席、冷えたマグカップと、点滅するPC画面。
追い詰めていた“アバター四天王”の情報は、スリープ寸前で停止していた。
気づけば開いていた深淵BBSのスレッドは、書き込みが1000を超えている。
「あぁ……うん、もう朝か」
「中央エリアの朝は初めてだな」
外の世界は夜と違う。
人影はまだ少なく、スラムの路地裏には朝だけの“雨音”と“低いノイズ”が響く。
街の誰もが静かに「生きている」だけの時間。

ネオンの残滓と朝の湿気が混ざり合い、どこか懐かしい、眠り足りない街の顔。
メルクリウスは、PCの画面を閉じて伸びをする。
見慣れた夜のスラムとは全く違う、煙る中央エリアの朝焼け。
それは、どこか「生き直し」を許してくれる空気だった。
アノマリー店員が「カフェオレ、サービスしときます」と差し出してくれる。
「……ありがとう」
小さく呟く。
朝の苦さが、ほんの少しだけ優しい。
朝のアバドン中央エリアは、すべての“夜の痛み”を雨と一緒に流していく。
そして、新しい“怪異”がまた始まるのだ。

店内にはいつもより穏やかな空気が流れていた――のだが、入口で騒ぎが勃発。
「なんで!?俺、脳が10歳なんだけどォ!? ねえ、入れてくれよォ!」
アバターガイウス、キッズコース入場に全力チャレンジ中。
受付のアノマリー店員は慣れた顔で首を横に振る。
「年齢証明お願いします」
「ちげぇんだって!精神年齢っていうか、脳が!キッズやってるの!」
「ダメです。物理年齢が対象です」
揉めていると、奥のPC席からメルクリウスが“ギラつき眼鏡”で指をビシィィィッと突きつける。
「居たァァァッ!!ガイウス君!……じゃない!」
「バカな方のガイウス君!!!」
声に毒が混じるのは仕様です。

補足・メルクリウスのアバター四天王判別リスト。

アバターガイウス→「バカな方のガイウス君」
※本人には絶対言えない腹黒判別名。勇者ズにも一部バレている。

アバターサタヌス→「汚いサタヌス」
※“きれいなジャイアン”方式で、元祖にも「きれいとは言っていない」

アバターヴィヌス→「うるさい方のヴィヌス」
※承認欲求モンスターで主役主張が激しすぎるのでこの判別名。

アバターメルクリウス→「人間性がマシな僕」
※自虐。“包容力”も“兄力”も本体が負けてる自覚あり。
アバターの方が優しくて虚無スマイルが癒し効果ある。

周囲がざわつく。
mmo廃人が背もたれでクスクス。
「それ、ガイが聞いてたら殴られてたぜメルさんww」
アバターガイウスはふてくされる。
「いや俺だって頑張ってるし!俺が主役でしょ!?
主役ってだいたい一番チビなんだよ!!!」
「“キッズ主役論”やめなさい!」
メルクリウス、容赦なく一刀両断。

大家さんの息子(坊ちゃん)が奥でピカピカのキッズプレート食べている。
彼はにっこりと微笑み。
「お兄ちゃん、もっと大人になってから来てね」とダメ押しの一言。
ガイウス(アバター)、敗北。

「アバター!内界に侵略するのを今すぐ――」
メルクリウスのキレ芸が炸裂するや否や。
アバターガイウスは「うわあああー!お兄ちゃ〜ん!!」と
店中に絶叫を響かせてダッシュ退場。
全員が見送る。BGMは何故か子守唄。
ちなみに「お兄ちゃん」とは、アバターメルクリウスのこと。
ガイウスは彼に全幅の信頼を置いており“破壊神”のくせに弟属性MAXのガチ依存。

mmo廃人がカフェオレを啜りながら一言。
「10歳の挙動を190手前のイケメンがやってんの。ホラーなんだよな」
キッズコースの坊ちゃんは、プレートのオムライスを見て。
「大きい方のオムライスは食べられたのにね」
とピュアスマイルで追い打ち。

メルクリウスは静かに眼鏡を直し。
「逃がした……だが近くにいる」
満足げに小さくガッツポーズを決めた。
情報は確保、腹黒の面目躍如。
雨のアバドン中央エリア、今朝も日常が、静かに更新されていく。

【深淵BBS話題】
「坊ちゃんの精神年齢が一番大人説」
「腹黒神官のガッツポーズが見られるのはドリフトだけ」

mmo廃人は、まだ眠たそうな目でカウンターに座り直し。
「――あーやっぱドリフトの夜更かしコース最高」
小さく伸びをしながらカフェオレを両手で持つ。
「朝まで粘るとカフェオレのサービス貰えるが、うまいんだわコレが」

隣でメルクリウスがぼんやりとカップを持つ。
雨のしみるスラム、カフェの灯り。
夜を耐え抜いた者だけに与えられる、“目覚めの報酬”。

深夜の情報戦、レスバ、ASMR地獄。
それらすべてを乗り越えた者だけが知っている。
「夜明けのカフェオレは、この街で一番甘い」
店員アノマリーが、静かに新しいマグカップを並べる。
スラムの朝は、こうして始まるのだ。
深夜カフェ組の特権、それは「朝を迎えられること」
アバドン中央エリア、雨とコーヒーと“怪文書”の町。
今日も、きっと何かが始まる。

なかよしハイツ303号室。
朝の雨音と、モニターの光だけが部屋を照らす。
mmo廃人は、いつものハクスラゲーを立ち上げながら語る。
「ハクスラゲーって神だよな」
「マジで永遠に遊べる、俺1000回はやったな」
メルクリウスは横目でその画面を見ながら、ふっと遠い目で呟いた。
「303号……なんか、最近“現実より異界の方がまだまとも”な気がしてきたよ……」

mmo廃人はいつものノリで即答。
「それ、完全にアバドン適応症だよ」
部屋のスピーカーから、何の前触れもなく、アノマリーbotの懺悔声が響く。
「ざんげしろォォォ!」
画面の中でも外でも、現実と異界の境界はとっくに曖昧になっていた。
アバドンでは、“適応した者”ほど現実感が壊れていく。
だが、どちらも案外、悪くない。
ざんげしろォォォ!