短編集-この世界は奇妙で、おもしろい - 2/2

外プール――夏には水着と浮き輪が舞っていた場所も、今や完全凍結のスケートリンク。
カリストは冬将軍の本領発揮、とばかりに華麗に滑っていた・
「すごい!うちの氷じゃあんなターンできない!」
「ちっちゃい軍服くん映えるわ~!」
一人、派手なスノーカラーの毛糸ビキニ+ニット帽という。
シュールすぎる格好のお姉さんが手を振る。

「お姉さん、インフルエンサー?」
「あ。わかるぅ?そう、元・南国インフルエンサーよ★」
「いまじゃ映え雪だるま職人だけどね」
メリッサ、得意げにスマホのギャラリーを見せてくる。
そこにはビキニを着せた雪だるまたちがずらり。どれも異常なほどスタイルが良い。
「昔はビーチで焼いてたのに今は雪焼けよ~」
「名言…」
メリッサは雪だるまの造形に異常な美意識を持ち、“ビキニ雪だるま”を量産しまくり。
「バズりたいから、誰かイケてる雪像の写真撮って!お願い!」とパーティに協力要請。
カリストはスケートを滑りながら、雪上のペンギン雪像やビキニ雪だるまをじっと見つめる。

「いや、氷の魔物ってマジで雪にいると回復するんだな」
「だって、さっきまでマジで融けかけてたじゃん」
「確か氷のお兄ちゃん、滑走すると車より速いんだったにゃ。今もそうなのか?」
カリスト、淡々と説明しつつも誇らしげ。
「いえ……あれは私の能力で加速しているので」
「滑り終えてだいぶ回復しました。屋内へ行きましょうか」
「あれリゾートホテルだよな」
ガラス張りのロビー、元・温泉旅館らしき建物。
マカが無言でスマホを起動、建物の外観をレンズ越しに解析する。

「熱海後楽園ホテルです」
「今あそこ、ビュッフェあると思うか?」
「ないと思いますが食事はできそうです。行きましょう」
雪の上でテンション上がった分、今度は一気にグルメ脳へシフトチェンジする一行。

「いらっしゃい。ココアはいかが?」
カウンターの奥、南国柄のアロハシャツ。
分厚いニット帽のバーテンおじさん・ドンゴロスがウィンクを投げてくる。
「助かりますぅ…さっきまで雪の中にいて……」
カリスト、サタヌス、ロコも次々とカウンターへ並ぶ。
取り出したのは――パイナップル型の耐熱グラス。
そこに鮮やかな傘、チェリー。
そしてたっぷりの湯気もくもくホットココアを堂々サーブ!!

「大丈夫だよ、耐熱容器だから」
「……そういう問題ではありません!!」
「……“夏と冬”が……同居している……」
目が完全に“猫がUFO見てる”モード。

「熱っ!でも…なんかトロピカルっぽい……いやこれココアだわ」
メーデン、傘をぐいぐい抜こうとしながら。
「傘…いる?この傘……いる???」
カリスト、真顔で提案。
「雪見団子……浮かべてもいいですか?」
「おっ、名案!雪見ココア、今後の新メニューだね!」
そのまま全員で“南国ココア&雪見団子”を囲み。
「雪国なのにココアはパリピ」「温泉地なのに雪見団子」
という謎すぎる組み合わせにしばし無言――
だが、不思議と“最高の旅感”だけは続いていた。

「ココアだけじゃ物足りね~!なんかある?食えるの」
「じゃ雪うどんはどう?スノーベリルでしか食えないわよ★」
「それにする!」
テーブルに運ばれてきた“雪うどん”――
器の中は、麺もスープもトッピングも、すべて純白。
ふわふわの泡が熱々の湯気を閉じ込めている。

雪の露天席には二重構造の「雪うどん」が、ズラリと並ぶ。
サタヌスは湯気ごしに真剣な顔。

「絶対アツいからなこれ……」
メーデン(氷ver)が「ここ、こうやって」と雪原に容器を埋める。
カリスト(ちびver)は、真顔でタイマーをセット。
ロコは「猫舌だから助かるわ~」と耳をピンッと立てる。
マカは「説明書読んでから食べて」と冷静に全員の様子を撮影。
みんなで一斉に「雪に沈めて、じっと我慢」。
野外のカフェテーブルを囲むこの異様なグルメ儀式。
ふわふわの泡が、雪でしぼんでいく。

その隣のテーブルではニット帽ギャルの二人組が、陽気におしゃべりしている。
「いや~熱海も変わったよね~」
「昔はさ、インバウンドで瓶プリン!温泉!て推しまくってたのに」
「わかる、温泉プリン写真でめっちゃバズってたし」
「でも今もさ、魔界のテレビクルー来るんだよね。今の熱海、面白いんだって」
ギャルはスマホの画像を見せてくる。
そこには魔界仕様のグルメ番組で、ど派手なタレントが雪うどんを豪快に食べる姿。

「てかさ、あのタレントさん、雪うどんにハマっちゃってさ。
今も“ここでしか食えない!”って毎年食いに来てるって」
「え~、マジ?やっぱバズってんじゃん。
てかさ、この食べ方すごいよね、普通にうどん埋めるとかウケるんだけど!」
「でもさ、これがマジでうまいんだよ。一回食べたらクセになるんだよね~~」
みんなで一斉に、雪からうどんを引き上げる。

「……あっつ!でも……うっま!!」
「これは反則だわ。もう一杯いける!」
文明は崩壊してもグルメと映えトークは絶対に死なない――
これが“今の熱海”、スノーベリルのリアル。

うどんを啜りながらほっと一息ついていたカリストのもとに、
雪色ヘアのやんちゃな少年がダッシュで駆け寄る。
「あれ!?そこのうどん啜ってるちび……」
ガン見したあと、手を叩いて大興奮。
「カリスト将軍にそっくりだな!俺あの人のファンなんだよ!!」
サタヌス、警戒しつつもニヤつく。
「誰お前?スケーター?」
「あぁ!俺はノエル、プロスケーター志望だ」
「カリスト将軍の滑走してる動画見て、猛練習してんだよ!」

メーデン、サタヌス、ロコが“あっ、やっべバレてる?”みたいな空気を出す中――
カリストは顔を赤くして、うどんの器を抱えながらも動揺が止まらない。
「……私は、その……本人じゃないです。たぶん」
「でもその軍服と顔、カリスト将軍でしょ!?サインちょうだい!」
(どうしよう……いまは“可愛い”って言われる姿だし……)
サタヌス、苦笑いしながら言い訳モード。

「滑走するカリストの動画?あれ俺、敵として対峙したことあるがマジでこわいぞアレ」
「速いし、姿勢ひっくいし、地形無視して滑ってくるし、トラウマだわ」
マカ、さっとスマホで再生。
「……出ました、これです」

【ショート動画】
冬将軍の滑走撮影したったwww
魔王軍ちゃんねる【公式】

画面には、氷の結界でスパークするカリストが
超低姿勢&鬼加速で地形をすべり抜け、
最後に敵を凍らせるまでをノリノリのBGM付きで編集済み。
動画の冒頭とエンドカードでウラヌスが大はしゃぎしている。

「ウラヌスだな」
「ウラヌスです」
「あの子です」
カリスト、顔を真っ赤にして一言。
「元に戻り次第、凍らせますか……」
狙わずして、そのリアクションで「本人」だとバレてしまうのだった。

「将軍!なんかちっこいの気になるけど…滑り方教えてください!」
「ま、待って…私はそんな……」
逃げ場を探すように目を泳がせるカリスト。
だが、サタヌス、メーデン、マカ、ロコ――
さらには周囲の観光客やメリッサまで、「やれ」という全力の圧をカリストに向けている。
誰一人、助ける気ゼロ。

「……わ、わかりました……姿勢の制御の仕方なら、この体でも教えられると思います」
小さな体で一生懸命説明し始めるカリスト。
“膝の曲げ方”“重心移動”“ターンのときの肩の使い方”――
さすが“冬将軍”、教え方は本物で、ノエルも住民たちも食い入るように見つめる。

「うおー!やっぱ本物の将軍は教え方までプロ!!」
「ほらな、冬将軍はガチで伝説なんだぞ」
カリスト、頬を少しだけ赤らめながら――
(こんなこと、昔は絶対やらなかったのに……)
けれど少しだけ嬉しそうな顔で、雪原に自分の小さな足跡を増やしていくのであった。

プールサイドの雪原に、ビキニ姿のパンダ(しかもマフラー&耳あて装備)
「ようこそ」というように元気に駆け寄ってくる。
「お、ビキニパンダだ!スノーベリル名物だぞ!」
「あれ、着ぐるみ?中のやつ辛くねぇか」
「中の人はいないわ、いやマジで」
「今は自律AIで動いてるのよ」
パンダはやたら人懐っこく、寒がってる旅人の懐やポケットにカイロをポイポイ投げ込む。

「お、カイロくれたぞ。フレンドリーだ~」
「マジで自律してんのか、すげぇな」
イベントがあるたびに“衣装替え”してくれるし、記念撮影にも慣れた手つき。
「撮っていいよ。て言ってる気がする……」
「せっかくだし全員で撮るか!」
一行+ノエル+ビキニパンダで集合写真。

夕暮れのスノーベリル。
雪原に伸びる影が、オレンジと群青の境目でゆっくり溶け合っていく。
一日の終わり。ちび化したカリストは、さすがに限界だった。
メーデンの膝の上。
お腹をぺたりと乗せ、雪の冷気を逃がすみたいにぐったり。
完全に――弟全開モード。

「……あったかい……」
その瞬間だった。
ぱき、と空気が鳴る。
氷が割れるような、魔力が定位置に戻る音。
身長が伸び骨格が戻る。
制服が、ぴたりと“将軍サイズ”に噛み合う。

——戻った。

カリスト・クリュオス完全復活。
ただしメーデンの膝に、腹ばいで。
一瞬、世界が止まる。
そこにあったのは——イケメン軍人が、エルサ風少女の膝にお腹を乗せてるという。
あまりにも脱力した光景だった。

ロコの耳がぴくりと動く。
サタヌスが、息を吸う。
マカのスマホが、静かに構えられる。
そして——カリスト、気づく。
視界が、やけに高い。
さっきまで見上げていた景色を、見下ろしている。

「——うわああああああああああ!!!?」
反射的に跳ね起きようとして、勢い余ってメーデンの膝を押してしまい、
二人でちょっとよろける。
「な、な、ななななな何を……!!い、いまのは違います!!」
顔が一気に真っ赤になる。
耳まで赤い。
「撮らないでください!!撮ったら凍らせますよ!!本気で!!」
その場にいた全員が、もう撮っている。

サタヌスは腹を抱えて笑ってる。
「やっば……復活一発目それかよ……」
ロコは目を輝かせる。
「冬将軍、姉の膝乗りは新境地にゃ!」
マカは無言で保存ボタンを押す。
メーデンだけが、少し困ったように、でも優しく言う。

「……あのさ。さっきまで、弟みたいだったよ?」
その一言が、致命傷。
カリストはその場に崩れ落ち、両手で顔を覆った。
「……忘れてください……お願いします……」
夕暮れの雪原に、尊厳が音を立てて崩れる。
だが不思議と、誰も悪意はなかった。
スノーベリルは今日も平和で、可愛い事件だけが残った。

「やっぱ、どこにいてもみんな一緒だと楽しいなぁ」
「なにこの旅、クセつえぇ~!」
「……でも、また来たいかも」
凍てついても、熱海は楽しい。
雪も湯けむりもビキニも、全部まるごと“スノーベリル”!