スコープキトン-猫と蛇とシュールレアリスム
昼下がりのハンターオフィス。
レイスは例によってソファに沈み、だらけきった寝相で昼寝をキメていた。
その時――
「ん?……なんか重てぇぞ……」
瞼を開けると隣に宇宙服を着た猫が、堂々と座り込んでいる。
宇宙服の胸元には、でかでかと「SCOPE-KITON」の刺繍。
「おい……てめぇ……どっから湧いた」
猫はしれっとレイスを見上げるが、一ミリも動く気配がない。
レイス、しぶしぶ猫をどかそうと手を伸ばす――が
「動かねぇ……!!」
あっさり戦意を失ったレイス、結局そのまま猫と添い寝モード突入。
やがて――二人(※一人と一匹)、寝返りまで全く同じタイミング。
オフィスは一気に猫空間化、だんだんとレイスも心の中で
“こいつ、俺と同じ臭いがする……”と“同志”認定し始める。
(いや待て、さすがに俺は宇宙服は着ねぇぞ?)
周囲の仲間たちは呆れ顔で写メ撮影。
「もうこのオフィス猫の集会所じゃね?」と笑いが止まらない。
猫とレイスがシンクロ昼寝をかましてるカウンター前、
受付嬢がPCからふと顔を上げて、ぼそり。
「猫と蛇って……似てません?」
若ハンター、すぐさまツッコミ。
「いやいや何言ってんの受付さん、哺乳類と爬虫類だよ?」
だが隣のベテランお姉さんハンターは、顎に手を当ててしみじみ。
「いや、わかるわ。猫目と蛇目って区別が難しいもの」
その横で、昼寝猫が「すっ……」と細長くなった寝相を見せ、
レイスも気まぐれに「んぐぐ……」と丸くなってみせる。
「……やっぱり似てる気がします」
「え、なにこの“並んで昼寝”……画面バグってるだろ」
「今なら“猫か蛇か選手権”やったらいい勝負しそう」
お姉さんハンターが静かに語る。
「猫はな、見た目の可愛さでだまされがちだが、あれはハンターなんだよ」
「蛇に似た要素があるのは当然だね。どっちも“狩る目”をしてる」
「そうかなぁ…」
お姉さん、PCモニターに猫の写真と蛇の写真を並べてみせる。
「見てみろ、この縦に裂けた瞳孔」
「光の量を絶妙に調整できるのは、夜行性のハンターならではさ」
“狩るもの”の共通点
“獲物を獲るため”の進化で、姿形が似てくる。“収束進化”ってやつだ
「たしかに、写真で並べると……意外と似てるかも」
「油断して撫でてると、指先噛まれるぞ。猫も蛇も、獲物を見る時は同じ目をしてる」
「レイスさんも…たまに蛇みたいな目をしてますし」
オフィスの隅、宇宙服猫とレイスがシンクロで細目になっている。
レイスはふと、宇宙服の胸元の刺繍をまじまじと眺める。
「……スコープキトン?どこかで……」
受付嬢、書類整理しながらチラリ。
「あ、その子はスコープキトンから来たって依頼人さんの付きそいで」
「依頼人さんは今お買い物中で、もうすぐ帰られるはずです」
そこへロコが割り込んでくる。
「おっ、それオレの実家のブランドじゃね?」
「“遺構探索スペシャル”だぞ。元・宇宙センターで使ってたやつだ」
受付嬢「さすがロコさん、詳しいですね」
レイス、猫をじっと見て呟く。
「宇宙服の猫……猫なのに宇宙……もう哲学じゃん」
宇宙、猫、楽園、探索――全てがひとつに溶け合う瞬間。
その“深すぎる癒し”の空気に、思わず自分も吸い込まれてしまいそうになるレイスだった。
依頼人がふわっと現れ、
「司令!買い出しミッション終えました」と猫(宇宙服ver)に報告。
一礼して、静かにオフィスを後にする。
猫(宇宙服)は一度レイスの方をじっと見上げ、
そのまま無言で、すたすたとオフィスのドアをくぐり抜けて外へ歩いていく。
「おい、どこ行くんだ?」
無意識に、その後ろをついていくレイス。
――歩くうちに、路地裏の景色がじわじわと変化し始める。
猫の群れが物陰から顔を出し、道端のゴミ箱や電柱、壁の上まで猫・猫・猫。
遠くにはサビついたアンテナや発射台の残骸が散乱し。
「……なんだこの不思議ゾーン……?」
気づけば、街の空気すらも静かに“猫宇宙”色に染まっていく。
猫たちの視線、静かな宇宙服猫の背中。
ゆっくりと日常の境界が溶けていく、不思議で穏やかな感覚。
レイスが迷い込んだ先――そこはまさに猫だらけの宇宙村だった。
巨大なロケット発射台には、猫がわらわらと群れをなして日向ぼっこ。
少し離れた管制塔のてっぺんには、体格も態度も貫禄MAXな親分猫が鎮座。
あちこちのクレーンでは、子猫たちがジャンプごっこに興じている。
道行く住民の半分は猫。
残りは猫好き魔族や人間、そして“猫マニア”っぽい観光客もちらほら。
猫カフェは「コスモナウト食堂」と合体。
ロケット型キャットタワーでは猫も住人もごちゃまぜで昼寝大会。
「あいつは…」
依頼人、ふと振り向いて困惑。
「あれ?ハンターさん、護衛を頼んだ記憶はないのですが…」
「いや、勝手についてきただけ」
猫の気まぐれは人間にもうつるらしい。
その横では、猫住人たちが無駄に哲学的。
「地球は青かった」
「でも今日は白い(雲の上で寝てた)」
「……いやもう、意味わかんねぇけど、気分は悪くないな……」
宇宙と猫と昼寝の、ミーム渦巻くコロニー。
ここが、スコープキトン。
レイス、猫だらけの村をキョロキョロ。
「ずっと宇宙服着てる猫、知らない?俺そいつ追いかけてきたんだが」
「あっ、司令のことですね!」
「司令はあちらで昼寝されていますよ」
見ると、ロケット型キャットタワーの頂上で、宇宙服猫が悠々と丸まって昼寝中。
その姿に村の猫も住人も誰一人ツッコまない。
それもそのはず――彼こそ“スコープキトン”最長老「スペース・ミャオ司令」。
人間が宇宙開発していた時代からずっと村を見守る伝説の猫。
今も宇宙服を脱がず、“村の宇宙精神”を象徴する存在。
カリスマも波長も、全てが唯一無二。
レイスはそっと隣に腰を下ろし。
「お前、どこまでも自分勝手だな…でもまあ、嫌いじゃねぇぜ」
「…ニャァ」
しっぽで顔をチョイをたたかれ。
レイス、思わず“心の宇宙”みたいな微笑みを浮かべる。
猫も人も、ただ自由に眠り、自由に笑い合う。
ロケット跡地のカフェ。
夕暮れの光が差し込み、金属の床を薄く照らしている。
レイスの前に置かれた皿には、半分だけ食べられた“キトゥンケーキ”。
レイス、フォークを置いてぼそり。
「……微妙だ」
隣ではミャオ司令がヘルメットを外し。
猫用キトゥンケーキを器用に前足で押さえながらモグモグ。
下の毛は意外とふわふわで、ひげの先にクリームがついている。
「でもなんか、うまい」
少し考えて、苦笑いを浮かべる。
「多分、お前補正だな」
ミャオ司令は何も言わず、しっぽをふるり。
レイスはその頭を軽くナデナデ。
宇宙猫は満足げに喉を鳴らす。
店内には湯気と猫のゴロゴロ音だけが漂い、
その音がまるで遠い宇宙のノイズみたいに静かに響いていた。
そしてカフェの看板には、ゆるく光るネオン文字。
「猫とは、宇宙である」
「レイスさん! またサボってますね!!」
「仕事って……なんだっけなぁ」