秋葉原編-芸夢大祭 - 3/4

ファミコンの電子音が鳴り止むことはなかった。
挑戦者は次々とステージに上がり、芸夢様の前で祈り、そして散っていった。
それはもはや大会ではない。神々の見守る殉教の儀式だった。

【スペランカー挑戦者】
地味な青年。
だが握るコントローラーの手には、確かな自信が宿っていた。
「スペランカー、極めてますから!」
観客が「おお〜〜〜!」と拍手し、巫女が神妙にうなずく。

「ならば、見せていただきましょう……命の軽さを。」
開始5分。
中盤のハシゴから一段踏み外して落下。
……会場に、静寂。
そして青年、笑顔で振り返りながら叫ぶ。
「……わかってました~~~!!!」
爆笑と拍手。
そして何故かスタンディングオベーション。
巫女も思わず小さく口元を緩め、
「人は、己の死をも笑う……それこそ遊びの極致です。」

【魔界村挑戦者】
黒Tシャツ、硬派ゲーマー。
腕組みしながら無言でスタートボタンを押す。
「ザッ、ザッ、ザッ」
一面、開始。
……そしてレッドアリーマー登場。
開幕2秒で鎧を剥がされ、下着姿のアーサーが跳ねる。
観客、大爆笑。
「命は儚いもの……」
「命どころか鎧も儚い!!」

【バルーンファイト挑戦者】

年の頃は五十代、腕まくりしてステージへ。
「いや~懐かしいねぇ!これ得意なんだよ俺!」
開始直後、ふわっと上昇し水面の魚に食われて終了。
「パクッ」「GAME OVER」
おじさん、頭かきながら大声で叫ぶ。
「いや~!昔からコイツ苦手なんだよ!!」
「変わってねぇwwwww」
「輪廻とは、繰り返し同じ運命を辿ること……」

【ドラクエI挑戦者】
女の子枠。
ふわふわ金髪ツインテ、ロングスカート。
「勇者やってみたかったんです!」と笑顔で登場。
旅立ちのBGMが流れ、観客が静まり返る。
彼女、リムルダールを目指して歩く。
だが――スライムベスに三連敗。
「やだ!弱すぎる!!!」
「がんばれぇぇぇ!!」
ステージ全体が応援コールの嵐。
巫女、両手を合わせて言う。
「スライムもまた神の使い……」

BGMが途切れるたびに、笑いと涙が入り混じる。
誰も勝てなくても、誰も嘆かない。
失敗こそが神の御技。

ファミコンの電源ランプがまた一つ、光を灯す。
次の挑戦者が歩み出る。
その瞳には――恐れよりも、遊び心があった。

芸夢様は静かに見守っている。
今日もまた、“散りゆく者たち”の勇気を讃えながら。

「さぁ、次なる挑戦者──その身に宿すは《光》か、それとも──」
サタヌスがすかさず前に出て、
手にしたカセットを高く掲げる。
「勇者だろ? RPGやれよRPG!っつーわけで──はい、FF1!!」
勢いよく、ガチャッ! と差し込む。
ファミコンがうなる。
「デッデデデデ……」という起動音が、まるで祭囃子のように響いた。

タイトル: FINAL FANTASY(初代)
試練の目的: 土のカオス《リッチ》撃破
条件: ノーセーブ・クラスチェンジなし
死亡許容: 最大3名まで(全滅=失格)
魔法制限: MPではなく使用回数制(原作準拠)

巫女が告げる。
「全滅は即、失格となります。」
「ただし、戦士は倒れても立ち上がる。最大三名までの死亡は認められます。」
ガイウスがコントローラーを握りながら、眉をひそめた。
「“全滅しなきゃいい”って……FFで一番キツいやつじゃん!!!」
メーデンは青ざめた顔で言った。
「まってまって、マジでキツくない!? ノーセーブでFF1とか普通に心折れるやつ…!」
ガイウスが神前の画面に向かい、静かに職業を選んでいく。
その手つきには、妙な慎重さがあった。
「戦士(自分)、モンク(前衛火力)、白魔道士(回復役)、赤魔道士(補助)。」
「おいおい、それ保守的すぎね?」
「うるせぇ! 俺は安全第一主義なんだよ!」

そして、スタートボタンが押される。
タイトルロゴの後、あの音楽が流れた。
ドットの世界が静かに動き出す。
勇者のシルエットが海を渡り、城下町を抜け、ダンジョンへと入る。
ティアが小さく呟く。
「勇者がゲームで神に挑むって……もはや神話の再来ね。」
レイスは煙草をくわえながら、
「リアル“ジョブ:勇者”が、ドットの勇者で何を見せるか──見モノだぜ。」

巫女の声がまた響く。
「戦いは祈り。祈りは再挑戦。芸夢様は、プレイヤーの決意を以って神託とする。」
ガイウスが無言でうなずき、十字キーに指を添える。
画面の中では、土の洞窟の入り口が闇に沈んでいた。
「……行くぞ。」
光の戦士たちが進み出る。
その瞬間、ブラウン管の光がまるで聖火のように彼らの顔を照らした。
試練開始。

ファミコンの画面には、くすんだ茶色の大地と、洞窟の入り口が映っていた。
挑戦者・ガイウスの顔には、明らかな疲労の色が浮かんでいた。
いや、ゲームの進行度より精神のライフゲージのほうが危険だった。
「……絶対むりだ……」
コントローラーを持つ手が震えている。
「だいたい俺、芸夢神にお祈りしなきゃいけないほどやらかしてない……」
サタヌスが、背後からガイウスの両肩をがっしり掴んだ。

「もうメルモンドまで来たんだろ!!?」
「お前、後はバンパイア倒してリッチ行くだけだぞ!!」
「あのトパーズぽいのが泣いてるぞ!!!」
トパーズ=土のクリスタルの色。
メーデンは客席から、冷静に解説モード。
「ちなみに、バンパイア戦で油断して白魔が落ちるとリッチ戦で詰みます」
「なんだその“事後アンケートで聞いてないと詰む”系情報は!!?」
巫女、真顔で頷く。
「……神の試練とは、すなわち“初見殺し”にございます。」

洞窟の奥、腐敗した大地。
不気味な音楽が低く鳴り響く。
パーティは松明の光を頼りに、地下へと進む。
白魔道士の魔法回数は残り2。赤魔道士のケアルはもう尽きている。
モンクの拳は血に染まり、戦士のHPは赤点滅。
観客の誰もが息を止める。
巫女の目が、ほんの少し輝きを増す。

「……この闇の奥に、土のカオス《リッチ》が眠る。勇者よ、光を再び掲げよ。」
暗闇に浮かぶ朽ちた神殿。
ドットで描かれたはずの空間なのに、
まるで現実の空気までざらつくような静寂が漂っていた。
不穏な8bitドラムが鳴り響く。
そのリズムが、挑戦者・ガイウスの心拍にぴたりと重なっていた。

「I AM THE ONE WHO FEEDS ON EARTH’S POWER──」
ブラウン管が、暗闇を裂くように白く輝いた。
目の前に立ちはだかるのは――土のカオス、リッチ。
無数の骨が融合し、歪んだ冠を戴いた死の王。
攻撃力・魔力・耐久、すべてが高水準。
しかも、即死魔法「デス」を持つ。
まさに、“初代”にして“神の試練”そのものだった。
サタヌスが身を乗り出して叫ぶ。

「見えた!! クリスタル!! もうすぐだぞガイウス!!!」
ガイウスがコントローラーを握り直し、歯を食いしばる。
「うるせぇな!! まだカオス1体目なんだよ!!!」
「そもそもノーセーブでここまで来た時点で地獄だっつーの!!」
メーデン、両手を組んで祈るように呟く。
「やだ……演出が完全にエンディング前……ヒカセン爆誕じゃん……」
ブラウン管の中、光の戦士たちが陣形を整える。
背景には歪んだ神殿の柱、そして中央には、赤黒く光る“土のクリスタル”。
その光を取り戻すための、最後の戦い。

「うおおおおおおおおお!!!」
「やってやるよ芸夢神……この手でクリスタルを輝かせてやるッッ!!!」
不協和音のようなドラム、画面の文字が点滅する。

「DEATH!」
白魔に命中。だが――奇跡的に耐える。
残りHPはギリギリ。
生存者、戦士と白魔道士の2名。
観客は息を止め、巫女は手を合わせて祈る。
「おい! もう一発いけ! いけぇ!!!」
「ガイちゃん!! HP見て!! HP見ろって!!!」
「黙ってろぉぉぉおおおお!!!」
会心の一撃が決まりファミコンのスピーカーが悲鳴のように震えた。
土のクリスタルが光り輝く――!!

「おぉぉぉぉぉおおお!!!勝った!!お前やったぞ!!!」
「ガイちゃんマジでやりやがったぁあ!!!」
「白魔残っててよかったぁあああ!!!」
巫女は神妙に目を閉じ、静かに告げる。

「……芸夢様も、きっとご覧になっていたことでしょう。」
「かつて“光の戦士”と呼ばれたその魂──真に輝いていました。」
「……もう、これでFFやらなくて済むよな……」
勇者がゆっくりと椅子にもたれ、息を吐く。
アホ毛は完全に地面につき、目の下にはクマ。
観客が総立ちになり、惜しみない拍手。

「ヒカセン!!!」
「あの勇者マジで光の戦士やん!!!」
「ちょっと泣いた!!!」
だが、その熱狂の中で――一人の声が響いた。
「……まだ三体いるはずですが」
メーデン、そっと視線を逸らす。
「マリリス以降は見ないことにしてください……」
会場爆笑。
巫女、苦笑をこらえながら神棚に一礼。
「芸夢様……本日の勇者、よくぞここまで耐え抜きました。
どうか次のセーブポイントまで、安らぎを。」

BGMが止まり、会場に静寂が戻る。
ブラウン管の中で、光のクリスタルが淡く脈動し続けていた。
神と人との戦いは、まだ終わらない。

–ブラウン管の輝きがゆっくりと消え、
神前に静寂が戻った。
会場は総立ち、拍手と歓声の嵐。
勇者ガイウス――その名が“芸夢大祭”の歴史に刻まれた瞬間だった。
巫女が厳かに宣言する。
「これにて──FF部門、“ノーセーブリッチ討伐”達成!」
拍手と電子音の祝福が混ざり合い、神棚のファミコンがまるで誇らしげに光を放つ。

サタヌスが満面の笑みでガイウスの肩をバシンバシン叩く。
「なぁ次はFF2やろうぜ! “たたかう”連打してHP上げるやつ!」
ガイウス、椅子の上で魂が抜けたようにうなだれる。
「……絶対やだ。やるならメルクリにやらせろ……」
誰も見たことはない。
だが全員、なぜか確信していた。
――あのメガネ神官は、絶対FF2がうまい。

巫女が最後に神前へ一礼し、結びの言葉を告げる。
「こうして──芸夢大祭、FF部門初の“ノーセーブリッチ撃破”達成者が誕生しました。」
「なお現在、“RPG神の試練”はFFII部門への挑戦者を募集中です!!」
ガイウス、両手で耳を塞ぐ。
アホ毛しなだれ、完全拒否の構え。
「聞こえませ~~~ん!!」
「クリスタルの加護が聞こえませ~~~~ん!!!」
こうして――芸夢大祭・FF部門は伝説となった。

ノーセーブで挑み、リッチを斃し。
神の前で本気で泣き、笑い、祈った勇者がいた。
ファミコンの中で光る“土のクリスタル”は、静かに脈打っている。
そして、芸夢様の御神託が響く。
「人生もまた──ノーセーブである。」