出会い編-家出仲間の絆 - 4/6

「ところでさ、さっきはありがとうね」
「…別に。見返りありそうからだし」
「ふぅん、素直ねあんた。誤魔化さないなんて」
確かに、こういう場はいつもなら嘘をつくのだがつかなかった。
勇者の時は思えば、こういう会話する時はずっと猫を被っていた気がする。
だが今はどうだ、不思議と嘘をつける気がしないのだ。何故だろうか?
そんなことを考えてるとルッツがこっちを向いてきた。

「ところで、私の名はヒスエルフじゃなくルッツよ」
「変わんねぇよ、さっきヒスってたじゃねぇか」
「じゃあ私もあんたはアダ名で呼ぶわ……鼻に傷があるからキズ野郎とかどうよ?」
「ハッ!そんなセンスだからいつまで経ってもヒスってんだよ、クソチビ」
こうして二人の奇妙な共同生活が始まるのだ。
距離自体はさほどでもないのだが、帝国がある大陸と。
アルキード王国がある島の間には運河があり、人間を運ぶついでに物資を運んだり。
逆に大陸から物を運ぶのに使われているため結構時間がかかる。
船の旅はそういうもの、船室内にも小説などが置いてあるので退屈はしない。

「ところでキズ野郎、あんたも家出?」
「家出?」
「だってなんか寂しそうな顔してるし」
「寂しそうな顔?俺が?」
確かに、自分は今退屈している。
だが家出とは違うはずだ、 自分には帰る場所があるのだから……。
「……俺は家出じゃねぇよ。故郷で色々あってな、 ほとぼりが冷めるまでの間旅をしてるだけだ」
そう、これはあくまで一時的なもの。だから家出ではない。
それにもうあそこは俺の居場所ではないのだから。
そんなことを考えているとルッツの腹が鳴った。
そうだ、もう12時じゃないか。

「腹減ったのか?」
「……うん、勢いで家出しちゃって」
「じゃこれでいいか?弟が兄ちゃんはよく食べるからってたくさん作りやがってな」
港に来るまで口寂しさから齧っていたショートブレッドがまだ半分ほど残っていた。
それをルッツに手渡すと彼女は嬉しそうに食べ始めた。
「ありがとう!う~ん……美味しい!」
「そりゃあよかった」
「あんたも食べる?私だけじゃ悪いから……」
「……じゃあもらうわ」
そう言って一切れ貰うが、やはり味気ない気がする。
だがこのショートブレッドは嫌いではない、むしろ好きな方だ。

(そういやロディの奴いつもコレ食ってたな)
ふと思い出すのは故郷の日々だ。
ロディは自分と違って素直だしいいヤツだが少し優しさが空回りする。
このショートブレッドも欲しいといったわけじゃないが。
「国外追放されたら故郷のお菓子も食えなくなるから」と持たされた。
(……こりゃあしばらく帰れそうにねぇな)
ふとそんなことを思う、まぁ国外追放処分が一週間其処らで解消されるわけがないだろう。
「だからさ、あんたも家出したんでしょ?私もついてっていい?」
「は?俺は家出してねぇ」
ルッツの突然の提案に思わず間抜けな声が出た。だが彼女はそれに気づかず続ける。

「似たもんじゃない。あんたといると面白そうだし」
「何勝手に決めてんだてめー!?」
「私もう決めたから。じゃ決定ね!」
ルッツはそう言って楽しそうにベッドに腰掛ける。
家出エルフに餌付けしたら。
何故か二人旅することになった、全くコイツは!と思うが同時に。
「どこにいって何をしたらいいか、わかんなかったし ま、いい……か?」
この不思議なエルフとの出会いが。
この先の運命を左右することになるとは、今の彼には知る由もない。

ルッツはサンドイッチをかじりながら、ジト目でガイウスを見た。
「ねぇ、あんたの“元勇者”発言、まだ信じてないんだけど」
ガイウスは肩をすくめる。
「嘘じゃねぇ。俺はもう勇者じゃない」
ルッツは即座に返す。
「魔王を倒したあとも勇者名乗ってたら、それこそ変人だろ。
だったら“自由剣士”とか名乗れば?」

軽口だが、その響きは妙にしっくりした。
ガイウスは苦笑しながら、空を仰ぐ。
「……自由剣士、ね」

—帝都近郊—

一方その頃、帝都へ向かう街道。
カリストは人だかりの前で足を止めた。
そこには、ぼろ布をまとった一人の冒険者。
「俺が魔王を倒した勇者だ」と吹聴し、安酒場の拍手を浴びていた。
その言葉を聞いた瞬間、カリストの表情が氷のように冷えた。

次の瞬間。
氷哭の刃が閃き、偽勇者の首が宙を舞う。
血飛沫が街道を染め、人々は悲鳴を上げて逃げ惑った。
カリストは血に濡れた剣を払い、吐き捨てる。
「……ガイウスを真似るなど、万死に値する」
ユピテルはその背後から現れ、肩をすくめた。
「相変わらず怒りっぽいなぁ、カリスト」
剣を収める彼を見下ろし、ユピテルは不敵に笑う。

「ま、いいさ。アイツは必ずまた出会う。
ザコどもと違って、“勇者様”は目がいいからな」
偽勇者の血を浴びたカリストは、なお息を荒げていた。
その白い軍服の袖に赤が滲んでいる。
ユピテルは懐から一枚のハンカチを取り出し、無造作に差し出した。
「ほらよ。汚れちまったな」
カリストは受け取り、無言で血を拭う。
ユピテルは空を仰ぎ、遠くの雲間に目を細めた。

「……だからこそ、今度こそ決着つける」
「魔王にも邪魔されねぇ、命賭けた死合でな」
深月城での一戦。
あのときは魔王の命令により、やむなく退却せざるを得なかった。
だからこそ、ユピテルはまだ“渇き”を抱えている。
彼の掌が愛刀「舞雷」の柄をトントンと叩く。
雷光がかすかに迸り、血の匂いを焦がした。

「次は容赦しねぇ。必ず首を落とす」
ユピテルの口元に、不敵な笑みが浮かんでいた。

—-

波に揺れる船の微弱な振動は、ゆりかごのように優しく身体を包み込む。
「眠れない……」
ルッツは揺れる船内に慣れず、眠れずにいた。
明日の昼には連絡船は大陸の玄関「港湾都市クードス」へ到着する。
キズ野郎……もといガイウスはというと、もう寝ている。
見る限り人間だ、多分。
多分と言ったのは、虹色の目をした人間なんて見たこと無かったからだ。
耳は尖ってないから魔族ではないのだろう。
少なくとも自分から言う程悪いヤツじゃなさそうだ。
意地が悪いやつだろうなとは、船員と腕相撲をしたとき「最初はわざと本気を出さずに」
「で、本気出したら勝っちゃった」というのをみたのでわかる。
だがそんな意地の悪さは嫌いじゃない、だって面白いから!

(……でもなんでだろう)
この男といるとなんだか不思議な気分になるのだ。
決して悪い気分ではない、むしろ心地よいくらいだ。
祖父と大喧嘩し、勢いのまま家出してきたときの荒々しさが嘘のように。
穏やかな気持ちになっている。
(……ま、いっか!)
ルッツはそう結論付け、ベッドに潜り込むとそのまま眠りについたのだった。