ロケパン署長 - 5/5

倉庫を改造した次元牢スタジオ、いわゆる〈D-ROOM〉の片隅。
アヴィドはスコーンをかじりながら、にやにやとした笑みを浮かべていた。
「ねぇ署長さん。ちょっとお願いがあるんだけどさぁ」
呼びかけられたリベリオは、書類を束ねていた手を止めた。
半眼で見上げる。警戒と呆れが半分ずつの視線。
「……今度は何ですか」
「署長さんの、子供の頃の写真とか、ないかな?」
軽い調子で言いながら、アヴィドはちゃっかりスケッチブックを開く。
ページの端には“Reibaaaaa!!! ジャケ案③”と殴り書きされている。

「はぁ……?」
リベリオの眉がわずかに動いた。
「私の、子供時代の写真が資料としてほしいと」
「うんうん。笑顔のとか、あったら最高なんだけど」
リベリオは無表情のまま立ち上がる。
その仕草は、呼吸一つ乱れぬほど静かだった。

「いいえ。そんなプログラムはされていませんでした」
それだけ言い残し、部屋の奥へと歩いていく。
数分後、薄いデータカードを手に戻ってきた。
「写真ならここに」
差し出されたそれは、まるで封印でも解くような重さを持っていた。
リベリオの声は低く、しかしどこか遠くの記憶をなぞるように震えている。
「……何を描かれるかは知りませんが、必ず返却を」

アヴィドは、ほんの一瞬だけ目を細めた。
「ありがと~。大事に使うよ」
暗い空。崩れゆく石柱。
破壊の中で、膝をついた少年がこちらを見つめていた。

天球崩壊日――。
それが、リベリオ・ククルスという存在を記録した、数少ない写真の一つだった。
アヴィドはしばらくモニターを見つめ、いつもの調子で笑う。
「うん……いいね」
その笑みは、ふざけたようでいて、どこか本気だった。
描く者の瞳にだけ映る、何かを見つけた顔だった。

次元牢食堂。
全灯が眩しいほどに灯り、普段は賑やかな囚人たちも。
このときばかりは静まり返っている。
魔王、囚人、看守、果ては医者に料理長まで。
全員がテーブルを囲み、中央の巨大モニターを凝視していた。

画面に映し出される、タイトルロゴ──
「Reibaaaaa!!! feat. Jupiter」
ノランがリモコンを高く掲げて、満面のギラつきスマイル。
「再生しまーす♡」
その瞬間、誰もがごくりと唾を飲んだ。

崩壊する天球、ロケットパンチのエフェクト、電光と爆発が交差する。
クェーサー閣下の伝説級“怒声”が、エレクトロのリズムに乗って食堂を揺らす。
ドロップと同時に吹き出す爆笑、机を叩く音、床を転げる囚人ズ。
だが、その狂乱の中で、ただ一人だけ必死に笑いを飲み込んでいる男がいた。
リベリオ署長――カップを握る指が細かく震え、
「ッ……クッ……」
目が泳ぎ、唇が引きつる。
「……あの瞬間を……MADにするとは……」

アリエッティが心配そうに覗き込む。
「署長さん……おなか、いたいの?」
リベリオは顔を横に振って必死に耐える。
「……い、いえ……堪えているだけです……」
だが、真の地獄はここからだった。

後半―アル・ダバラーンの演説がBGMとして流れ始める。
一瞬だけ空気が静まり、画面が切り替わると……爆音怒声で崩壊する天球、
SE:対艦砲級パンチ音、轟く爆発。
「閣下の声で世界が揺れた」

その瞬間、場の隅で声が漏れる。
「……アル……」
エリュシオンが凍りついたように呟く。
「……君は……この漫才集団に叛逆していたのか……」
魂の抜けた声で、そのままフリーズ。

ノランは大慌てでフォローに走る。
「違う!違うから!!アルは真面目だったよ!!!」
イグニスも「ごめんってエリュ姐!!こんなになると思わなかった!!!」と必死。
アヴィドは、もう次を見ている。
「サントラ出す?」
食堂に渦巻くのは、笑い、狂気、爆音、そしてなぜか尊さ。
最後には世界征服の夢と紅茶の香りが漂い、
怒声MADの試写会は、歴史的カタストロフとともに華やかに幕を閉じた。

試写会が終わり、
笑い疲れた若手たちは床に転がり、誰もが呼吸すら忘れていた。
食堂の照明が落ち着いた色に戻り、静けさが漂う。
そんななか、最後まで後方で映像を見ていたのは――医者と執事だけだった。
カドゥケウスが、まっすぐ前を見て一言。
「笑いは健康にいい。」
それだけを淡々と口にし、うなずいた。
まったくブレない。怖いぐらいにぶれない。

その隣、無言で紅茶を啜っていたクアザールが、ゆっくり口を開く。
「……本当に、作ったんですね。閣下の声で……」
目を閉じてしばし考えたあと、紅茶を一口。
「いや……しかし……曲として完成しているのが……批判し難いです。」
そして、静かに続ける。
「悔しいですが、音として“整って”いるんです。」
「リズム、構成、構図……クヴァル様、貴方は本当に……」

「音楽に関してだけは天才ですね。」
クヴァルは頭を抱えつつ「褒め言葉に聞こえねぇな!?」
ノランは肩をすくめて「でも事実じゃね?」
イグニスも苦笑いで「音だけ聞いたらマジでカッコいいんだよなぁ」
アリエッティはスコーンをつまみながら「でも内容聞くと胃が死ぬ……」
こうして、「Reibaaaaa!!!」は“健康に良くて完成度も高く、感情は死ぬ”という、
史上最強の認定を全会一致(?)で獲得した。

そして食堂。
カウンター越しにスコーンを並べているのは、女神――アマーリエ料理長。
この牢の真の支配者は、署長でも魔王でもない。「胃袋」である。
「おいクヴァル!次元牢のボスにも許諾取らなきゃいけねぇぜ!!」
その言葉に全員がぴしっと背筋を伸ばす。
「……料理長」
「見ていただけませんか……これが、我々の……怒声MADです……」

アマーリエはしばし無言。
スコーンを皿に乗せ、紅茶を淹れ、静かにひとこと。
「……お子様ランチがお似合いですと言った頃から……」
「進捗していないのですね、あの方は。」
「めちゃくちゃ遠回しにバカにしてるううううう!!!」
「でも否定されてない……?」
料理長は紅茶を一口、間を置いて。
「しかしその……とてもシュールで……いいと思います」

「っしゃあああああああ!!!!」
「料理長の首縦に振らせたら本物!!!」
「レイバー、見てるか……!全部無に帰したぞ!!」
「じゃ、スコーンパッケージにジャケ流用しよっか♡」
こうして――
Reibaaaaa!!! feat. Jupiter(怒声MAD)は。
医療・軍事・芸術・食・恋愛……全ジャンルに“許された”伝説となった。

地獄の試写会が幕を閉じ、
静けさがゆっくりと次元牢に戻ってきた――かに見えた。
だが、誰もが察していた。
ここは“終わり”など訪れない場所。
もう次の段階、すなわち「バズ投稿編」が始まっていたのだ。
「よっし……」
クヴァルがスマホを取り出し、指をパチンと鳴らす。
「全員の許諾得たし、今夜にでも“ニヤニヤ動画”に投稿するわ」
「あとD-Tubeにも上げとく。フルHD・高音圧ver.な」

ノランが嬉しそうに指を立てる。
「無断転載OK♡ 燃やせ燃やせ~」
「“レイバアアアア feat. Jupiter【鼓膜に優しくない】”でいこうぜ」
アリエッティはおそるおそる。
「タグに“爆音注意”つけてね……(震え)」

これで、すべての準備は完了。
星連に再び伝説級の怒声が響き渡る日は、もう目前だ。
そんなタイミングで、厨房の奥からアマーリエ料理長がひょっこり顔を出す。
「ところで……今夜、何がいいですか?」
「忙しくて……決め兼ねていた所で」

イグニスが即座に突っ込む。
「お前が忙しかったの、怒声MAD試写会のせいだよな!?」
だけど、みんなの笑いが弾けたあとの“空腹”には逆らえない。
イグニスは肩をすくめて答える。
「セルフ焼肉でいいんじゃね?たまには休めよ、アマーリエ。」

アマーリエは、ふっと柔らかく笑った。
「ふふ……ありがとうございます」
「じゃあ、食材だけ切っておきますね」
料理長が静かに厨房に戻る背中は、
どんな警備よりも、この牢の安心の象徴だった。

クヴァルがしみじみと呟く。
「……地獄と爆音と飯と、全部揃ってるな」
ノランも微笑む。「最高の動画サロンじゃんここ」
アリエッティはちょっと不安げに。
「見せちゃいけない人には……見せないでね?」
イグニスは苦笑いで「クェー本人?うん、許可したけど見せない方向でいこうぜ」

やがて夜は、焼けた肉の香りと。
スマホ画面の再生数カウンターが伸びていく音とともに、
ゆっくりと静かに、更けていった。

【深夜0:41】
とある大手Vtuberの配信アーカイブ。
数十万の視聴者が見守る中、
「太古の邪神がポゼッションしてたんすわ」
伝説級のクソ言い訳が、画面の向こうに響き渡る。

その瞬間、VtuberはLive2D越しでもわかる勢いで崩れ落ちた。
「ッッッだめッッ無理ッッッ!!!」
「これ本人も許可出してるってマジ?」
「製作者頭おかしくて最高www」
「次元牢ってなに!?どこの惑星の話!?!?」
──ネットは深夜に“爆音”で燃え上がる。

【一晩で再生数52万突破】
【トレンド入り:#レイバアアアMAD #対艦砲ロケットパンチ】
【検索ワード1位:レイバー 何した】

その頃、次元牢は別世界の静けさと焼肉の煙に包まれていた。
「おい、俺が育てた肉狙って食うのやめろ根暗!!」
クヴァルが牛タンを焼いている最中、アリエッティがハイエナのごとく横取りする。
「おいしい。」
まったく悪気なし。

イグニスはスマホの画面をスクロールしながら爆笑する。
「コメント欄“レイバー生きてたら心折れる”で埋まってるぞwww」
ノランは満面の悪い笑顔で、
「“音MADの最大被害者(物理)”ってタグにするなwwww」
アヴィドは新たな悪ノリ提案。
「今夜は記念で“怒声ホイップケーキ”でも出すかぁ〜♡」
アマーリエは呆れながらも、
「そのネーミングやめなさい、スイーツに謝って」
(でも内心、次のレシピ案を考え始めている)

全ては、一本の爆音と、肘のポーズから始まった。
いまや怒声は、銀河を越えてネットの海を爆走している。
画面の向こう、どこかで見ている霊体レイバーが、
「なんか……再生数が俺の死因バラす勢いで伸びてる……」
と静かに天を仰いだ。

ネットも地獄も、爆笑とカオスでつながっている。
そして、夜は更けていくのだった。

【検証結果】リベリオ署長、ロケットパンチ撃てる説
結論から言おう!──検証結果:100%!
撃てます!ていうか過去に撃ってました!!

【証拠その1】
レントゲン写真により、肘に分離射出機構が明記!
専門家カドゥケウス先生による診断「完全にロケットパンチ」
「ここが……肘関節スライド式の射出ユニットですね」
「魔界基準でも珍しいタイプです」

【証拠その2】
旧天球エリアに残る、壁・天井・配管を一直線で貫く破壊痕。
そしてクェーサー閣下による“大地震”級怒声記録が完全一致!
「被害範囲、直径1.8m。
構造物、物理的に“何かが突き抜けた”跡です」
──公式認定・天球崩壊事件。

【証拠その3】
録音データより、レイバー准将の供述(泥酔バージョン)
「その日ワイン3本空けてましてね~」
「息子の“ロケットパンチつけてください”が可愛くてですね~」

【重要】
現在も装備が稼働していた場合
威力=戦艦級対艦砲(公式記録で確定)
構えた瞬間、逃げろ。マジで。

【署長の言い訳抜粋】
「戦闘中に腕飛ばすなんて正気の沙汰じゃありませんよ」
なお、実際飛ばして天球を崩壊させた模様。

【最後に一言】
カドゥケウス先生:「笑いは健康にいい」